『それ町』で注がれていた視線の正体を、大童さんを見てやっと理解できた―― 『天国大魔境』石黒正数×『映像研には手を出すな!』大童澄瞳 特別対談(3/3 ページ)
出自が全く異なりながらも相思相愛ともいえる、二人のマンガトークをお届けします。
ベテランの領域にアマチュアの若者が到達していることが驚異
石黒:しかし、世間のみんなは、大童さんがどう凄いのか分かって『映像研』を読んでいるんだろうか……。俺はさっきからそれを言ってきたんだけど、大童さんは恐ろしいマンガ家である。みんなはわかってるのかな、この得体の知れなさ。
──マンガの文法に縛られない、ルールブレイカーな部分でしょうか?
石黒:そこが作品を作っているのか壊してるのかわからない部分かもしれない。大童さんが昔作ったアニメをTwitterにアップしてましたけど、『映像研』を好きなユーザーが「動画も作るんですね」って普通に見てるんですよ。「君ら、この動画のどこがテクニカルか、この凄さ、わかってる!?」って訊きたくなる(笑)。
石黒:俺はあれを見てぞっとした。宇宙服を着た人がふわって何もない宇宙空間に体を投げ出す不安感を動画にしてる。事故って回転している様子をカメラで内側から撮って、背景の方をグルグルとスクロールさせてピンチの動きを表現している。この演出の凄まじさ。ほとんどの人は、宇宙船といっしょに回ってる人を離れた視点から描くと思う。
あと焼き切って開けた穴からどう考えても積載量よりも多いものがどんどん出てくるシーン。あれで思い出したのが『カリオストロの城』で贋金を車からバーって撒き散らすシーン。どう考えても車の大きさよりも遥かに大量のお札が出てくるってやつ。
ああいうアニメーションを見て原始的に面白いと思う演出を、若いヤツが分解して消化して描いているって事実。恐ろしいですよ。
──その道ウン年のベテランアニメーターが到達する域に、アマチュアの若者が到達してしまっているのは驚異ですね。
石黒:そうそう。こういうのはプロのアニメーターになってから見える部分じゃないかな。
大童:そこは悔しさから始まっています。自分はアニメーターになりたかったんですけど、筆は遅いし、アニメに求められる絵の上手さもないから無理。そこから始めた動画制作だったので、あらゆる方面に対する怒りと悔しさが、あの動画に集約されています。
石黒:『映像研』を読んでいても怒りを感じるね。「こういう表現がある、でも俺は嫌いだから、こう描く」みたいな強い意志を感じる。
大童:それはありますね。
『それ町』の時に注がれていた視線の正体を、大童さんを見てやっと理解できた
──世間一般の読者は、大童先生のそういう凄みに気付いてないんじゃないかと。
石黒:エンタメなんだから、普通に面白い部分だけを受け入れる、それで良いと思うんですよ。でもプロとしては危機感を持ちます。あと世間が思っている25歳が影響を受けてしかるべきルートを、全然通ってない。そこが異形って俺が表現している所以なんですけど。
大童:王道を通っていないのは、親の方針でテレビ番組を見れなかった事が関係しているかもしれません。子供の頃から『忍者ハットリくん』や『ドラえもん』『風の谷のナウシカ』を毎日のように見ていました。『未来少年コナン』とか『世界名作劇場』『七つの海のティコ』のビデオを借りてきたり。
石黒:ほら、こんな25歳いないでしょ!? 俺らの世代か、もうちょっと上の世代ですよ。俺がリアルタイムで『世界名作劇場』を見ていて、そのために一週間頑張るみたいな中学高校時代だったから。
大童:小学校入学前に『第三の男』をほぼ毎日見ていて、それはさすがに異常だった自覚はあります(笑)。
石黒:影響を受けたコンテンツが普遍的かどうかは創作者にとって賭けでしかないんです。俺にとっての藤子・F・不二雄と大友克洋は、結果的に現時点でもコンテンツとして生き残っている普遍的なものだったんですけど、大童さんが影響を受けたコンテンツもそうだったんですよ。
大童:その後も姉の影響で『ふしぎの海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』『攻殻機動隊』を小学生の頃、熱心に見る日々でしたね。
──それらは今の30代後半から40代くらいのオタクが洗礼を受けている作品ですよね。
石黒:俺もずっと藤子・F・不二雄と大友克洋だけだったので、周りの友達が「かめはめ波ー!」って悟空の真似をしている時に、俺だけ(右の指を突き出しながら)「ドーン!」ってやってた。
大童:喪黒福造(笑)。
石黒:俺が『それ町』を描き始めてしばらくの頃に、なんだか妙に熱い視線が注がれているのを感じたんです。俺の年代なら当たり前に通過している『ドラゴンボール』とか『シティーハンター』だっていう時期に、藤子・F・不二雄と大友克洋しか読んでこなかった。
その歪なところを見られていたんだなっていうのを、今、大童さんを見ていてやっと理解できた。ああ、昔の俺はこういうところを見られていたんだなって。
──王道作品を通過して来なかったのには理由があるんでしょうか?
石黒:俺は一回ハマるととことん突き詰めるタイプだったので、まだ藤子・F・不二雄作品を読み終わってないうちから、次のテーマに移れなかったんですよね。全部終わったらみんなが読んでる作品を読もうかなと思っているうちに『AKIRA』を見てしまって、もうとんでもないインパクトだったので、王道とかそれどころじゃなかった。
大童:僕は王道を知らないことにコンプレックスを持っています。『ドラゴンボール』や『スラムダンク』の話が出てくる度に、「すいません読んでないんです」って負い目を感じるのはよくあります。
石黒:後から読んだらいいんです。マンガは読みたい時に読むのがいい。
石黒先生と大童先生が最近注目しているマンガ3選
──話が尽きないところ恐縮ですが、そろそろ時間も迫っていまして……(食事処に移動し、すでに合計で4時間が経過)。コミスペ!で毎回伺っている質問として、最近良かったマンガを教えていただけますか?
大童:『ヤオチノ乱』は、「時は平成末期」という良いフレーズではじまるんです。この平成末期という良いタイミングで(笑)。
絵柄がとても良くて、いわゆるドロンって煙で消えるタイプの忍者ではなく、現代に溶け込む忍者ものです。体術で人間を巻いたり、欺いたり、謎もあり、これから面白くなっていくであろうマンガなんですが、第2巻以降は紙媒体は未定で、電子書籍だけなんです。だからみんなにも読んでもらって、広まって欲しいです。
石黒:んーと俺は、『グヤバノ・ホリデー』を挙げます。初期のpanpanyaさんは雰囲気で読ませるタイプで、女の子が散歩していて変なことに興味を持って、ふわっと町に迷うみたいな感じだったんですけど、だんだん理屈がカチッとしてきてマンガ技巧に寄ってきたような気がする。今後どういう方向に行くのか気になります。
もう一つは『爆音列島』のリバイバル。元々「アフタヌーン」で掲載されていたのを「ヤングキング」で再掲載してるんですけど、あえて連載で毎回読んで楽しみにしています。
これがとんでもなく面白いんですけど、とんでもなく「アフタヌーン」じゃない。不良マンガのセオリーを一切踏襲せず、いろんな悩みや事件が同時進行するんですよ。そこがリアルで面白い。
自分より強い後輩が出てきたら、普通の不良マンガだったら倒すまでがワンセットの話じゃないですか。でもそいつには喧嘩で勝てないまま話が進むんです。15歳の少年の焦りと不安がすごくリアルに伝わってきて、めちゃ面白い。絵柄もポップなので、今読んでも昔の作品って感じがしないです。
対談を終えての一幕
──ここまで4時間以上話されて、大童先生に対する恐怖は払拭されましたか?
石黒:んー変わりはしない、やっぱり怖いし(笑)。4時間やそこら喋ったくらいでは底が見えない。大童さんに手を突っ込んだら、真っ暗で自分の手が見えなくなりそう、って闇に例えるのも失礼ですけど。光で眩しくて見えないのかもしれないけど。
大童:いえいえ僕は真っ黒です。学校の教師とか、ものすごい悪意だけで描けますから。「バカしか教師になれない」みたいに、唱えるだけで筆が動く(笑)。
石黒:あそこのやり取り、すごいよかった。お金儲けがなぜ教育的でないかってくだり。
大童:僕にとって学校の先生は敵で、大人ってそういうズルいところがあるよなって描きたくって。
──大童先生にとって、石黒先生の印象はどうでしたか?
大童:これが「マンガ家」の正体なのかって気づきを得ました。『映像研』はマンガの描き方を知らない前提からスタートして、マンガの文法を知らない状態が評価されたんだから、マンガの文法を守ったら、評価されなくなるんじゃないかっていう恐怖がずっとあったんです。
加えて、僕には一寸先は闇という感覚があるんですよね。これが手応えなのかと思った瞬間、手のひらを返されるんじゃないか。何が読者にヒットするのか、分からないんです。
でも石黒さんにお会いした結果、その恐怖が若干薄れました。石黒さんは実績を積み重ねてきた上で、作品をコントロールし自分のものにして描いている。マンガ家ってこういうことなんだって。
石黒:分かってるところもあるし、分からないところもあるし。ひとつ俺がはっきりわかっていたのは、紺先輩とエビちゃん(『それ町』のキャラ)を出すとみんなが喜ぶってこと(笑)。だから登場のタイミングは計算して、溜めて溜めて登場させることを心がけていました。
大童:なるほど、タイミングが重要ということですね!(笑) 今日はすごい楽しかったです。またどこかでお話させてください。
石黒:すごく緊張しました。次は対談とか関係なく、普通にアニメの話とか、いろんなことを二人で語りましょう。
──本日はありがとうございました!
(2019年3月某日。石黒先生の仕事場、食事処にて。)
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