「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」の展示終了に対し、日本漫画家協会が8月5日に声明文を公開。暴力行為の予告により展示物が撤去されたことや、政治的な圧力ともとれる発言が見られた経緯に苦言を呈しています。
あいちトリエンナーレは2010年から3年ごとに開催される、日本最大級の国際芸術祭。今年度は8月1日から開催されており、「表現の不自由展・その後」では過去に何らかの理由で展示ができなくなってしまった作品が選定されていました。
その中で、慰安婦問題を象徴する「平和の少女像」や、富山県立近代美術館事件を背景に作られた昭和天皇のコラージュ写真をガスバーナーで焼却する映像などの展示を巡り、撤去を求める声が過激化。3日には実行委員長の大村秀章愛知県知事が、安全な運営が困難になったことを理由に、企画展の中止を発表しました。
大村知事によると、展示会の元には「ガソリンを持ってお邪魔する」などと、先日京都アニメーションを襲った放火殺人事件を連想させる脅迫文も届いていたとのこと。また、河村たかし名古屋市長や一部国会議員から、展示物の撤去を求める抗議文などが寄せられていた件も物議を醸しました。
5日には大村知事が会見内で、「『この内容は良くて、この内容はいけない』ということを公権力がやるということは許されていない」「河村さんはまさに市長さんで、予算を出す、公権力を行使される方。公権力を持った方が『この内容は良い、この内容は悪い』というのは、憲法21条にいう『検閲』ととられても仕方がないんじゃないでしょうか」と、河村市長への批判を展開する異例の事態となっていました。
日本漫画家協会の声明では「表現の自由」を「本当に天邪鬼な代物」と形容しつつ、運用に困難が伴ったとしても「私たちの『知る権利』を照らす礎なのですから、痛みに顔をしかめ、鼻をつまみながらでも手を離すわけにはいきません」と、その重要性を強調。
さらに、「展示物に関して多くの意見や感想が飛び交う事こそ、表現の自由がうたわれている我が国の多様性を表すもの」であるとして、この一件が暴力による萎縮の前例とならないことを願うと締めくくっています。
日本漫画家協会の声明全文
「表現の自由」とは、本当に天邪鬼な代物です。大切に掲げ、しっかりとつなぎ止めようとする私たちの手を、時に鋭利な刃物のように、あるいは醜く腐臭を放つ汚物のように振る舞い、胆力を試してきます。しかし、それはもう一方で、私たちの「知る権利」を照らす礎なのですから、痛みに顔をしかめ、鼻をつまみながらでも手を離すわけにはいきません。
今回のあいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」において暴力行為の予告により、展示物が撤去されたことを残念に思います。展示物に関して多くの意見や感想が飛び交う事こそ、表現の自由がうたわれている我が国の多様性を表すものです。政治的な圧力ともとれるいくつかの発言も心から憂慮します。
意見や感想、自由な論争以前に、暴力に繋がる威嚇により事態が動いた事が、前例とならないように切に願います。
2019年8月5日
公益社団法人日本漫画家協会 事務局
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