「何言ってるか分からないけど面白い」が最強の記事 ねとらぼ編集部員に聞く「お前の原体験はなんだ」〜杉本吏編〜:ねとらぼの中の人インタビュー(2/4 ページ)
生粋のネット文章中毒者。
杉本:小学生のころだと、寺村輝夫の『ぼくは王さま』『かいぞくポケット』シリーズとか、柏葉幸子の『霧のむこうのふしぎな町』『天井うらのふしぎな友だち』とか、岡田淳の『二分間の冒険』とか。あの、俺、昔は「全ての本は面白いに決まってる」と思ってたんだよ。
――全ての、ですか。
杉本:そう。小学生のころに読む本って、学校の図書室とかで見つけたやつが多くって、そういうのって全部時間のふるいにかけられたものでしょ。昔から名作とされてきて、評価も定まってて、残るべくして残ってきたもの。
だから、どれも水準以上に面白い。推薦図書とか読めばちゃんと面白い。それで、「本って全部面白いんだなー」ってうたがってなかったんだよ。でもさ、ほんとは全然そんなことないじゃん。
――その通りだと思います(笑)。
杉本:それで初めて自分で本屋に行ってさ、なんか適当に選んで買って読んでみて、ショックを受けた(笑)。全然面白くないやつもあるんだと。そのへんから、自分の好みとか、面白いと思うものってなんだろう、みたいなのに自覚的になっていった気がする。
「テキストサイトを保存する癖があるから」
――読書の好み、今はどうなんですか?
杉本:それから変なSFとかミステリとかにもいろいろいったんだけど、今はそもそも読めてない。中3の夏にネットに出会っちゃったから。
さっきの「面白くない本もある」の話で言うと、ネットなんてもっと究極の玉石混淆じゃないですか。そのカオスみたいなのをずーっと毎日10時間以上、20年近く読み続けてて、気付いたら仕事にもなってた。だから一番の趣味は「ネット上の文章を読むこと」と言い切っていいと思う。
――前回のたろちんさんも言ってましたけど、杉本さんってテキストサイト世代ですよね。
杉本:そう。たろちんとは同い年だからいろいろとかぶってて、テキストサイト直撃世代。当時は「日記系」って言い方だったけど。
――当時どういうサイトが好きだったんですか?
杉本:めちゃくちゃあるよー。2000年から2001年くらいなんだけど、もうテキストサイト華やかなりし頃というか……。今活躍してる人で言うと「オモコロ」の原宿さんの「桃核」(「桃色核実験」の略称。現在は見られない)とか、「真顔日記」の上田さんのとことか……その頃のログを取ってあるんだ。
――え、データで持ってるんですか? 消えてるのも?
杉本:持ってる。全部持ってる。俺そういう癖(へき)があるから。
――癖って……(カメラマンと一緒にざわつく)。
杉本:だってみんなサイト消すんだよ! 就職とか身バレとか会社バレとか、節目節目で。2000年ごろにお気に入りだったサイトの過去ログは超いっぱいHTMLで持ってるよ。「デジタルの永遠じゃない性」が身に染みてるから、良いものは全部保存しちゃうんだよ。サイト構造ごとダウンロードしてるから、「今世に出されたら死ぬ」みたいな人はいっぱいいるはずだけど(笑)。
でも、さっき例に出した「真顔日記」の上田啓太さんは連載をやってもらってた時期があるんだけど、彼が高校生で自分は中学生のころから一方的に読み続けていて、30歳過ぎてから初めて連絡とって編集者とライターの関係になったから、一応仕事につながってる部分もある。
15年間個人ブログを読み続ける → 勝手に親戚のおじさん気分になる
――最近読んだ中で良かったネット記事はありますか?
杉本:それも本当にたくさんある。基本は個人のサイトが好きなんだけど、メディアで言うと「デイリーポータルZ」はやっぱりすごいじゃないですか。最近だと石川大樹さんの「子供が道で拾ったダイヤを本物か鑑定してもらう」はめちゃくちゃ良かったよね。
――あれはすごくハッピーな記事でしたね。
杉本:そう、世の中にプラスしか生み出さない記事(笑)。あとはベタだけど「電ファミニコゲーマー」の「ゲームの企画書」は全部すごいね。
――わかります。自分も今まで見たメディアの記事の中では、「ゲームの企画書」の鳥嶋さんの記事(【全文公開】伝説の漫画編集者マシリトはゲーム業界でも偉人だった! 鳥嶋和彦が語る「DQ」「FF」「クロノ・トリガー」誕生秘話)がベストかなと思ってます。
杉本:そうだよねぇ。自分にとってベストかどうかはわからないけど、あれは超絶ハイレベルな記事だね。
あとは更新停止になっちゃった「みんなのごはん」に森雅史さんが書いてるサッカーの連載があったんだけど、(更新停止が)惜しいですね本当に。9割はご飯と関係ない話をしてるんだけど、体裁を整えるためだけに「そういえば好きなメニューありますか?」とか聞いてる感じが好きだったんだよなあ……(笑)。
むしろ個人的な好みで上位に来るのはほとんど個人が書いた日記になっちゃうかな……。神戸市のサイトで平民金子さんが書いてた「ごろごろ、神戸」っていう連載があって、これもすごい好きで……。あと、あだちまる子(ねとらぼ生物部の編集部員)の日記も超面白いよ。
――(爆笑する)じゃあ後で読んどきます。
杉本:他にも、何の面識もない個人ブログの日記を毎日いっぱい見ていて、15年以上読み続けてるところもいくつかある。そのブログ、読み始めたころは小学生だった長男に最近子どもが生まれて、次男も結婚して、3歳だった長女は大学に入ったんだよ。勝手に親戚のおじさん気分だよ。
ねとらぼアンサー編集長・杉本吏に聞いた「オススメ個人ブログ記事」
- M17星雲の光と影 - 大江健三郎v.s.伊集院光
- 平民新聞 - 明るい部屋
- 傘をひらいて、空を - 作文が終わらない
- クマムシ博士のむしブロ - クマムシ集会・イン・パリ
- Culture Japan - 日本文化との出逢いが僕の人生を変えた理由
- 旦那が〇年間作り続けたゲームをプレイした同人嫁の雑記
- SOCIOLOGBOOK - 共有できないということをみんな知っている
- Web冷え汁 - 広島の祖父が言っていた謎の言葉「きががたかい」
- 冷凍食品を使ってつくる、エクストリーム系チャーハンのつくり方
「何言ってるかわかんないんだけど面白い」ってのが最強
――たろちんさんの話ともつながって来るんですけど、やっぱり記事も日記サイトも良いものがバズるとは限らないですよね。
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