「とにかくうたい文句と違う」 給与未払いの白鳥エステ、エステスクールでも問題が起きていた(3/3 ページ)
白鳥エステことHSbodydesignの問題点は、従業員の待遇だけではありませんでした。
井上弁護士の見解
――事前に提示したカリキュラムと授業内容が大きく違った場合、受講料の返金などを求めることができますか。
一定の要件を満たした場合、契約を取り消したり解除したりすることで、受講料の返金を受けることができると考えられます。
事前に提示したカリキュラムと授業内容が大きく違ったとき、消費者契約法4条1項1号に該当すると認められれば、契約の申し込みまたは承諾の意思表示を取り消すことができます。消費者契約法4条1項1号とは、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、「重要事項」について事実と異なることを告げ、それにより消費者が告げられた内容が事実であると誤認した場合、消費者は消費者契約の申し込みまたは承諾の意思表示を取り消すことができると規定した法律です。今回のエステに関する施術方法についてのカリキュラムは、この法律における「重要事項」に該当するものと考えられます。
そのため、実際に行う授業が事前に提示したカリキュラムとは違うにもかかわらず、それを知っていてカリキュラムを提示していたような場合には「重要事項について事実と異なることを告げる」に該当すると考えられます。
また、エステスクールの受講説明の際、「本スクールのカリキュラムです」と言ってカリキュラムを提示された場合、消費者はそのカリキュラムに沿って講義が行われるものと考えられるのが通常であり、「当該告げられた内容が事実であるとの誤認」をしたと考えられます。
このような場合、消費者は消費者契約法4条1項1号を根拠に受講契約の取り消しを主張することができます。この場合、受講契約は初めからなかったこととなるため、受講料については全額返還してもらうべきと考えられます。なお、受講した部分についての受講料については支払うべきとする考え方もあり、考え方が諸説分かれているところです。
――先方の都合で受講できなかった場合はどうでしょうか?
先方の都合で受講ができなかった場合は、エステスクールには授業を提供するという債務についての不履行が認められ、債務不履行責任(民法415条)を負うこととなります。
この場合、受講者はエステスクールに対し、契約の解除(ないし一部解除)、損害が生じていた場合、損害賠償請求(民法415条)をすることが考えられます。
提供することができなかった授業の当該カリキュラムの中で占める割合、重要性など個々の事情にもよりますが、通常は受けられなかった部分の授業料相当額についての返還を求めることが考えられます。
なお、受講契約の性質上、カリキュラムや授業内容についてはエステスクール側に一定の裁量があるため、一部の授業が提供されない場合であっても、補講などの代替手段やその後のカリキュラム変更での対応等がなされた場合、上記債務不履行があったとは認められない場合もあります。
――今回のエステスクールはクーリングオフの対象になるのでしょうか。
今回のケースでは、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」といいます)48条が関連しそうです。
同条では、特定継続的役務提供に関してクーリングオフを規定しています。ただ、同条によりクーリングオフが可能な役務は7種類に限定されています。エステ、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービスです。本件のエステスクールは、上記7種類のいずれにも該当しないものと考えられ、同条によるクーリングオフはできないと考えられます。
また、エステスクールがその後エステティシャンとして働いて稼げるというところまで含めた契約とは考え難く、業務提供誘引販売契約の解除(特定商取引法58条)による解除もできないと考えられます。
――サポートセンターの回答は妥当なものなのでしょうか。
サポートセンターからの回答を拝見する限りでは、スクール側の主張に沿った回答としては不当なところはないと考えます。ただ、あくまでエステスクール側の見解に沿って回答されたものであるため、この回答が法的な主張として認められるかについてはさまざまな事情により変わってきます。
終わりに、今回の問題を考えるにあたっては、エステスクールとその受講生との間の受講契約という法律関係と、エステ会社とその従業員との間の労働契約という法律関係とは、基本的に別個の法律関係であり、相互に法的な影響を及ぼすものではないという点に留意する必要があります。また、具体的な事情がさらに明らかになることにより、それぞれの法律関係において主張できる内容も変わる可能性があります。
いつ問題は解決するのか
以上のように、法律上は受講料の返金を請求することができる可能性があります。また、事情によっては、クーリングオフの対象になると判断されることもあるようです。
しかし、「繰り返しメールをしたり問い合わせをしていますが、8月から電話での受付を終了しており、消費者センターから電話などができない状態になっています。ほかの弁護士などからも問い合わせの電話があったようなので、そちらを避けるために電話を廃止したのではと思っています」(Aさん)という証言もあり、対応を求めることが困難な状態です。白鳥社長のTwitterも、8月1日以降更新が止まっています。
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