アパレル企業で働きながら、ゲイである自身の体験を描いたエッセイ漫画「あさな君はノンケじゃない!(※)」(著者:あさなさくまさん)。ほっこりエピソードを通じてゲイの日常を描き、Twitterやピクシブ上でも反響を呼んでいる同作の誕生秘話や見どころについてあさなさんにインタビューしました。漫画本編もあわせて掲載します。(聞き手:佐藤星生)
※ノンケ:異性愛者のこと。同性愛者、特にゲイの立場から用いられる語として知られる
漫画「あさな君はノンケじゃない!」とは?
あさな君は、アパレル会社に勤めるごく普通のアラサー男子。ひとつだけ違うのは、ゲイであること――。2017年に開催された第2回ピクシブエッセイ新人賞受賞作品。あたたかく、少し切ない。今どきアラサーゲイの日常を描くコミックエッセイ。
自分の性のあり方の、母へのカミングアウト、初恋の男の子の想い出、そして運命の人との出会い。ノンケ(異性愛者)では味わえない日常や過去の思い出を優しいタッチと言葉で描写しており、これまでセンセーショナルに描かれがちだったゲイ関連作品とは一線を画した内容に仕上げています。
著者プロフィール:あさなさくま(Twitter:@sakuma_asana/pixiv:あさな さくま)
漫画家・イラストレーター。アパレル企業でデザイナーとして働く傍ら、Webメディアを中心に創作活動を行う。「あるある!」と共感を呼ぶ作風だけでなく、そのファッション描写にも注目が集まっている。
その他の一部エピソード、購入先などはWebマンガ誌「コミックエッセイ劇場」に掲載されています
―― 高校1年生にしてロリータ服にチャレンジしたということですが、男の子っぽいアイテムやファッションには興味がなかったのですか?
もともと子どもの頃からいろいろなものに興味があって、「ドラゴン」や「よろい」といった、いかにも“勇ましい”ものが大好きだったんです。でも同時に「宝石」や「ドレス」など、きらびやかなものも好きで。
子どもって「これは好きになるべきじゃない」と自分で判断しないじゃないですか。周りの大人に「女の子だから」と仮面ライダーを見せてもらえなかったり、「男の子だから」とシルバニアファミリーを買ってもらえなかったり。そこを、うちの両親は強制しなかった気がします。だからピアノの発表会で、女の子のドレスを見ていたら「フリルやレースがかわいい!」と自然に興味を持ってしまったり。
―― 興味を持ったのが偶然そういう方向性だったということですね
そうですね。しかも逆にその女の子自身はフリフリしたものが嫌いで、ドレスなんか着たくなかったりするんですよね。
誤解のないように説明すると、「ゲイ=女装」という因果関係は存在しないんです。性別による服装の枠組みを超える、という感覚は誰でも持つ可能性があって……例えば、一部の女の子がガーリーとマニッシュを当たり前のように使い分けるのも、その一種のように思います。
―― ファッションは自由ですものね。確かに深田恭子さんのロリータ服姿がめっちゃキュートだった映画『下妻物語』は、常識なんか吹き飛ばすパワーがありましたね
映画を見たときに衝撃を受けましたね! 私服としてこんなにかわいい服が売っているんだ……とびっくりして。すぐ「買うしかない!」と、映画に出てきたブランドに駆け込んだことを覚えています。といっても1着数万円とかなり高い服だったので、バイトを頑張って(笑)。
―― 実際に友達とお出かけしたエピソードもありましたね
クラスメイトにビジュアル系が大好きなバンギャの子がいたんです。その頃は、人気のビジュアル系バンドには“女形”のメンバーがいて、ロリータを着ていることが多かったので、その友達との間では「当たり前のこと」でした。一緒にお店に買い物に行ったり、外で着て遊んだり、楽しかったですね。
でも成長期ど真ん中だったので、どんどん大人の男性らしく変わっていく自分の姿を見て「理想像とだいぶ遠いな」と感じはじめて、着るのをやめてしまったんです。
今だったらメイクを研究したり、理想像に近づけようとあらゆる努力をすると思うんですが、当時はまだ子どもだったしお金にも限界があった。服は一部は売ってしまいましたけど、お気に入りのものはまだ大事に保管しています。
―― そんな経験が今のアパレルのお仕事にもつながっているのでしょうか?
今お仕事で関わっているのはカジュアルなブランドですが、商品を見て「こういうコーデがかわいいかな」と考える楽しみは同じですね。暑い日は「さわやかな麻混のワンピースが着たいな」とか、真冬に「今日はヴィンテージっぽいフェイクファーコートの気分だな」とか、自分ごとのように頭に思い浮かべながら仕事しています。
―― 漫画では、ロリータ服を保管していたことがお母さんにバレてしまったエピソードがありましたね
同じ家で暮らしていて、バレないはずがないんですよね(笑)。それをきっかけに問い詰められて……。ノンケぶることに疲れて不登校になりかけていた時期だったので、グサッときましたね。
「あの服は好きだから着てるだけ」「女の子になりたいわけじゃない」「でも男の子が好きってことは……」と自分でもわけが分からなくなってしまって、それを泣きながら伝えました。
―― そういった服装と性的指向と関係ないということでしたが、あさなさんの場合は性的指向をカミングアウトするきっかけになったんですね
そうですね。それで部屋から出ることすらできなくなった僕を見かねて、母は知識がないながらも、セクシュアルマイノリティーの分野で有名な先生がいるというメンタルクリニックを調べてくれて。「何か救いがあるかも」と、二人で話を聞いてみることにしたんです。
ただ、セクシュアリティは第三者が決めるものではないので、先生には「思春期に一時的に同性を好きになることもあるし、断言はできません」と言われただけでした。隣にいた母がそれを聞いて「よかった!」と安心したのが、当時の僕にはショックでしたね。
―― お母さんは一生懸命動かれましたが、あさなさんの全てを理解するところまで達するのには時間がかかったということですね
親だって、自分なりの価値観を持った人間ですからね。例えば母は、僕に一般的な男らしさを押し着せず、お人形遊びなんかも笑って見てきたけれど、「男が好きであること」は想像していなかったし、受け入れられなかった。「好きなように生きて」とは言ってくれましたが、今でもゲイというセクシュアリティを100%理解してはいないはずですし、それが当たり前だと思います。
ドラマや漫画には「完全に拒絶する親」か「あっけらかんと受け入れる親」のどちらかが主に出てきますが、白黒はっきり分かれないのが人間だと思うんです。今は親子としての表面的な関係は今まで通りだけど、そこには暗黙の了解がある……という感じですね。カミングアウトはその一瞬で終わるのではなく、長い時間をかけて前に進んだり、ときには逆戻りしたりするものだと思います。
(続く)
本企画は全6本の連載記事となっています
- (1)あるLGBTが思う、よくある質問「彼女いるの?」の難しさ
- (2)ゲイだからこそ「飲み会の男同士のキスコール」で傷つくことも
- (3)プールの授業が苦手なLGBTの生徒のために体育教師がついたウソ
- (4)ゲイの息子と母親のカミングアウトの「リアル」
- (5)「実際のゲイ」と「ゲイのイメージ」が合致しない理由
- (6)あるLGBTカップルの“普段のデートの仕方”
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