唐突に始まった不定期連載「どうかしているゲームの世界」(連載一覧)。ここではライターの文章書く彦(@waniwave)さんがピックアップした、珠玉の「どうかしているゲーム」を気まぐれに紹介していきます。第1回は1999年発売のこのゲームから。それでは書く彦さん、どうぞ。
本当にいいゲームです
「せがれいじり」は本当にいいゲームです。本当なんです。
確かに私はうそをついたことだってあります。子どものころから今に至るまでずっと誠実に、かつ、正直に生きてきたとは言い難いかも知れません。だから「信じられない」とあなたが思うのだとしたら、それは、むしろ正常な判断であるといえるでしょう。
でも信じてください。本当なんです。疑われるのは承知の上で、いまこうやって話してるんじゃあないですか。確かにあなたの言う通り「せがれいじり」が発売されたのは1999年です。ハードは初代プレイステーションです。今から20年も前のゲームですから、今更わざわざ取り上げて大声で宣伝するようなものではないように思えるのも当然のことです。でも、私はできるだけ早く伝えなくてはならないのです。「せがれいじり」がどのようなゲームなのかを。
ひとまず簡単に全容を説明させてください。大丈夫。それほど込み入った話ではありません。「せがれいじり」とはせがれをいじって大きくするゲームです。何やら卑猥に感じられるかもしれませんがまったくそんなことはありません。あなたの心が汚れているだけです。「せがれ」というのは主人公の名前です。何らかの比喩や象徴などではなく、固有名詞なんです。
せがれの頭は矢印ですが、それは「サナギ」だからです。とても虫には見えないのですがいきなりサナギという言葉がでてくるのは恐らくユーモアだと思うので笑っておくのがいいでしょう。
ではなぜ、せがれをいじって大きくする必要があるのでしょう。せがれはある日「むすめさん」に出会い、恋をします。せがれの妄想はムクムクと膨れ上がり(比喩です)、パンパンに張り詰め、怒張し、赤黒くなって(比喩です)とうとう我慢ならなくなったので、ママに「あのことラブラブになりたいなぁ」と相談します。母親に相談するなんてかわいいですね。非常にほほえましいし、癒やされます。
するとせがれのママ(キリンです)は「おおきくなったらネ」と答えます。そう、だから大きくしなくてはならないのです。ヒロインをモノにするために奮闘する話というのは普遍的なものですし、母親がキリンの場合も多いですから、普通の人間であれば恐らくかなり共感できる導入部なのではなかろうかと思いました。「いいゲーム」の定義は人それぞれですが、「誰にとっても共感できる」というのはその基準のうちの一つですよね!
「いじる」といっても最初はどうやるのか分からない……と不安になるかもしれません。男のコなら誰もが経験することですね。でも大丈夫、このゲームには親切なチュートリアルもついていますし、なにせいじるのはそんなに難しいことではありません。
「せがれいじり」の世界にあるオキモノとよばれるなにかに近づいて◯ボタンを押して調べるというだけです。新しいものを調べると、経験を積むことになるので、当然大きくなります。
ちなみに、大きくなるのはママです。せがれではありません。
さて、「せがれいじり」ではオキモノを調べると大抵の場合作文を作ることになります。例えば最初のオキモノでは「ママの/せがれの/ラブラブの」と「むすこ!!/むすめ!!/う*こ!!」を組み合わせて「せがれの むすこ!!」や「ラブラブの むすめ!!」「ママの う*こ!!」といった文章を作ることができます。そして、作文が完成すればその作文に沿ったCG紙芝居/ムービーが流れるわけです。
また、何回かそうやって文章を作っていると新しいオキモノが世界に生成されるので、それを調べるとママが大きくなり、ママが一定まで大きくなると「のりもの」が増え、「のりもの」が増えると世界に行ける場所が増え、場所が増えると新たなオキモノを調べられるようになります。斯様に、全ての要素が密接に絡み合っており周到に構築されたゲームであるといえるでしょう。いえるんです。
最初の「のりもの」はくだんです。牛の身体に人間の頭という恐ろしい見た目をしていますが口調から察するに多分気のいいやつです。あんまり詳しくは知りません。くだんに乗ることでせがれは「山」の地形にアクセスすることができるようになります。こうやってゲームを進めていくことでどんどんとママが大きくなり新たな乗り物が増えるので、空中や地中、最終的には宇宙などにも行くことができるようになります。宇宙に行ってもやることはあんまり変わらないのですが……。
さきほど「オキモノを調べると大抵の場合作文を作ることになります」と、書きましたが、そうでないオキモノもあります。例えばミニゲームを遊ぶことができるようなオキモノもあり退屈しませんよ! 最初に出会うミニゲームは「インベダンペイ」で、インベーダーゲームと丹下段平を混ぜたすごいゲームです。当時から既に「あしたのジョー」はかなり古いマンガでしたから、子どもたちはさっぱり何のことやら分からなかったことだろうと思います。実際僕も子供のころは分からず、今やってようやく分かりました。「インベーダー」と「丹下弾平」だと「ん」と「だ」しか合ってない。
というわけで、ここまで読んできた聡明な読者諸君であればお気付きのことであろうと思われますが、「せがれいじり」は全体的に極めてナンセンスな「完全に狙って作られたバカゲー」です。くだらないギャグやCGの数々は「ウゴウゴルーガ」のCG作家として知られる秋元きつね氏によるもので、今の感覚で見ても画面のつくりやフォントなどがオシャレに感じられるのは氏のデザインセンスの為せる技でしょう。
ちなみに結構売れたらしくなんとPS2で続編である「続せがれいじり 〜変珍たませがれ〜」も出ています。そういうこと全部分かって遊ぶなら良作だと思いますし、最近こういう「どうかしている」ゲームはめっきり減っている印象もあるので、興味のある方は過去に立ち返って遊んでみると面白いかと思います。僕もこの機会に再プレイしてみて普通にめっちゃ面白かったです。本当にいいゲームですよ。
本当にいいゲームです。
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