eスポーツ大会、優勝賞金500万円が10万円に JeSUに批判が集中した「賞金490万円減額問題」の争点を解説(2/2 ページ)
「何のためのプロライセンスなのか」「なぜ中学生だと賞金を受け取れないのか」などネット上で不満が噴出。
今回の「最大の問題」は何だったのか
―― 今回の騒動を総括して、何が問題だったと思いますか。
岡安:今回の問題点は、まずJeSUがTGSの初日(9月12日)にプロライセンスがなくても賞金を出せることが分かったという発表をしたところから始まります。自分の記事で恐縮ですが、こちらに詳細をまとめています(関連記事:eスポーツの高額賞金問題がひとつの帰結を迎える【TGS2019】)。
岡安:要点だけ説明すると、JeSUが消費者庁に問い合わせたところ「興行性があるeスポーツイベントは、それだけで仕事として認められる(景表法に抵触しない)」という回答があった、というものです。これは私も2018年に電話で消費者庁に取材し、直接言質をとっています(関連記事:eスポーツの高額賞金、阻んでいるのは誰か)。
イ. 賞金の提供先をプロライセンス選手に限定しない大会
所定の審査基準に基づいて大会等運営団体から審査を受けて、参加資格の承認を受けるといったように、一定の方法により参加者が限定されており、仕事の内容として、高い技術を用いたゲームプレイの実技若しくは実演又はそれに類する魅力のあるパフォーマンス(芸能人やスポーツ選手等、著名人が参加する大会のようにゲームプレイ自体に魅力がある場合も含まれる。)を行い、多数の観客や視聴者に対してそれを見せ、大会等の競技性及び興行性を向上させることが求められている場合には、これらの大会への参加者は、仕事として、ゲームプレイを行っているということができる。すなわち、これらの参加者に対する賞金の提供は、「仕事の報酬等」の提供であると認められるため、景品表示法に違反しない。
(JeSUによる報告記事より当該部分を抜粋)
岡安:そもそもプロライセンスは、eスポーツ大会の賞金を「景品」ではなく「仕事の報酬」とするために必要なものとされていました。それが「興行性があれば、プロアマ問わず賞金を出しても景表法に違反しない」と後から消費者庁が言ってきたわけです。
しかし、多くのJeSUに参加しているメーカーは、「プロライセンスがあるから賞金が払える」という解釈をかたくなに守ってきました。そのあたりは大人の事情もあるでしょうし、JeSUに参加する以上、それを重要視するのは仕方ないでしょう。ところが今回、JeSUはライセンスについて「必ずしも賞金を得るために必要なものではない」と明言した。そのため、カプコンがそれに呼応せず、以前の要項を守っていることに矛盾が発生してしまったわけです。これではカプコンが、JeSUとは無関係に、自分たちの都合で賞金授与を拒否したようなものです。
―― 消費者庁見解が出た段階で、カプコン側に「10万円の制限を取り払う」という選択肢はなかったのでしょうか。
岡安:選択肢としてはあったと思います。ただ、JeSUはあくまで指針を示しただけで、参加メーカーに強制する力はありませんから、最終的にはカプコンの判断次第です。
―― 消費者庁の回答が9月3日、今回の大会(決勝)が9月14・15日ですから、土壇場で規約を変えるのは難しかったという可能性は?
岡安:それは考えましたが、JeSUがノーアクションレターの問い合わせ結果を、JeSU参加のメーカーに通達していなかったとは考えにくいでしょう。2月に行われたEVO Japanでは、ブランカのバグ技発覚から2日で使用禁止のルールを追加しています。今回の大会も、特に第三者の企業が関わっているわけではありませんし、急きょ規約を変更することはできたはずです。
―― 現状ではプロライセンスについて「不要になった」といった意見を多く見ますが、このあたりはどうでしょう。
岡安:JeSUの岡村(秀樹)会長によると、賞金受け取りの条件以外に、ライセンスは一種のステータスになっているという話でした。先の記事にも書きましたが、例えばプロライセンスがあるかないかで、チームの認知度やイベント、配信の集客数などが変わってくるそうです。そういった意味では、プロを目指すプレイヤーの中にも、ライセンスに魅力を感じている人はいるようです。
―― 消費者庁の見解を見ると、「興行性がある」という大会条件を満たさない場合、引き続きプロライセンスによる判断が有効なケースもあるように感じられます。ここでいう「興行性がある」という条件について、これを満たすのは比較的容易なのでしょうか。
岡安:「興行性」については、あいまいな点は残っていると思います。ただ、大会の様子を不特定多数に配信したり、オフラインで会場に客を入れるといった行為が既に「興行的」だともいえます。
―― 配信やオフライン観戦があれば「興行」として認められるとなると、かなりの大会が「興行」の条件はクリアできそうですね。
岡安:そうですね。ただ、その場合は大会を運営するにあたり、メーカーの許諾が必要になってきます。今のところ、営利目的で大会を開くことはどのメーカーも認めていないと思いますから、有志で賞金付き大会を開催するのは難しいかもしれません。
―― 今後JeSUやメーカーはどうしていくべきだと思いますか。
岡安:最大の問題は、法律うんぬんよりも、観客やファンにどう思われるかだと思っています。法律を優先し規約を守ったカプコンと、ライセンス制度に異を唱え、賞金を受け取れなくなることを承知でライセンス取得を拒否したももち選手。構図だけ見れば、ももち選手が我を通そうとしただけのようにも見えますが、実際には多くの人が、JeSUやカプコンに対して悪い印象を持ってしまっています。
ゆわ選手についても同様で、ゆわ選手も賞金がもらえないことを承知で出ているはずですが、結果的にゆわ選手が優勝してしまったことで「ガンホーひどい」になっているわけです。これならまだ、規約でジュニアライセンスでは出られない決まりにする方がよかった。
そもそもライセンス制まで作って高額賞金を出せるようにしたのは、eスポーツの魅力を増やし、日本でeスポーツをもっと普及させることでした。それが逆にイメージを損なってしまっては意味がない。今回の件がeスポーツにとって本当に良かったといえるのか、原点に立ち返って考えるべきだと思います。
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