今のギャグ漫画は「テレビを基準にするやり方だとちょっとまずい」――『トマトイプーのリコピン』大石浩二に聞く、「面白かったね」で終わらない方法(6/6 ページ)
「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第99回。
影響を受けた作品
――ここからは作品から少し離れて、先生自身のことについておうかがしたいのですが、まずは漫画家を目指されたきっかけを教えてください。
昔から4コマ漫画とかを描いてはいたんですけど、本格的に漫画家になろうとまでは考えてなくて。大学の授業中によく4コマを描いて隣の人に見せてたら「面白い」って結構いわれたんで、「そんなに面白いんならプロになれるかな」って調子に乗って、福岡でやってたジャンプのスカウトキャラバンに持って行ったのがきっかけですね。
そのあと1年くらい編集部とやりとりしてたんですけど、急に「ジャンプ」で代原(代理原稿)が必要になることがあったんです。当時ギャグ漫画はパッと載せられるっていうことで「ちょっと描いてみない?」っていわれて描いたものが運良く載って。代原のギャグ漫画って大体、読者アンケートの最下位なんですけど、そうでもなかったらしくて、じゃあ増刊でもやってみようかと。
――そこから連載につながっていったんですね。やっぱり昔から漫画がお好きだったんですか?
昔から読んでましたね。と言っても、マニアックなのじゃなくて『ドラゴンボール』とか『スラムダンク』とか、みんなが普通に読んでるジャンプ作品が基本で。今の若い子は分からないですけど、あの時代って「ジャンプ」が話題の共通項だったじゃないですか。「水曜日のドラゴンボールが野球で中止になった」とか、「ナメック星の5分が長い」とか。
――同世代なので分かります(笑)。影響を受けた漫画家さんや漫画作品ってありますか?
ギャグ漫画で言うと、やっぱり『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!! マサルさん』のうすた京介先生がすごく衝撃でした。『マサルさん』より前に描かれた読み切りを読んで「この人、面白い漫画描くなあ」って。「ジャンプ」みたいな少年誌のギャグって、それまではコメディ要素が強かったんですね。青年誌ではネタ要素の強い作品もあったんですけど、あんなにネタ要素の強いギャグ漫画を「ジャンプ」でやるっていうのが斬新というか。それまでコミックスでギャグ漫画って買わなかったんですけど、『マサルさん』からはギャグ漫画を買うようになりました。
そこから先の直接的な影響だと『幕張』の木多康昭先生ですかね。『いぬまる』を始めるときに、うすた先生が『ピューと吹く! ジャガー』を連載されてたんで、その方向性でぶつかっちゃうと跳ね返されて絶対に勝てないし、別の方向性ということで、どちらかと言うと木多先生の方向だったかもしれないですね。あと、絵やギャグのテンポなら「ヤングキング」で連載されていた吉本蜂矢先生の『デビューマン』にすごく影響を受けてます。
――漫画以外の作品ではどうですか?
ヒットした映画なんかは大体見るようにしてます。小説だと、ホラー作家の小林泰三さんの作品は毎回ビックリするオチになってて、構成の参考になりますね。ホラーなのに1ページ目に答えがあったりとか。
――最近読まれた中で、おすすめの漫画ってありますか?
最近でもないんですけど、森田まさのり先生の漫画が好きで、今だと『べしゃり暮らし』とか。あとドラマにもなった『宇宙を駆けるよだか』の川端志季先生の作品も好きですね。
「面白かったね」で終わらない方法
――なるほど。そして、いよいよ最後に「リコピンのこれから」についてお聞きしたいのですが、どんな感じに展開していくんでしょう?
「講談社見学」回もそうなんですけど、SNSで話題になってもそこで止まっちゃって、それがきっかけでみんなが『リコピン』を読みだすようになるとか、コミックスがすごく売れるとか、そういうわけでもないんですよ。
――えっ、そうなんですか。
人生をかけて今までで一番面白いネタが描けたとしても「面白かったね」っていわれて終わっちゃう気がする。だからたぶん、根本的にやり方を変えないとダメなんじゃないかなって最近は思いますね。普通だったら新キャラが出てくるとかなんでしょうけど、『リコピン』はそうじゃないと思うんで。
――やり方を変える、ですか……。
例えば、海外のクリエイターズトイの世界だと、まずキャラクターのフィギュアを出して、そこから人気が出てきて漫画化するとかあるんですよ。『リコピン』も最初に企画してた段階では、キャラ先行でもいいんじゃないかって思ったんです。「ジャンプ」だけじゃなくて、「週刊ヤングジャンプ」とか「週刊プレイボーイ」「non-no」みたいな女性誌にも1ページずつ載って、「何かこのキャラ最近よく見るよね」っていわれたら、「漫画が面白い」じゃなくても勝ちだなっていう。
だから、もうちょっとリコピンのグッズとか出してほしいんですけどね。サンリオみたいにグッズから入って「こんなのあるんだ」っていう。マンガを読んでキャラを好きになってもらってから、そのキャラグッズを買ってくださいっていうのが「ジャンプ」のやり方だと思うんですけど、その逆でやってほしいんですよ。僕は漫画を描くことしかできないんで。
――今日先生が持って来られたリコピンのぬいぐるみみたいなグッズがもっと増えるといいですよね。ちなみに、これって売ってないんですか?
これは読者プレゼント用に100体くらい作ったんですよ。
――(ぬいぐるみを触りながら)これ、すごくよくできてるじゃないですか。普通に買いたいんですけど、市販する予定ってないんですか?
今メルカリとかで何万円にもなってて貴重なんですよ。(中路氏に向かって)市販してくださいよ。
(※中路氏、特にリアクションなし)
――では、今後の展開っていうのはストーリーにとどまらず、キャラグッズを含めたもっと広いものを考えておられるということですね。
「いちおう漫画もあるよ」って言うか、どっちかって言うと「漫画はもう別にいい」みたいな。好きな人には漫画を読んでほしいですけど、LINEのスタンプとかサンリオ的な売れ方をしてほしいです。
――いいですね。リコピングッズをどんどん広げて、まんまとやられる人を増やしていきましょう(笑)。最後に、本当に毎度ベタな締めで恐縮なんですが、『リコピン』の読者、そしてねとらぼ読者のみなさんにひと言お願いします。
今日はわざわざこんな汚いところ(※集英社)にお越しいただいて、僕のような、かわいいだけが取り柄の漫画家にインタビューしていただきありがとうございました。
そうだ、いつか、ねとらぼさんの編集部も見学させてください!
――それはぜひ!
さすがに今日明日とかではないですけど、忘れたころに伺わせていただきます!
――では、いつかねとらぼ編集部が漫画になるのを楽しみにしてます!
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