この式を変形すると、「p>2/m」になります。“子ども3人産んで発言”の通り、1組の夫婦が産む平均の子どもの数(m)が3人になったとしましょう。
すると、「p>2/3」という結果が得られます。この式が意味するのは「子どもを3人産んで人口が増えるのは、結婚する女性の割合が67%を超えている場合である」ということです。
でも、そもそも結婚している女性の割合が少ない
では、現実のデータはどうなっているでしょうか。2015年の国勢調査の結果を見てみましょう。
妊娠出産に適していると考えられる25〜35歳の女性に注目すると、その人口は753万0680人。そのうち、有配偶者(現時点で夫のいる人)は374万0621人。つまり結婚している女性の割合は
- 7530680÷3740621×100=49.67176%
なんと、たったの50%しかいません。67%には遠く及ばないのです。
最近は晩婚化が進んでいるので、年齢を上げて30〜40歳の結婚している女性の割合を計算してみましょう。この範囲の女性人口は864万2168人、有配偶者は558万9314人。
- 8642168÷5589314×100=64.67491%
約65%。必要な67%にわずかに足りません。
このデータは有配偶者、つまり「現時点で結婚している女性の人数」です。過去に結婚していたが今は離別/死別した人は含まれていません。こうした人たちも含めるとどうなるでしょう?
25〜35歳では、その値は約57%と、やはり足りません。一方、30〜40歳では約73%に達し、何とか足ります。
つまり、現在の30〜40歳の人たちが、離別/死別した人も含めて平均3人以上の子どもを産んでいれば、子世代は親世代より多くなるはずなのです(ただし、現実にはそうなっていないため、少子化が進んでいます)。
婚外子を考慮すると?
ここまで、結婚した人限定で話を進めてきましたが、「子どもを産むかどうか」だけに注目したら、どうなるでしょう。いわゆる婚外子も含めた場合です。
この場合、公式は次のように書き換えればよいでしょう。
- 子世代の人口=親世代の女性人口×女性のうち子どもを産む割合×子どもを産む女性が平均して産む子どもの人数
これも文章のまま書くと面倒なので、全部記号に置き換えましょう。
c=nqs
- c:子世代の人口
- n:親世代の女性人口
- q:女性のうち子どもを産む割合
- s:子どもを産む女性が平均して産む子どもの人数
※ちなみに、sはいわゆる出生率より大きな値になるはず。出生率は「子どもを産まない女性も含めた平均」なのですが、sは「子どもを産んだ女性だけ」で計算するからです
これが親世代の人口2nを超える(c=nqs>2n)ためには、どうなっていればよいでしょう?
この式を変形すると「q>2/s」という式が得られます。記号が違うだけで、さきほどの式とそっくりですね。式の意味するところもほとんど同じです。
さて、子どもを産む女性が平均して3人の子どもを産むとしましょう。すると、qは67%以上になり、この式からは以下のように読み取ることができます。
「結婚するかしないかに関わらず、子どもを産んだ女性が平均して3人産む場合、人口が増えるには、子どもを産む女性が67%を超えていないといけない」。
円グラフを見れば、こうなる理由が一目で分かる
「子どもを3人産んでも人口が増えるとは限らない」というのは直感に反する結果かもしれませんが、円グラフを描いてみると理由が一目で分かるはず。
人口を増やすためには「産む人数を増やす」か「産まれる人数を増やす」しか方法がありません。そしてこの2つの間には、簡単な数式で表せる関係があります。
例えば、「親世代の女性のうち、半分が子どもを産む」ということは「親世代の4分の1が子どもを産む」ということになります。少子化がストップするのは平均4人以上産んだときです。
もしも世の中が“子ども3人産んで発言”の通りに動いたとしても、さらに「女性の3分の2(約67%)が子どもを産む」という条件を満たさないと子世代の人口は減ってしまうのです。
今回の例に限らず、「これをやるためには、具体的に何を目標にすればよいのか?」という疑問に、数式が答えてくれる場合があります。なかなか思い通りにコトが進まないなと思っている方は、やろうとしていることを数式で表してみるとよいかもしれません。それは自分が思っているよりも、大変な目標なのかもしれませんよ。
2019年10月9日15時15分 修正:タイトルを一部変更しました
(キグロ)
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