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アニメーターが1日500人規模の海外アニメイベントに行ってみた ドイツのアニメファンに触れてみて(2/3 ページ)

1日500人、3日間で1500人程度を動員するイベント「アニメフェスティバル・フライブルク」の様子をお届け。

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――機材は持ち込みだったのでしょうか?

三木:現地で液タブとソフトを用意していただきました。1時間でなんとか完成して、お客さんの反応も上々だったので何よりでした。

――デジタルでも描けるのに、普段紙での作業にこだわる理由は?

三木:やはり速さです。デジタルだとセルを重ねやすかったり、クオリティーの底上げはしやすいと感じますが、自分の場合結局紙で描いた方が速いんですよね。デジタルだと手元ですぐにタイミングのチェックができるのも利点です。自分は手元でパラパラしながら、ストップウォッチで見ています。

――普段はクイックチェッカーも使わないんですね。

三木:使わないです。業界的にもチェッカーを使いたい派と使いたくない派がいるみたいで。使いたくない派の意見でなるほどと思ったのは、伊藤嘉之さんが言っていた「チェックしたら失敗しないじゃん」というお話。完成画面が見えてしまうため、偶発的に成功する面白さが期待できなくなってしまうというんですね。

※伊藤嘉之:アニメーター。「鋼の錬金術師」「ひそねとまそたん」などでキャラクターデザインを担当。


――なるほど。

三木:まあ自分が使わないのはクイックチェッカーの使い方が分からないからなのですが……。

――なるほど……。最終日の質問コーナーはどんな感じでしたか?

三木:本当にアニメに興味があって、直接話を聞いてみたいという人が来てくれていました。CGアニメーター志望の人もいて、「どういう勉強をすれば良いですか?」って質問をくれたりだとか。

質疑応答コーナーの様子

――それにはなんと答えましたか?

三木:自分も映画をよく見るようにしているので、とにかく「良いものをたくさん見て」と伝えました。その人にはイベント終了後の観光日にも街角でばったり再会して、「アニメや漫画のグッズなかなか売ってないね」と言ったら、「ドラッグストアに売ってたりするんですよ」と案内してくれたり、楽しい経験でした(笑)。

――イベントでは他の出し物はどんなものがありましたか?

三木:いろんなものがあって、多かったのはグッズを売っているところかな。同人誌を売ってる人もいましたし、アニメの上映会があったり。イベントではコスプレしてる人が多かったですね。

「鬼滅の刃」「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] 第1章」「劇場版 七つの大罪 天空の囚われ人」「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」など人気作のイベント上映も(イベント公式サイトより

――コスプレのイベントもあった?

三木:コスプレ大会があって盛り上がっていましたよ。あとは会場内をコスプレ姿で自然に過ごしている人たちが印象的でした。階段の踊り場とかで楽しそうにおしゃべりしていたり、そういうのを見るだけでも新鮮で面白かったです。

――参加者は何目当ての人が多かったですか?

三木:わりとバラバラだったんじゃないかな。書店で置いてないようなレアな漫画も売っていたりするので、そちらが目的で来てる人も多いようでした。4日目の観光日に本屋を巡ってみましたが、漫画が少ないというより、そもそも電子化の流れで本屋が少なくなってきているんだろうなというのも感じました。

――行ってみて、行く前のイメージとは違いましたか?

三木:そもそも予想ができてなかったんですよね。まず海外のイベントってあまり情報が入ってこないじゃないですか。ドイツのファンがどのような温度感で楽しんでくれているのかが知れたのは良かったです。

――三木さんはコミケでも本を出されているので、そこでもファンと触れ合う機会はあるわけですよね。

三木:コミケでも、会場で直接買いに来てくれる人に手渡すときはうれしいですし、ありがたいですよ。

――コミケへの参加もファンとの触れ合いが目的で始められたのでしょうか?

三木:それもありますが、アニメーターになってからひたすらコンテを元に原画を描いてきて、コンテ無しで絵を描こうとしたときに、ふと描けなくなってたことに気付いたんです。それはちょっとクリエイターというか、絵描きとして恥ずべき状態だなと思って、お客さんの目線を考えながら描く修行の場として、コミケにも出るようになりました。

――結構ストイックな理由だった……。

フライブルク近郊の湖ティティゼーで撮影

三木:ただ、アニメの原画と同じで、描き終わると興味がなくなっちゃうところもあって。この前もコミケの原稿が終わって満足していたら、サークルチケットをなくしてしまい、一緒に参加してくれたサークルの人に叱られました……。

――はい……。今更ですが、三木さんがメディアのインタビューを受けるのは初ですよね。業界歴などについても聞かせてください。


「はじめの1年はひたすらエフェクトを描いてた」

三木:業界に入ったのは2009年で、アートランドというスタジオで動画からスタートしました。作品としては「家庭教師ヒットマンREBORN!」「いちばんうしろの大魔王」のあたりですね。動画期間は2年ほどでしたが、原画をやるようになってからのほうが辛かったです。

――一般的には、入りたての動画期間が一番辛いと言われがちですよね。

三木:原画だと生みの苦しみが大きくなるんです。あとは同期の上手さにヘコまされたり……。本当は原画を始めた後に、別のスタジオでもう一度ゼロから動画の修行がしたかったくらいでした。

――スタジオを移ってまで基礎固めというのもまた珍しいですね。

三木:当時周囲で、あるスタジオにとても厳しい動画検査さんがいると噂になっていて。その人にボコボコにされてみたかったんです(笑)。

 結局そのスタジオには入れませんでしたが、他にもProduction I.Gさんの動画採用にポートフォリオを送ってみたりしました。そちらは書類審査は通ったんですけど、面接日が「翠星のガルガンティア」(2013年)の原画アップ日と重なっていたので、「面接日をずらせませんか?」と当日に連絡したら落とされました。

――落ちた裏でその会社の原画を描いてるじゃないですか(笑)。

三木:採用担当者も知らなかったみたいで、後年「あれ三木さんだったんですか!」と言われました。おかげで、少なくともI.Gさんの書類審査を通る程度の画力にはなったんだなということは分かりました。

――初原画はどの作品だったんですか。

 初原画は2011年放送の「ドラゴンクライシス!」です。自分は最初から動かしたいほうだったので、いきなりエフェクトバリバリのところを担当しました。監督の橘秀樹さんに上がりを気に入っていただき、「こっちの原画を直してもらえないか」と仕事を振ってもらったり。



――デビュー回でいきなりエフェクト作監だったんですね。

三木:ノンクレジットですけど、その回で何カットか修正させていただきました。作監は最初の1回だけでしたが、その後半年間、本当に強風なびきとかエフェクトの仕事しかこなくなってしまって(笑)。はじめの1年はアクションすらほとんど描いてなくて、ひたすらエフェクトを描いてました。

――それは難なく描けた?

三木:難なく描けたというよりは、やるからには調べて描くだけですよね。アニメはできるかできないかではなくて、やるかやらないか。やらないといつまでもできないので。なるべくえり好みをしないように、原画を始めてから7年くらいは自分から仕事を選ぶこともしていませんでした。

 ただ、気が付いたら本当にアクションとエフェクトばかり依頼されるようになっていたので(笑)。もっと日常芝居とかもやりたいので、最近は自分でも多少選ぶようにしています。

――先ほど、映画をよく見るようにしているとのお話がありましたが、これはいつごろ意識するようになったのでしょうか。

三木:「絶園のテンペスト」(2012年〜2013年)が終わって、「キャプテン・アース」(2014年)の原画をやっていたころに、ボンズの先輩にすごく実写映画を見ている方がいて。被写体を何ミリのカメラで撮っているか? など、“カメラの感覚”を意識しながら描く点では、非常に影響を受けました。

――そこから実写の映画を結構見るようになったんですね。

三木:はじめの2〜3年は年間500本。今でも少なくとも100本は見ています。

――洋画と邦画どちらが多いですか?

三木:邦画も見ますが、洋画が多いです。邦画は細かい感情表現は参考になりますが、自分が手掛ける派手なアクションなどでは、やはりハリウッド大作が参考にしやすいです。他にもジャンル問わず見ていますが、ホラー映画の「ダンッ」って驚かせる演出だけは苦手で、ホラージャンルだけは見てないです。ゲームの「バイオハザード」はコントローラーを投げて、以来二度と手を出してません。

――ゲームも結構やられるんですか?

三木:人がプレイしているのを横目に見るのは好きですけど、自分で遊ぶのはアニメーターになろうと決めた大学時代に封印しました。


「MUSASHI-GUN道」の作画崩壊が分からないくらい、作画を見る目が無かった

――アニメ系の専門学校ではなく、4年制の大学に通われていたんですね。

三木:4年制の情報学部でした。

――失礼ですが、当時から絵はうまかった?

三木:いえ、20歳まで絵はほとんど描いたことがありませんでした。

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