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三鷹の森ジブリ美術館「恥ずかしいものも含めてたくさん展示しました」 約20年の歩み振り返る企画展始まる

三鷹の森ジブリ美術館、約20年の歩み。

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 三鷹の森ジブリ美術館の新しい企画展示「『手描き、ひらめき、おもいつき』展 〜ジブリの森のスケッチブックから〜」が11月16日から始まりました。

企画展に入ると、奥からクマさんがお出迎え

 同館は日時指定の予約制。チケットは毎月10日に、全国のローソンで翌月入場分が販売開始となり、予約はWebか店頭のLoppiで行うことができます。企画展の一般公開に先駆けて、15日に行われた内覧会に参加してきたので、今回はその様子をレポートしていきます。

 今回の企画展は、開館から約20年となるジブリ美術館のこれまでの歩みを、貴重な手描き資料などから振り返るというコンセプト。この日はまずジブリ美術館館長 安西香月さんと、協賛企業である日清製粉グループ本社 総務本部広報部長 安達令子さん、ローソンエンタテインメント 代表取締役社長 渡辺章仁さんによる挨拶がありました。

左からローソンエンタテインメント代表の渡辺さん、ジブリ美術館の安西館長、日清製粉グループ広報部長の安達さん

 準備に1年近く掛けたという今回の企画展。安西館長はまず、企画展のタイトルを付けた経緯について、宮崎監督から「僕の名前をタイトルに使ってくれるな」と言われてしまい、相当悩んだと告白。また、絵を展示する以上、できれば「手描き」という言葉は入れてほしいと宮崎監督から希望があったことも明かしました。

 さらにタイトル付けのヒントとなったのが、普段企画に行き詰まった際に、宮崎監督や安西館長自身が「“ひらめいた”と言ってスタッフや宮崎監督に却下される」こともよくあったこと。というのも、今回の展示では、過去の企画準備時に採用に至らなかった絵なども多数公開されているのです。「若干恥ずかしいものも含めてたくさん展示させていただきました」という安西館長の言葉通り、紆余曲折の過程そのものが、展示の魅力となっています。

記念すべき企画展第1弾である「千と千尋の神隠し展」(2001年10月1日〜2002年9月23日)

詳細な見取り図も展示され、当時の展示がどのようなものだったかも振り返ることができる

「アニメとは恐ろしいもんだと思った」

 続けて行われたのが、安西館長と画家・井上直久さんによるスペシャルトーク。井上さんはジブリ美術館内の壁画を手掛けているほか、宮崎駿監督による短編作品「星をかった日」で原作・美術制作などを手掛けるなど、ジブリとは何かと縁深い人物です。

安西館長(左)と井上さん(右)

 井上さんは、宮崎監督と一緒に仕事をしたときに驚いたエピソードを紹介。複数の高い塔を上から下に映していくシーンで、宮崎監督が参考用に描いたラフ画が、通常の遠近法で描く絵とは異なると気付いたときのこと。

 井上さんが「消失点がバラバラになってますけど、このままで良いんですか?」と聞くと、宮崎さんはガッハッハと笑い、「井上さん、アニメなんていいかげんなんですよ」と言ったそうです。そういうものかと思い、自分流に消失点を1点にして描いてみたところ、完成した絵を見て違和感を覚えます。

 それぞれの絵をフレーム越しに上から下に見ていくと、宮崎さんが描いた絵はカメラが本当に降りているように見えるのに対し、井上さんのは1枚の絵を映してるようにしか見えません。「迫力なくなったんですけど、どうしたんでしょう?」と尋ねると、宮崎監督は「分かりましたか! 映画っていいかげんなんですよ」と言い、またガッハッハと笑ったのだそうです。

 さらに聞けば、宮崎監督はカメラの位置や動きに合わせ、同じ絵の中で複数の位置に消失点を描き分けていたのだそうです。「アニメとは恐ろしいもんだと思った」という井上さん。現在お孫さんに「ちゃんと見るべき」と勧められて、アニメ「名探偵ホームズ」を見直しているとのことですが、そこでも「ここの空間とカメラ移動は宮崎さんじゃないとできない」と、宮崎さんが手掛けた回とそうでない回を見分けられたと言います。

宮崎監督の人柄について語る井上さん

 安西館長によると、そうした宮崎監督特有の立体物を絵に落とし込む技工は、今回の展示からも見て取れるとのこと。ジブリ美術館では過去に“カリオストロの城”など、作中に登場する建物をジオラマとして再現・展示したことがありますが、そうした際に指示書きとして描れる多数のラフ画も、カメラワークを感じさせる生き生きとした絵になっていると紹介。井上さんも、今回の展示でそうした「宮崎魂」が伝わるはずだと、太鼓判を押していました。

 もう1つ、井上さんが今回の展示で感動したものに挙げていたのが、「となりのトトロ」の紙製のゾートロープ。こちらは常設展示にある、人形を使った「立体ゾートロープ『トトロぴょんぴょん』」という作品の試作用に作られていたものです。

展示場所にはフラッシュライトが置かれているので、自分で光を当てて、アニメーションを体験することができる

 サツキとメイが縄跳びで遊んでいる、かわいらしいモチーフの同作。円形に配置した絵の回転に合わせ、フラッシュライトの光を当てることで、その明滅によりアニメーションとして動いて見える仕掛けになっています。企画展では手持ちのフラッシュライトが設置されており、実際に光の明滅のタイミングを調整しつつ、絵を動かす体験ができます。

 井上さんは、子どもたちにとってアニメの完成映像は魔法の世界に見えるかもしれないものの、紙でできたこの展示であれば、「僕たちでも作ることができる」と思ってもらえるのではないかと、感銘を受けたのだそうです。


ほかにも見どころがたくさん

 展示点数は実に640点※にも及ぶ(!)とのことで、とても全ては紹介しきれませんが、他にも興味深いものがたくさんあります。過去の企画展に焦点を当てた第1室を抜けると、第2室では美術館の建物そのものに着目した内容となっています。

※模型、立体物、映像作品などを含む

 ジブリ美術館内の複雑怪奇な構造を一望できる立体模型や、子どもたちに人気の“ボヨーンっと入れる”「ネコバス」のデザイン画など、館内空間がどのように形作られていったかをたどることができる展示となっています。

ジブリ美術館を一望できる立体模型

上からのぞき込むと、どういう構造になっているのかが一目瞭然です

屋上にあるラピュタのロボット兵まで完全再現

どうしたら子どもたちに楽しんでもらえるか、考え抜かれてデザインされていたことが伝わってきます

 また、2階ギャラリーにはこれまで館内の映画館「土星座」で上映されてきた短編作品の紹介も。さらに、通路には顔出しパネルの要領で、ネコバス乗車気分が楽しめる「こねこバス」コーナーもあります。こねこバスの窓をのぞき込むと、反対側の壁には鏡が設置されており、ネコバスに乗り込んだ自分の姿を見ることができます(残念ながら、一般公開時は撮影不可)。

2階ギャラリー


のぞき込むと鏡が……!

 安西館長は最後に、「お子さんに楽しんでもらえるのが一番」としつつ、大人たちが悩みながらも「一生懸命やることがおかしくないのが分かってもらえたら」と、失敗した部分も含めて展示している理由について言及。「『成功品じゃないといけない』だとつらい。ちょっと解放されて帰ってほしい」と、“隠れテーマ”についても、ちらっと話していました。

 「『手描き、ひらめき、おもいつき』展 〜ジブリの森のスケッチブックから〜」は、2021年5月(予定)まで開催されます。長めの会期となっているので、1度といわず2度3度と通いたくなってしまいそうです。

入口で目が合うクマさんは、「3びきのくま展―映画にできないとっておきのおはなし―」(2007年5月19日〜2008年5月11日)より

三鷹の森ジブリ美術館と宮崎駿監督の仕事・相関図。宮崎監督は長編映画制作時などには美術館の展示に深く関われない場合もあるとのこと。反対にガッツリ関与しているものは年表内で“オレンジ色”で表記されている

年表では宮崎監督の最新作「君たちはどう生きるか」が「制作中(2017〜)」となっていた

「天空の城ラピュタ」の発想の原点が披露された「天空の城ラピュタと空想科学の機械発展」(2002年10月2日〜2004年5月9日)。同時期に館内で上映された庵野秀明監督による「空想の機械達の中の破壊の発明」にまつわる資料も数点展示されていた/(C)2002スタジオジブリ

(C)Museo d'Arte Ghibli/(C) Studio Ghibli


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