瀬下寛之総監督×声優・島崎信長に聞くアニメ「Levius」 ポリゴン最新作で口をそろえる「過保護」というキーワード(1/2 ページ)
セルルックCGの最前線を行くポリゴン。その先には、「限りなくカリカチュアされているのにもかかわらず十分な肉感がある」世界が見えているようです。
セルルックの3DCGアニメで名をはせるポリゴン・ピクチュアズの最新作「Levius」がNetflixオリジナルアニメシリーズとして11月28日から配信スタートしました。
中田春彌さんが描く原作は、戦争によって父親と自分の右腕を失い、母親も植物状態となった孤独な少年(レビウス)が主人公。あらゆる動力に“蒸気”を用いるこの世界では、人体に機械を融合させて戦う“機関拳闘”と呼ばれる格闘技が隆盛を極めており、レビウスは、伯父のザックスの元でこれに没頭し、才能を開花させていくというストーリー。全編“横書き左開き”というバンド・デシネスタイルを採っていることや、にわかには信じられないレベルの驚異的な画力が特徴です。
ポリゴン・ピクチュアズといえば、「シドニアの騎士」「亜人」「BLAME!」など良質な3DCGアニメで定評があり、それらの作品を手掛けた瀬下寛之さんが総監督を務める今作のクオリティーには太鼓判が押せそうですが、一方で、これまでの作品のようなSF色が強いものではなく、何か別のチャレンジが内包されているような印象があります。
ポリゴン・ピクチュアズの最新作は、そしてセルルックCGはどこへ向かおうとしているのか。ねとらぼエンタでは瀬下総監督と、同作の主人公、レビウス=クロムウェルを演じた声優の島崎信長さん(崎はたつさき)に、今作のチャレンジなどを聞きました。
なぜ今「Levius」を映像化したのか
―― 最初に瀬下監督にお聞きしますが、過去に手掛けたポリゴン・ピクチュアズ製作のアニメシリーズというと、「亜人」「BLAME!」「シドニアの騎士」など、SF要素が色濃く、CGで描けば映えるだろうと思わせる作品が多い印象で、実際そのとおりでした。
しかし今作は、スチームパンクな“機関拳闘”という格闘技が行われている世界が舞台。亜人と同じく人間の芝居も多く、3DCG作品としてはチャレンジの部類に入ると思います。今『Levius』を映像化しようと考えたのはなぜですか?
瀬下 もともと原作が好きだったんです。実はシドニアを作っていた2013年頃からアニメ化したい候補の中に原作をリストしていました。
僕は「3DCGによる長編ストーリー」という形にこだわりがあって、それでいわゆるセルルックCGという手法を選んでいますが、日本の伝統的なアニメのスタイルを僕がCGで再現するというよりも、グラフィックノベルやアメコミ、バンド・デシネをいつか(CGで)動かしてみたいと思っていました。
その点で『Levius』は、横書き左開きという日本でも数少ない貴重なバンド・デシネスタイルであり、いろいろな作品を作りながら企画を打診する機会を狙っていて、結果的に実現に至っています。
―― 絵と3Dの空間性の魅力を両立させたい思いがあったというところでしょうか。ちなみに、瀬下監督が原作で最も好きな要素は何で、その魅力を自身が“道具”と呼ぶ3DCGでどこまでイメージ通りに描き出せましたか?
瀬下 原作で最も引かれるのは、やはり“絵”です。中田先生のあの独特な絵の魅力、そこが一番大きいですね。ただ、その絵が備える魅力を3DCGで再現できているとは正直思っていません。そういう気持ちもあって、中田先生にお願いして作中のエンドロールの絵を描いていただいたんです。
―― あれはコンセプトアートかと思いましたが、やはり中田先生の絵でしたか。
瀬下 はい。僕の中では声を大にして言いたいところで、アニメ版の設定で中田先生に描き下ろしていただいたものです。つまり原作にもない、アニメ版のみで見られる原作者の絵。まさに本作の絵の魅力としては、あれが究極、最大級の位置付けです。
―― なるほど。中田先生の絵を究極のものと位置付け、3DCGでそれに近づけようとした絵作りだと。
瀬下 そうですね。繰り返しになりますが、僕は3DCGというツールを使って長編ストーリーを作ることにこだわっていて、中田先生の絵が持つエッセンスをいただきながら、自分が今持てる手段(3DCG)、予算、時間の中で、シドニアから続けているセルルックの実験を高めたのが今作です。これまで積み上げてきたものが絵作りの柱になっていると感じます。
―― 島崎さんの作品の印象を教えてください。
島崎 オーディションの際に初めて原作を拝読して、まず純粋に画力すごいなと。読めば読むほど絵の魅力に引き込まれて、オーディションと直接関係のない先の話まで読んでしまって(笑)。のめり込んで読んだ上でオーディションに臨んだので、受かって本当にうれしかったです。
この作品、レビウスは肉体的には強いんですけど、彼が全部引っ張っていくような話ではないんです。みんなが助け合っている印象が僕にはあって、各キャラクターが大好きになっていく。瀬下さんは“ファミリー”という言葉をお使いになられていたんですが、まさにそういう感じ。主人公だけでなくみんなキャラが立っているのがハマった部分の1つですね。
―― レビウスと自身をリンクさせていく過程で、レビウスをどんな人物だととらえましたか?
島崎 とても人間的だと思いました。物腰は柔らかく、繊細で優しくて柔らかそうで気弱そうに見えて、実はすっごい頑固でわがまま(笑)。結果、ザックスをはじめ周りが必死にフォローするわけですが、レビウスの一見共存しないような相反するさまざまな要素がとても人間らしくて僕は好きです。
現実には人間っていろいろな要素があるじゃないですか。アニメだとそうした要素の幾つかをとがらせて印象付けたりすることが多いですが、全部とがっていてもいい。それが人としての幅の広さ。矛盾の塊というか。
―― 今作での役柄を作り上げていく上で、留意したのはどういったことですか?
島崎 やはり“人間的にやりたい”というのはすごくありました。ストーリーも絵も音も、“人間”をちゃんと描いてくださるのを信じているので、僕も等身大のレビウスを目指してやりましたね。
「Levius」は過保護アニメ?
―― 島崎さんはフサタ役で出演した「BLAME!」で既に瀬下監督のスタイルをご存じですよね。今作のアニメの印象はどうでしたか?
島崎 「BLAME!」でも十分に見ていたので、機関拳闘の戦闘シーンは期待していましたし、期待以上でした。特に、表情や傷や殴られた跡など顔周りに新鮮な驚きをたくさんいただきましたね。勝手なイメージですが、やっぱりCGで“表情”って難しいと思うんです。でも、今作はキャラクターがいい表情するんですよ! だから演者としては「スゲー助かる」と思って。
瀬下 島崎さんにそういっていただいて、言われれば言われるほど気まずくもなるんですけど(笑)。
一同 えっ? どうしてですか?
瀬下 やっぱり、手描きの日本のアニメのすばらしい作品にはかなわないなという思いでやっているので。もちろん、ポリゴン(・ピクチュアズ)の現場のアーティストたちがシドニアの頃から努力と研さんをコツコツと積み上げて、まさに日本を代表するトップCGスタジオとなったことに感謝と尊敬の念があります。
しかし、現場の諸氏も、そして僕自身も、日本の卓越した手描きアニメの表現をみると、「まだまだやることが山積みだな」と永遠に終わらない旅をしている気持ちです。とりわけ、役者さんがいいお芝居をしてくれるほど、その感情の機微の隅々まで3DCGで表現しきるのは、とても難しいことですから。
―― 総監督としてはそういう思いもあるんですね。
瀬下 僕自身はこの30年間、ずっと「CG屋さん」で、CGが大好きですが、だからこそCGの欠点もよく分かっていて、その欠点を補いつつ、なるべく長所を引き出すようにしてきました。2010年代になってからは、ずっとセルルックCGを作ってきましたが、作品にかかわるあらゆる方々が、CGの弱点をカバーして、助けてくださっているのを実感しました。音響、音楽、そして何より役者さんの演技には本当に助けられています。
島崎 いや、こちらこそなんですけど……! 僕、アニメーションの大好きなところは、お互いが助け合って高め合っていけるところなんです。僕は声を担当させてもらっていますが、そこに絵だったり、背景だったり、音だったり、光の加減だったり、いろいろな人の手が入ってやっとレビウスという一人の人間が形作られていくので。
瀬下 そう言ってくれて、とてもうれしいです。今回役者さんには随分むちゃな要求をして恐縮でした。監督の井手(恵介)くんと「ちょっと無茶振りし過ぎかな」とか、よく話していたほどです(笑)。島崎さんも覚えていると思いますが、“絵がないのに息づかいをリテイクする監督”って、大変ですよね(笑)。
完全なプレスコで、台本だけですから、収録はあたかも舞台演劇の通し稽古みたいにやるわけです。衣装もセットもない稽古部屋のような感じ。そんな高純度な演技の場で発せられた喜怒哀楽の感情が乗った声がアニメを作らせているといっても過言でないくらいです。息づかいですらすごく感情が乗っている。それには、僕ら監督陣、演出陣が細かく指示しなくても、ポリゴンの優秀なアニメーターなら作れてしまう「力」があるんですよね。
島崎 瀬下さんは役者にむちゃを言っているとおっしゃっていますけど、例えば、僕が自分の想像で息を荒げすぎてむせたりするお芝居をしたら、絵もそのようにしてくださって。プレスコでやったお芝居を高めようとしているのが伝わって感謝しかないんです。これはもう助け合い作品、まさに過保護アニメですよ。
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