高校2年生、冬。進路に悩む女子高生・カホが夜の公園で出会ったのは、飲酒しながら落書きに興じる中年教師でした。スズキスズヒロ(@suzuhirosuzuki)さんの漫画「木村先生」がTwitterで話題に。子どもから大人への過渡期を生きる若者たちに勇気を与えています。
進路を決める面談の日、高校2年生の井上カホは学校を抜け出し映画館にいました。「今すぐ決めるなんて無理よ」「だめだ! 今決めるんだ!」――映画のせりふに自分が重なり、ぽつりと言葉がこぼれます。「無理だよ そんなの」
悩める女子高生が独りごちる一方で、彼女の学校の教師・木村先生は浮足立っていました。
きっかけは昼間の公園で見かけた路面に落書きする子どもたち。レトロな遊びを無邪気に楽しむ様子が、中年教師のノスタルジーを呼び起こしたのでしょう。辺りが暗くなったのを見計らうと、子どもたちの絵の隣にチョークで大作を描き始めます。
傍らには缶ビールとカップ麺。地べたに座り込んで「いやぁ ノってきちゃったなぁ」とはしゃぐ姿は、いい年した大人……まして生徒の規範たるべき教師の姿とは思えません。
そんな様子を教え子に見られたのは、思わずビールを落とすほど大きな誤算でした。
映画館帰りに教師の非行を目撃し、思わず「木村先生?」と声をかけるカホ。落書きの側に回り込み「へぇ 上手ですね」「私も描いてみたいです」と畳みかけるようにせがみます。
写真をSNSにアップするという脅しが功を奏し、難なくチョークを入手した彼女は、なんともヘタクソな猫を描き始めました。
楽しみごとチョークを奪われて不機嫌になっていた木村先生でしたが、へろへろで立体感の無い猫を前にして、教師モードのスイッチが入った様子。「いいか 動物を描くときはな その構造をよく理解してないといかん」とお手本を描き始めた……かと思いきや、指導を忘れて絵に熱中してしまいます。
「できた! どうだ!」「わ! すごい!」――子どもじみた落書きに夢中になり、作品を褒められて得意げな先生は、高校生のカホが信じる大人像と懸け離れていました。
「大の大人があまりに真剣になってるから」と笑うカホに対し、目の前の中年男性はことさら信じられない言葉を言い放ちます。
「いいか俺はな もう干支が4回も回ってるが 大人になったなんて一度も思ったことなんかないぞ」「人の生き方はそれぞれなのに いくつになったからこうでなくちゃとか 高2の冬だからこれ決めろとか そんなのおかしい そうだろ?」
それはまさに、カホが求めていた言葉でした。17年もの間「子ども」として扱われ、映画だってまだ学生料金なのに、「大人」になってからの生き方を今すぐ決めるなんてできるわけがない。ずっと抱えていた思いが肯定され、思わず涙が潤みます。
「でもな 人が決めたスケジュールなんか守らなくていいが 道を探すことはやめちゃだめだ」「そうすりゃちょっとずつでも前に進むだろ」「大丈夫 こんなオレでも三度のメシは食えてる」
それは木村先生の人生訓そのものなのでしょう。自然体で語られた彼のメッセージは、1人の生徒、そして多くの読者の心にあたたかく染み入ったのでした。
大人になることに悩む子どもと、子どもらしさを受け入れて生きる大人の出会いを描いた「木村先生」は、作者・スズキスズヒロ(@suzuhirosuzuki)さんのTwitterで全ページ公開されています。
また同作が収録された短編集『空飛ぶくじら(イースト・プレス)』が12月7日より発売中。描きおろし作品を含む全6編。価格は990円です。
画像提供:スズキスズヒロ(@suzuhirosuzuki)さん
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