ITmedia ガジェット 過去記事一覧
検索
ニュース

“しつけ”で子どものゲーム機を破壊、弁護士の見解は? 「器物損壊罪が成立する可能性」ただし「セーブデータに財産的価値は認められない」

バックアップを取るしかないのか……。

PC用表示 関連情報
advertisement

 「友達からスイッチを借りて、(中略) 毎日、夜遅くまでゲームをしてたのです」「友達のスイッチもろとも、3台、壊してやりました」――“しつけ”としてNintendo Switchを破壊した父親のブログが物議を醸しています。



 問題となったのは2018年12月に公開されたとあるブログ記事です。

 「平日はゲーム禁止」と約束していたにもかかわらず、友達からゲーム機を借りてこっそりプレイしていた息子兄弟。金庫に保管されていたNintendo Switchをダミーにすりかえ、両親の監視を巧妙に逃れていたといいます。このようなズルは初めてではなく、ゲームを遊びたさからウソや暴言が常習化していたのだとか。

 教育上よくないと判断した父親は、友達からの借物もろともNintendo Switch3台をバキバキに破壊します。友達のゲーム機にまで手を出した理由については「子供達は、泣き叫んでましたが、自業自得です」「さすがに、友達のも破壊するのは、どうかと思ったのですが、自分のより、友達のを壊される方が、効果があると思い、遠慮なく破壊しました」とのこと。

 自分の正しさを疑わない言葉選びや、わざわざ「証拠写真」として撮影されたゲーム機の残骸がゲーマーの逆鱗に触れ、記事には非難のコメントが押し寄せました。

 たとえ自分が買い与えたものとはいえ、既に子どもの所有物となったゲーム機を壊して賠償責任は生じないのでしょうか?

 また、友達には新品を購入して弁償したそうですが、Nintendo Switchのセーブデータは本体に保存されるため、大切なゲームの記録や思い出が破壊されてしまった可能性が……。

 2016年にはヴァイオリニストの高嶋ちさ子さんが息子の3DSを真っ二つにして炎上するなど、定期的に騒動となる「子どものゲーム機を破壊する行為」。法律上はどのように扱われるのか、グラディアトル法律事務所の井上圭章弁護士に見解を聞きました。

「器物損壊罪や不法行為が成立する可能性があります」

――前提として、(自分の子どもではない)他人のゲームを破壊する行為は法律上どのように扱われるのでしょうか?

 一般にゲーム機を破壊する行為は、刑事上、「器物損壊罪(3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料)」に問われる可能性があります。

 また、民事上も故意に他人の権利を侵害したとして「不法行為」にあたり、ゲーム機の破壊によって生じた損害(通常,同等のゲーム機の代金相当額)を賠償する責任を負うことになるでしょう。

――では、それが自分の子どものゲーム機だった場合はいかがですか?

 子どもにゲーム機を買い与えている以上、ゲーム機の所有権は子どもにある(つまり、子どもの所有物)と考えられます。従って、形式的には「他人の」ものを破壊したといえ、器物損壊罪や不法行為が成立する可能性があります。

 ただし、親には監護及び教育の権利が認められ、監護及び教育に必要な範囲内で懲戒権(いわゆる“しつけ”をすること)が認められています。

 そのため、ゲーム機を破壊する行為が監護や教育のために必要な範囲といえる場合、その行為は正当な行為として扱われ、器物損壊罪や不法行為は成立しないと考えられます。もっとも、ゲーム機を壊すことが教育に必要な範囲内かといわれると、判断が分かれるところです。

――炎上したブログではゲーム機に保存されていたセーブデータが紛失した可能性がありますが、その場合に追加の賠償を求めることは可能でしょうか?

 セーブデータそのものに何らかの財産的価値が認められるようなケースですと、損害として認められ、賠償請求が可能となります。

 ただし一般には、ゲームのセーブデータそのものに財産的価値が認められるケースは稀(まれ)で、損害と認められないことがほとんどです。

 そのため、ゲーム機体本体とは別に、ゲームのセーブデータが破壊された分までの賠償金の請求はできないと考えておいた方がよいでしょう。

取材協力:井上圭章弁護士(グラディアトル法律事務所)





 「ゲームのセーブデータそのものに財産的価値が認められるケースは稀(まれ)」という回答は、ゲーマーにとってショックが大きいかもしれません。

 Nintendo Switchやプレイステーション 4などのゲーム機は、セーブデータをクラウド上に保存できるサービスを提供しています(共に有償)。万が一の事態に備えるためにも、大切な記録は意識的にバックアップしましょう。

 なお、問題となったブログ記事はすでに削除され、代わりに謝罪文が公開されています。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る