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コミカライズを自ら提案、Kindleで配信。月に84万円売れました──ナカシマ723さんに聞く「だから今、やるしかないんです」(4/4 ページ)

「魔王を倒すために算段をつけて、なにを準備していくか」。同じように現実も攻略すべきもの。漫画家の今を感じさせる、ナカシマ723さんのインタビュー。

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――勢いだけではじめてしまうと……。

 行き当たりばったりだと、途中で止まってしまいますよね。だから「真面目にそろばんはじいてやっていかないとな」と考えていました。

「とにかくこつこつお金を貯めて」と思っていましたけど、そこに無断転載の件で思いのほかお金が入ったので「もうさっさとやってしまおう」と。

――思い入れだけで突っ走って倒れてしまうのではなく、ちゃんと事前に「これで食べて行ける」という目算を立てる。そういうところは、今どきのヒーローな感じがしますね。

 そうです。「勇者のクズ」の主人公のヤシロも「突っ込んでいくことが勇者ではない。魔王を倒すために算段をつけて、なにを準備していくか。それが勇者の本領なんだ」と言っています。こいつはプロなので。

 ドラクエでも、ボス戦に挑む前は、みんな適当じゃなくて、一応、レベルを上げて装備をきちんと用意して挑むでしょう? なんだったら、情報サイトの攻略情報が、一番、重要ですからね。情報戦、情報が大事なんです。そういう話です。

――確かにです。ゲームであれば、どんな些細な可能性も追求し、きちんと情報を調べる。失敗して立ち上がる不屈の闘志を持つ人間なのに、自分などはなぜか現実では怠けたりして言い訳ばかりです。でも、リアルもゲームと同じように挑めばいいんですね。

 攻略です。「環境」という魔王を理解して、攻略することです。

 コミカライズをインディーズ連載するだけの元手も手に入った。その当時の2018年、7月、ちょうど折りよく、Amazonが運営するマンガの個人公開プラットフォーム「Kindleインディーズマンガ」が始まっていた。これはAmazonが提供する基金が、読まれたページごとに分配される仕組み。読者は無料で読むことができます。あえて言えば、大富豪のスポンサーが自費で賞品を出して運営する、競技会のようなシステムでした。

 バトルロイヤルじゃないですけど、まあ、殴り合いですね。あれもちょうどタイミングが良くて、「Kindleインディーズマンガ」の仕様をちょっと一通り見たときに、「これに初手から参入してくるビッグネームは多くない」って思ったんですよ。データを作る用のソフトが、めちゃくちゃ使いづらいですから。「狙い目だ」と思って入りました。

 ほかにもニコニコ静画などでも無料公開して、こちらのフォロワー数もすぐに1万を超えました。だから作品自体の感触としては「これはなんとか成立するんじゃないかな」とは思っていましたけど、ただマネタイズとしては、Kindleインディーズマンガがなかったら、紙の本を出すことは難しかったでしょう。そのときはたぶんクラウドファンディングで、紙の本や続巻の制作費なりを獲得しようとしていたと思います。

公開された「勇者のクズ」は、月あたりピークで84万円の分配金を獲得。2019年11月までで328万5233円の収益を上げる。

ナカシマさんはインディーズマンガでの無料公開後、連載によってたまった原稿を電子書籍版の単行本として販売。さらに、インディーズマンガの分配金を投入して、紙の単行本も出版した。

328万円の売り上げを多いと思うかどうか人それぞれでしょう。しかし印税10%とすると、これは600円の単行本を5万4000部売らないと達成できない数字。この数字は、今どきの出版界であれば、すでに十分大きなヒットといえます。


――SNS強者や、もともと商業で名前のある人だけではなく、無名でもおもしろいマンガを描いたら猛者と戦える環境でもあるそうですね。しかし、それはそれでプラットフォームのシステムに依存している。運営が、規約を変えたら、すぐに立ち行かなくなると言う人もいませんか。

 変わる前に、ぶっこめばいいんですよ、それは。変わる可能性はいつでもあります。来月変わるかもしれない。だからこそ考えていたらできないですよ。今、やるしかないんです。

――腕に覚えがある人が参入して、ランカーたちがお金をぶんどっていく。出版社に原稿を買ってもらうのとは違って、賞金稼ぎみたいな感じですね。

 そういうのが、私には合ってるんだと思います。来年も基金の分配があるのか、それとも賞に応募して、賞金をメインにしていく感じになるのか、分からない。そもそもKindleインディーズマンガが続いているのかもわからないですけど、ただ奪い取り方式が、私はありがたいですね。成果報酬のほうが。

 次回後編では「紙はやっぱり儲からない」というリアルと、これからマンガを描く人、原作やプロデュース志望の人に向けたアドバイスを。

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堀田純司 大阪生まれ。作家。主な著書に「僕とツンデレとハイデガー」「オッサンフォー」、シナリオを担当した「まんがでわかる妻のトリセツ」(以上講談社)、「メジャーを生み出す マーケティングを超えるクリエーター」(KADOKAWA)、編著に「ガンダムUC証言集」(KADOKAWA)などがある。日本漫画家協会員。Twitter @h_taj


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