日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告が1月8日(日本時間)、逃亡先のレバノンで記者会見を行ったことを受け、東京地方検察庁と森雅子法務大臣は1月9日、東京地検および法務省の公式サイトでコメントを発表しました。いずれもゴーン被告の行為について「自らの行為を不当に正当化するもの」「許されざる行為」など強く批判する内容となっています。
東京地方検察庁のコメントは1月9日深夜、次席検事名義で発表されたもの。コメント内ではゴーン被告の行為や主張について「犯罪に当たり得る行為をしてまで国外逃亡したものであり、今回の会見内容も自らの行為を不当に正当化するものにすぎない」「我が国の刑事司法制度を不当におとしめるものであって、到底受け入れられない」と非難しているほか、ゴーン被告が主張する「日産と検察により仕組まれた訴追である」との見方についても、「不合理であり、全く事実に反している」と否定しています。
また森法務大臣も同じく、1月9日に法務省公式サイトでコメントを発表。ゴーン被告の国外逃亡や会見について「どの国の制度の下であっても許されざる行為」「しかも、それを正当化するために、国内外に向けて、我が国の法制度やその運用について誤った事実を殊更に喧伝するものであって、到底看過できるものではない」とやはり強く批判しました。また、ゴーン被告が会見で主張していた、刑事司法制度の問題点についても「個人の基本的人権を保障しつつ,事案の真相を明らかにするために,適正な手続を定めて適正に運用されている」としつつ「刑事司法制度の是非は制度全体を見て評価すべきであり、その一部のみを切り取った批判は適切ではない」とコメントしています。
ゴーン被告は2018年、金融商品取引法違反容疑や会社法違反などの罪で逮捕され、その後海外に渡航しないことなどを条件に保釈されていましたが、2019年12月31日に「私は今、レバノンにいる」との声明を発表。不正な手段で秘密裏に出国していたとみられ、世間に大きな衝撃を与えました。
東京地方検察庁および森雅子法務大臣のコメント全文は以下。
東京地方検察庁(次席検事)コメント(東京地検サイトより)
被告人カルロス・ゴーン・ビシャラの記者会見について(コメント)被告人ゴーンは,犯罪に当たり得る行為をしてまで国外逃亡したものであり,今回の会見内容も自らの行為を不当に正当化するものにすぎない。被告人ゴーンが約130日間にわたって逮捕・勾留され,また,保釈指定条件において妻らとの接触が制限されたのは,現にその後違法な手段で出国して逃亡したことからも明らかなとおり,被告人ゴーンに高度の逃亡のおそれが認められたことや,妻自身が被告人ゴーンがその任務に違背して日産から取得した資金の還流先の関係者であるとともに,その妻を通じて被告人ゴーンが他の事件関係者に口裏合わせを行うなどの罪証隠滅行為を現に行ってきたことを原因とするもので,被告人ゴーン自身の責任に帰着するものである。このような自身の犯した事象を度外視して,一方的に我が国の刑事司法制度を非難する被告人ゴーンの主張は,我が国の刑事司法制度を不当におとしめるものであって,到底受け入れられない。
また,当庁は,被告人ゴーンによる本件各犯行につき,適正に端緒を得て我が国の法に従って適法に捜査を進め,訴追に至ったものである。本件の捜査により,検察は被告人ゴーンの犯した犯行について,有罪判決が得られる高度の蓋然性が認められるだけの証拠を収集し,公訴を提起したものであって,そもそも犯罪が存在しなければ,このような起訴に耐えうる証拠を収集できるはずがなく,日産と検察により仕組まれた訴追であるとの被告人ゴーンの主張は不合理であり,全く事実に反している。
当庁としては,適正な裁判に向けて主張やそれに沿う証拠の開示を行ってきたところ,被告人ゴーンは,我が国の法を無視し,処罰を受けることを嫌い,国外逃亡したものであり,当庁は,被告人ゴーンに我が国で裁判を受けさせるべく,関係機関と連携して,できる限りの手段を講じる所存である。
森法務大臣コメント(法務省サイトより)
先ほど,国外逃亡したカルロス・ゴーン被告人が記者会見を行ったが,今回の出国は犯罪行為に該当し得るものであり,彼はICPOから国際手配されている。
ゴーン被告人は,我が国における経済活動で,自身の役員報酬を過少に記載した有価証券報告書虚偽記載の事実のほか,自己が実質的に保有する法人名義の預金口座に自己の利益を図る目的で日産の子会社から多額の金銭を送金させた特別背任の事実などで起訴されている。
ところが,ゴーン被告人は,裁判所から,逃げ隠れしてはならない,海外渡航をしてはならないとの条件の下で,これを約束し,保釈されていたにもかかわらず,国外に逃亡し,刑事裁判そのものから逃避したのであって,どの国の制度の下であっても許されざる行為である。しかも,それを正当化するために,国内外に向けて,我が国の法制度やその運用について誤った事実を殊更に喧伝するものであって,到底看過できるものではない。
我が国の刑事司法制度は,個人の基本的人権を保障しつつ,事案の真相を明らかにするために,適正な手続を定めて適正に運用されている。
そもそも,各国の刑事司法制度には,様々な違いがある。例えば,被疑者の身柄拘束に関しては,ある国では広く無令状逮捕が認められているが,我が国では,現行犯等のごく一部の例外を除き無令状の逮捕はできず,捜査機関から独立した裁判官による審査を経て令状を得なければ捜査機関が逮捕することはできない。このように身柄拘束の間口を非常に狭く,厳格なものとしている。
刑事司法制度は各国の歴史や文化に基づき長期間にわたって形成されてきたものであり,各国の司法制度に一義的な優劣があるものではなく,刑事司法制度の是非は制度全体を見て評価すべきであり,その一部のみを切り取った批判は適切ではない。
身柄拘束に関する不服申立て制度もあり,罪証隠滅のおそれがなければ妻との面会なども認められる。全ての刑事事件において,被告人に公平な裁判所による公開裁判を受ける権利が保障されている。
そして,我が国は,これまでの警察や検察,司法関係者と国民の皆様の努力の積み重ねにより,犯罪の発生率は国際的にみても非常に低く,世界一安全な国といってよいものと考えている。
もちろん,様々なご指摘があることは承知しており,これまでも,時代に即して制度の見直しを続けてきたものであり,今後もより良い司法制度に向けて不断に見直しをしていく努力は惜しまない。
我が国の刑事司法制度が世界中の方々に正しく理解していただけるよう,今後も,情報提供を行い疑問に答えてまいる所存である。
ゴーン被告人においては,主張すべきことがあるのであれば,我が国の公正な刑事司法手続の中で主張を尽くし,公正な裁判所の判断を仰ぐことを強く望む。
政府として,関係国,国際機関等とも連携しつつ,我が国の刑事手続が適正に行われるよう,できる限りの措置を講じてまいりたい。
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