無口で無表情な夫と、彼に嫁いだ病弱な妻。ふたりは心の底から愛し合っており、夫はぶっきらぼうながら、いつも妻を気にかけています。一方で妻は、身体の弱さから夫の役に立てないことを気に病んでいました。円満な夫婦生活を送っていた2人でしたが、妻はある決断を下します……。
夫は物静かで無表情な人でした。染め物を生業とする手は、いつも冷たい藍色に染まっています。そんな夫を妻は「藍色のような人」だと思っていました。
だけど夫は決して悪い人ではありません。病気がちな妻に対し、不器用ながらも心配の言葉をかけてくれる。心の内に秘めた優しさに彼女は知っていました。
そして「藍色」もまた、ただ冷たいだけの色ではありませんでした。夜空のようで、深い海のようで、たくさんの「あお」が重なり合ったその色は、見れば見るほど複雑で暖かな色だと妻は気付いたのです。
ある日のこと、妻は風邪で寝込んでしまいました。病床で不安に駆られた妻は、日頃の憂慮からつい「自分なんていなくなった方が……」と口走ります。病弱で迷惑をかけるばかりの自分を夫は疎んでいるのではないか、優しさから言い出せないだけではないか……。
それを聞いた夫は、眉間にしわを作り、口をへの字に曲げ、目に涙を浮かべ「いなくなっていい訳がないだろう、そんなこと言うな」と妻を抱きしめます。
やがて妻は、ある決断を下します。病弱な身体ではとても耐えられないだろう、夫に辛い思いをさせてしまうだろう、と避けていたこと。それでもなお望んだ、自分にしかできないこと。妻は夫との子を身ごもったのです。
そして迎えた出産の日、ただひとり待ち続ける夫に知らせが来ます。子どもが産まれると同時に、妻が命を取り留め無事に終わったと。それを聞いた夫は、今までに見せたことのない藍色の表情を浮かべるのでした。
作者は『めしぬま。』などで知られる漫画家のあみだむく(@higemoku)さん。ヤングアニマルにて連載中の『メシアの鉄槌』最新刊2巻が発売中です。
無口な夫と病弱な奥さんの話
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