「ウイルスばらまいてやる」男性“店内映像”報道、本人の同意がない場合は問題ないのか聞いた 弁護士「店舗側やメディア側が訴えられる可能性」
もし客に許可を得ず防犯カメラ映像を提供したらどうなるのか、聞いてみました。
新型コロナウイルスの感染が確認された後に「ウイルスをばらまく」と複数の飲食店を訪れた愛知県蒲郡市の男性について、複数のメディアがフィリピンパブ店内の様子を防犯カメラの映像を用いて報道しています。もし映像に写っている人の許可を得ていない場合、店内の映像を報道することには法的に問題がないのか。弁護士に見解を聞きました。
物議を醸しているのは、愛知県蒲郡市に在住している57歳の男性。3月4日に新型コロナウイルスの検査を受けた際、陽性が判明しました。その後保健所が自宅待機の要請をしていたものの、家族に「ウイルスをばらまいてやる」などと話して外出したとされています。
こうした状況について、多くのメディアは「フィリピンパブ側から提供を受けた」とする店内防犯映像を交えて報道。男性が女性従業員の接客を受ける様子やカラオケに興じる様子が写っていました。
過去にはASKAさんのタクシー車内映像が問題に
男性の行動については不適切という他ありませんが、こうした報道について気になるのが「映像に写っている人の許可を得ていない場合の映像の取り扱い」。
今回のケースでフィリピンパブ側や報道機関が男性に許可を得ているかは不明ですが、2016年11月には歌手のASKAさんが覚せい剤取締法違反で逮捕される直前に利用したタクシーの車内映像を複数のテレビ局が報道。フジテレビ報道局の記者がタクシー会社側に「社会的に必要な情報は配信しなければならない。責任は負う」と強く提供を求めていたことが発端だったと明らかとなり、物議を醸しました。
2016年11月30日には映像提供したタクシー会社が加盟していたチェッカーキャブが謝罪したほか、2016年12月に国土交通省が「ドライブレコーダーの映像は、事故調査など安全確保のために活用されるべきにも関わらず、趣旨に反して乗客のプライバシーに配慮することなくマスコミに映像が提供されたことは誠に遺憾」との見解を示すなど世間の関心も集まりました。
ASKAさんはその後、「無断でテレビ局に映像提供された」としてタクシー会社側に慰謝料を求める訴訟を起こし、東京地裁は2019年1月に「映像の提供に公益性はない」と違法性を認めたうえで220万円の支払いを命じています。
弁護士に聞く、店内防犯映像を客の同意なく公開することの問題点
ASKAさんの報道については刑事事件に関連するものでしたが、今回のようなケースについてはどういった見解となるのか。ねとらぼ編集部はグラディアトル法律事務所の井上圭章弁護士にお話を伺いました。
――店舗側が写っている本人に無断で防犯カメラなど映像をメディアに提供をした場合、問題があるといえますか。
井上弁護士:店舗側やメディア側が本人に訴えられる可能性があります。
一般に、どこで何をしているかといったプライベートに関することについて勝手に公開されない利益や、他人から勝手に写真や動画を撮られたりせず、またそれらが世間に公表されたり利用されたりしない利益は、プライバシー権や肖像権として法律上保護されます。
また、その人の社会的評価などについては、名誉権によって法律上保護されます。そのため、写っている本人の同意や承諾なく、その映像等をメディアに提供したり、放送したりすることによって、これらの権利を侵害し、それによって損害が生じた場合、映像を提供した店舗や放送したメディアは、不法行為責任(民法709条)を負い、訴えられる可能性があります。
もしそうなった場合、瞬時に多くの人に閲覧されるといった性質を持つメディアの特性から、その損害額が高額となることもあります。ただその映像等が公開されることによる不利益よりその映像等を提供し又は放送等する利益が上回る場合や、公共性や公益性があり、それが真実であることなどの事情が認められる場合には、不法行為責任を負わないこととなります。
また今回の映像のように、犯罪行為に該当し得るような映像を、公共性や公益性がないにもかかわらずメディアに提供したり、ネット上で公開したりしたような場合、名誉毀損罪(3年以下の懲役もしくは禁固又は50万円以下の罰金)に問われる可能性もあるので注意が必要です。
――ASKA氏の場合、刑事事件に関連しての映像流出ですが、蒲郡市の男性の場合、映像を用いた報道には公益性・公共性があるといえますか。
井上弁護士:先に述べた通り、名誉毀損にあたるような行為であっても、公共性や公益性などが認められ、それが真実である場合、不法行為責任を負わないこととなります。
確かに刑事事件に関連するような映像であった場合、公共性や公益性が認められやすい傾向にあります。(今回のケースは)断片的な情報しか明らかになっていないため、判断が難しいところですが、新型コロナウイルスが全国に蔓延しており、その蔓延を防止しようとの取り組みが強化されていることなどからすると、一定の公共性・公益性は認められると思われます。
――男性自身は新型コロナウイルス陽性の事実を把握しつつ自宅待機要請を無視し、「コロナウイルスをばらまく」と家族に話して飲食店2軒を訪れたと報じられています。この場合、男性が訪れた飲食店側が男性側に責任を求めることはできますか。また男性が刑事的責任を求められる可能性はあるか。
井上弁護士:飲食店側は男性側に対し、感染拡大防止のために生じた費用(消毒費用や休業によって生じた損害等)の損害を賠償するよう求めることができます。
男性は自身が新型コロナウイルス陽性の事実を知って、しかも、「コロナウイルスをばらまく」と家族に話していたとの報道があります。これが真実であった場合、自身が飲食店を利用することで、従業員や利用客に新型コロナウイルスを感染させる恐れがあること、店側に対し、感染拡大防止のために消毒にかかる費用や店を休むことによって生じた損害、場合によっては、風評被害などによる損害が出ることは容易に想像できます。それにもかかわらず「コロナウイルスをばらまく」目的で飲食店を利用することは、不法行為に該当し、損害賠償責任を負うこととなります。
他方、業務妨害罪(3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)や傷害罪(15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)に問われる可能性もあります。「コロナウイルスをばらまく」目的で飲食店等を利用することは、新型コロナウイルスの対応によって通常の飲食店の業務が妨害されることとなることとなり、業務妨害罪に問われる可能性があります。
また、従業員や利用者に対し、意図的に新型コロナウイルスが感染するような行為をとり、それにより、従業員や利用者に新型コロナウイルスが感染したような場合、人の生理的機能に障害を与えたとして傷害罪に問われる可能性もあります。
男性が訪れたフィリピンパブでは、来店当日に店に居合わせた女性従業員が新型コロナウイルスに感染していたことが3月12日に明らかとなっており、店側は複数の報道機関に対して被害届を出すという方針を伝えていると言います。また時事通信によると事態を重く見た愛知県警は威力業務妨害などを視野に捜査を進める方針とも報じられています。
男性の行動は強く非難されても仕方のないものですが、報道機関側には慎重な報道が求められます。
(Kikka)
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