――単行本化の情報が最終回の前日あたりにフライングで表に出てしまって、そのあたりと重なってしまった部分もありますよね。
きくち 「余韻が無い」と……。
中尾 振り返ってみると「余韻」の部分に関してはその通りだなと思いますよね。ただ、トータルで考えると結局全て結果論なので。あのときはコロナでこんな状況になるなって予想もできなかったですし。
――「100日後に死ぬワニカフェ」なんて、まさにコロナ直撃でしたね。
中尾 予約は250組くらいいただいてたんですけど、本当にタイミングが……。残念ですが、今のところ再開の予定は立っていません。
いきものがかりのMV
――うーん。今振り返っても、いつどういう順番で情報を出すのが正解だったか分からないですよね。ねとらぼでもきくち先生インタビューを最終回と同日か翌日に出したいと打診していて。先生が多忙だったので流れてしまいましたが、下手をしたら火に油のタイミングで掲載されていたかもしれません。
中尾 いきものがかりさんのMVも、本当に良いものができて喜んでいたんです。これを見て本編のエンディング曲だと捉える人もいるだろうし、これが本当の最終回だと捉える人もいるだろうと。みんなよろこんでくれるんじゃないかなあと思ったんですが、それが結果「電通案件」の火種にもなってしまった。
――あのMVにも電通は関わっていないんですか?
中尾 電通の人が2人ほどクレジットされていますが、あくまで、いきものがかりさんチームのスタッフとしてで、ワニのMV企画は電通さんが仕掛けたものではないですね。
きくち いきものがかりさんがちょうど4月に独立するというタイミングで。FIREBUGという会社の社長さんを通じて、MVをやりたいというお話をいただいたんです。
――あ、じゃあMV自体はいきものがかり側からの提案だったんですね。
きくち 断るわけがない! って感じでしたね(笑)。それで直接いきものがかりの方たちと会って、「じゃあ来週曲上げてきますね」って。そのMVを作る中で、電通の方がクレジットされたというわけなんです。
中尾 2月14日に最初の打ち合わせがあって、バレンタインだから聖恵さんからチョコをもらいましたよね。
きくち 「やったー! ……て、手紙も入ってる〜!」って。うれしかったです。
中尾 通常の漫画コンテンツとかだと、じゃあ権利とか予算はどうするんだって話になり、そこの調整で時間が過ぎていくんですよね。でもいきものがかりさんと、きくちさんがOKしてくれたから、あのスピード感でやれたんです。
――業界的にもかなりの特例だったんですね。
きくち でも、そのせいでかえって「こんなの1年前に計画してないと無理だよ」とか言われたりして……。
『ワニ』が単行本になるまで
――お話を作品に戻しますが、最初は完全に一人で描いていたんですね。
きくち そうです。本当に孤独に描いていたので、「これで良いんだろうか?」と最初は不安でした。100日更新するスタイルは以前『何かを掴んでないとどこかに飛んで行っちゃうアザラシ』で経験があったので、1日目から40日目まではこういう流れでとか、40日目から60日目まではこうとか。ここは失恋してちょっとへこんでる時期とか、ここは変化の時期とか。大まかにフェーズで分けながら進めていきました。
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