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恐怖の記録映像「コリアタウン殺人事件」はマジなのか? スタッフ・キャスト一切不明のアマプラ映画がSNSで話題に

Amazon Prime Videoに突如現れた謎の映画。

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 SNSで話題になっているファウンドフッテージ映画「コリアタウン殺人事件」が評判通り衝撃的なシロモノでした。



Amazon Prime Videoにあらわれたスタッフ・キャスト一切不明の映画「コリアタウン殺人事件」

 ファウンドフッテージとは“ある場所で見つかった記録映像”というテイで作られた映画のこと。代表的な作品は「ブレアウィッチ・プロジェクト」でしょうか、あれも失踪した3人の若者のビデオテープが見つかった、という映画でした。すなわちファウンドフッテージとは、「これは作り物ではなくマジですよ」という前提が恐怖や現実感をかき立てる映画と認識しておけばよいと思います。

 「ブレアウィッチ・プロジェクト」のヒットもあり、ファウンドフッテージ作品はこれまで大量に作られてきました。映像のショボさがリアルさに直結するので、低予算でも形になっちゃうんですね。それだけに駄作も多くて、ここ最近で評判が良い作品ってちょっと思いつかないかもしれない。そもそもジャンル名自体聞いたことがない方も多いんじゃないでしょうか。

 そんなB級ジャンルの映画が、なぜ世界中で話題になっているのか。その理由は本作の圧倒的なリアリティにあります。Amazon Primeで正規に配信された作品で、すでに大きく騒がれているにもかかわらず、スタッフ・キャスト共に一切不明。正直、僕は「これマジなんじゃね?」と思いながら見ていました。



【ネタバレ注意】本来であれば、ここから先は鑑賞後に読むことを推奨します。物語上のネタバレは極力避けていますが、知らずに見たほうが楽しめるであろう情報があります。カルト映画、ホラー映画が好きな方は今すぐ見てほしい……。

 ロサンゼルスのコリアタウンで起きた殺人事件。タエ・クゥアン・サンという男性が自身の妻に殺害された。近所に住む主人公は、事件の不可解な点を見つけ、スマホのカメラを使って個人的な聞き込み調査を開始するが……。

 大まかなあらすじはこんな感じ。サスペンスとしてはありきたりな設定です。こういうお話は裏に大きな闇の存在が隠れていて、勘のいい主人公が真相に迫っていく――といった内容を想像しますが、本作は予想を大きく上回る……いえ、下回る展開へと向かっていきます。

 主人公の捜査能力はずぶの素人。「誰かとすれ違わないかな」とか言いながら、その辺の住人にずけずけと質問をぶつけて回ります。「被害者のことは知ってる?」「事件についてどう思う?」「目撃者にまた話を聞きたいな……。偶然会えることに期待して町をぶらついてみよう!」。行き当たりばったりすぎる。

 仕事をクビになり、事件の真相解明だけを心のよりどころとする彼は、偏執的なまでに捜査にのめり込むように。パートナーからは愛想を尽かされ、聞き込み相手にすら「あんたヤバそうだぞ?」と心配される始末。様子がどんどんおかしくなり、統合失調症の兆候があらわれます。



 集団ストーカーの妄想に取りつかれた主人公は、事件の被害者であるタエ・クゥアン・サンからのメッセージを受信し、やがて彼の言葉に救いを見いだします。部屋に彼の写真とロウソクを立て、「子どものころ、母親が死んだ瞬間に感じたつながりを君にも感じる」と語り掛け……と、そろそろ視聴者もこの映画がグダグダなサスペンスものではなく、一人の人間がおかしくなっていく様を残した記録映像なのだと気付くわけです。



 ……が、その考えはとある人物の出現でいきなりハシゴを外されます。物語のカギを握るホームレス。彼は「タエ・クゥアン・サンのことを知っている」と語り、主人公の妄想を裏付けるような目撃情報を口にするのです。「事件の夜、ある車庫で紫色の光を見た。中には人影が3人見えた」「集団ストーカー組織は実在する」と。それって主人公の妄想じゃなかったの?

 ホームレスから情報を得た車庫。それは容疑者であるテギョンの妻が逮捕された場所でした。“紫色の光”という言葉に魔術的な何かを確信した主人公は、車庫に忍び込もうとするのですが……。ここから本当に恐ろしいことが立て続けに起こっていくのです。



 ここから先はぜひ自分の目で確かめてください。主人公に降りかかる出来事も怖いし、そもそも主人公が信用できないから、ひと時も安心できる暇がない。「あ〜やっと怖い場面が終わった」と思っても、今度はビデオを撮影してるヤツが何するか分からないんです。この終盤の緊張感は、同ジャンルの他作品と比べても一線を画しています。マジで怖かった……。

 冒頭でも述べたように「事実なんじゃないか?」と思わせるリアリティが本当に怖い。カメラを持つ手は終始震えていて、常に画面が揺れまくり。さらに、主人公が街で声をかける人たちは、本当に今カメラを向けられたようなリアルな表情を見せるのです。しつこい質問攻めに辟易(へきえき)しながらも気を遣って対応してくれる様子や、向けられたカメラに思わず顔を隠そうとするしぐさなど。スマホのカメラ越しに見る映像なのでそう錯覚するだけかもしれませんが、それでもやはり演技だとはとても思えませんでした。まあ、ネイティブの方が見ればひどい演技に見えるのかもしれませんが……。

 加えて、主人公の言っていることもあながち信じられなくはないんですよね。「キェエエエエ!」とか叫んで全裸で走り回ってくれたりしたら、「こいつヤバイ奴だ」と一発で分かるんですが、主人公の妄想は現実味を失うラインをギリギリ超えないんです。加えて、時にカメラも主人公の言う異様な光景を裏付ける。「闇の存在による陰謀とまでは思わないけど、でも確かに変だよね。まあでも偶然だろうけど……」という、実に絶妙なバランスで話が進みます。



 そして何より、この殺人事件はLAのコリアタウンで実際に起こっているのです。作中で主人公が見ているニュースサイトは、検索すれば今でもヒットしました。

 さらに本作が公開された日付は2020年2月ですが、2019年5月に、海外の掲示板4chanに「友人から謎のビデオが送られてきた」という書き込みがあるんですよ! この情報は僕のフォロワーさんから提供していただきました。



 「昨年、音信不通になっていた大学時代の友人から小包が届いた。中身は60時間以上の映像が入ったHDDと、意味不明な手書きのメモだった。彼に連絡を取ろうとしたが、まるで地球から消えてしまったみたいに音信が途絶えてしまった。彼は、私がこの映像を編集して公開することを望んでいた。この1年仕事が忙しくて手がつけられなかったが、最近になってやっと調べ始めた」とのこと。さらに、作中で登場するシーンのスクリーンショットも何枚か貼られています。作品の結末ともつじつまが合いますし、事実はどうあれ、映像に関係する人物の書き込みと考えて間違いないでしょう。

 ……怖くないですか?

 殺人事件が起こったのは2017年7月30日で、書き込みがあった日付は2019年5月9日。約2年間もの空白期間があるのです。作り物だとしたらこのタイムラグは長すぎるように感じますし、公開まで再び日が開いていますから、プロモーションとしても不自然です。

 さて、大の大人が「マジなんじゃね?」と盛り上がっている理由を分かっていただけたでしょうか。おかしな点はあるけれど、作り物とも断定できないという。その曖昧さに心をくすぐられ、つい真相を解明したくなってしまうのです。

 ただ、僕の考えを述べるとすれば、正直なところ99%フェイクだと思います。なぜなら面白すぎるから。特に終盤の展開には、記録映像として不自然なほどの娯楽性がありました。もちろん、たくさんの人に見てもらうために(見てもらわなければならない理由が公開者にはあります)面白く編集している可能性もありますが、だとしてもキレイにまとまりすぎでしょう。だって起承転結が映画なんだもん。

 さらに本作のラストでは以下のような注意書きが流れます(ごく単純な和訳で、原文はもっと長いのですが、大体こういったニュアンスのメッセージです)。

 「この作品で描かれるストーリー、ほとんどの名前、登場人物、事件は架空のものです。合理的な考えを持つ人であればこの映画や主人公の主張を信じるわけはないでしょう。これはあくまで陰謀論や説教者へのパロディ/批判です。このプロジェクトについての調査はお勧めしません。探したって何も見つかりません、ただの映画です」

 明らかに実在の事件を扱っている点や、最後の「ただの映画です」という念押しがどうにも引っ掛かるところですが、事情を知る何者かがその口を開くまでは、作者の言い分を信じたいと思います。作り話であればそれに越したことはないのですから。



城戸

スクリーンショットは全て予告編より



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