女性誌で活躍する野原広子のマンガは、メチャクチャパワーがあります。妻と夫との関係や、ママ友との関係の中で、日常生活で誰もが覚えのある(やった側も、やられた側も)エピソードをすごい観察眼で切り出します。
テーマによっては本当に怖い! 「よみタイ」(集英社)で連載中の『妻が口をきいてくれません』は、夫への期待と諦めを繰り返した結果妻が「夫と口をきかない」ことを選択、6年の月日が流れていたというストーリー。もはやホラーだとSNSで話題になりました。『離婚してもいいですか?』『離婚してもいいですか? 翔子の場合』(KADOKAWA)も、離婚の決定打がないから結婚生活を続けるものの、少しずつ(けれど致命的に)妻と夫の心の距離が離れていく話。
野原作品は劇薬みたいなもので、「ちょっと家族に不満があるな〜」くらいのときに読むと憎悪が増幅されかねません(逆に「この人を大事にしよう」とか「これよりマシだな」みたいになる可能性もある)。ここでおすすめなのが現在(※9月3日現在)Kindle Unlimitedに入っている『お仕事はじめました!』(主婦と生活社/全4巻)。野原マンガの「日常への解像度の高さ」を、落ち込むことなく楽しめます。
マイホームのローンの利息分だけでも稼ごうと、7年ぶりに外でパートの仕事を始めた32歳のママ。パパは37歳サラリーマン、小2のコマちゃんと保育園に入ったばかりの3歳児チマちゃんの2人の女の子、猫のマウちゃんと一緒に暮らしています。勤め先の小さなスーパーマーケットには、ベテランのパートさんがいっぱい。怒られたりミスをしたりフォローしあったりおしゃべりしたり困ったお客さんに翻弄されたりお迎えにダッシュしたり……と、仕事と家庭の日常がこまやかかつコミカルに描かれている4コママンガなのです。
仕事でミスをしてメチャクチャ怒られた日は子どものミスにちょっと優しくなれたり、ニコニコ笑顔のレジ係さんが休憩時間に小部屋で「きーっ」と叫んでいたり、ドラム式洗濯機・食洗器・ルンバの“3種の神器”を「いつもありがとうございます」とナデナデしたり、イチゴの上に牛乳を乗せてしまう夢を見てうなされたり。「やだなやだな〜」「ママおちごとやだの?」「やだなやだなといいながら行くのが楽しいの」「えー? わかんない」(2巻収録/「仕事の心」)もウォ〜わかる〜となります。野原広子ワールド“入門編”にぴったりのシリーズです。
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