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息子が殺人犯でも被害者でも“最悪” 映画「望み」で描かれる家族の生き地獄(4/4 ページ)

逃げ場のない家族の生き地獄映画「望み」の魅力を解説する。

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 本作の監督は映画「20世紀少年」やドラマ「トリック」シリーズなど大衆向けのエンタメ作品を手掛けるも、映画ファンからは「演出が大仰」などと批判にさらされがちな堤幸彦氏だ。

 彼は多くの作品で、カメラの横で役者に演技指導をするのではなく、別室でモニター越しに指示を出すという演出をしているため、役者の演技が「やらせっぱなし」になり不自然になってしまう傾向もあった。だが、この「望み」では主要キャストがもともと持っていた存在感と演技力のためか、大きな問題はない。

 むしろ、現場を取り仕切る統率力を持ち、登場人物の配置と情報の整理力に長けた堤監督の資質が、分かりやすいエンターテインメントに寄せた「望み」という作品にマッチしており、適切な人選だと思ったほどだ。

息子が殺人犯でも被害者でも、最悪。映画「望み」で描かれる家族の生き地獄。 (C)2020「望み」製作委員会

 ちなみに、本作の主要の撮影は2020年1月7日から2月11日までに行われ、桜の実景だけ3月に埼玉各所で撮影したため、幸いにも撮影面においては新型コロナウイルスの影響を免れた。

 だが、編集以降をリモートで行わざるを得なくなり、製作陣は慣れない作業のため苦労に苦労を重ねたそうだ。劇伴制作に至っては、緊急事態宣言が解除されてから、ドイツでディレクション、日本で中継しながら、ハンガリーのブタペストで弦楽オーケストラ演奏の録音という、3カ国に分かれた作業をオンラインでつないで行ったのだという。「コロナ禍でもネットを駆使して世界をつないで音楽を製作した」という事実は、称賛すべきことだろう。

 結果として、この「望み」が「誰が見ても面白い」と思えるほどの完成度の高い映画となったことは、とても喜ばしいことだ。SNSでの誹謗中傷が大きな問題となった2020年の今、「対岸の火事ではない」恐ろしさを体験するという点でも意義のある作品であるだろう。思春期の子どもを持つ親世代が見れば、劇中の最悪な体験を通して、「こうならないためにできることはある」と重要な学びが得られるはずだ。

 なお、2020年6月には同じくSNSの誹謗中傷を描き、加害者とされた家族が生き地獄に落とされる傑作映画「許された子どもたち」が公開されている。こちらは各所で絶賛を呼び、現在でも上映が行われているので、お近くの劇場で上映されていれば、ぜひ合わせて見ていただきたい。

ヒナタカ

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