その一軒家の中心には大きく開けた吹き抜けがあり、2階に上がる階段も含め仕切りがなく、1階から息子の部屋も思い切り見えている。父はその構造を持って、クライアントに「この子どもとの距離感を大切にしているんですよ!」と自信たっぷりに紹介するのだが、その後に部屋をノックされ紹介された息子は愛想のかけらもなかった。
ここで、客観的に「ひょっとしてこの家の構造は息子にとっては距離感が近すぎてウザいのでは?」という疑問も抱けるようになっているのだ。
その他にもセットには、「ダイニングテーブルは250万円、ソファは150万円もする高級品であるが、あまりに凝ったもの過ぎて家族には使いづらい」「金属の階段や、設計事務所の外壁と門扉とリビングの壁が、同じ素材を使ったデザインになっている」など、細かな設定がされている。この独特の美意識で統一された家には、「夫婦の思いの違い」も示しされているという。
誰もが憧れるような高級邸宅に住んでいることが、逆に「うわべだけ取り繕った家族」の姿を反映するようにも見えてくる。登場人物がセリフで説明せずとも、彼らの心理が舞台からも伝わるというのは、“映像”で魅せる映画ならではの醍醐味だ。
さらに注目してほしいのは、母が作る料理だ。彼女は初めこそ有機野菜などを買っていて、丁寧に料理を作っていたのだが、途中からレトルトの袋が散らかるようになり、“余裕のなさ”を如実に反映するようになっている。他にも、美術を隅々まで見ていると登場人物の状況が分かるようになっているため、注意して見ると、より楽しめるだろう。
豪華俳優陣の演技合戦と、コロナ禍で成し遂げたもの
主演に堤真一、共演に石田ゆり子という、ベテランの俳優の“演技合戦”も本作の大きな見どころだ。堤真一は息子に対する複雑な感情を抑えようとするも、やがて冷静でいられなくなる難しい役どころを見事に演じきっている。石田ゆり子演じる母は愚直なまでに息子の無事を信じるのだが、そこには“行き過ぎた母性”の恐ろしさも存分に感じさせる。
中学生の妹を演じたのは「宇宙でいちばんあかるい屋根」や「ちはやふる 結び」などの清原果耶で、かれんな顔立ちながら「兄が殺人事件の犯人と疑われる少女」の心の機微をわずかな表情の変化で表現しきっている。行方不明になる息子を演じた岡田健史は登場シーンはわずかであるものの、その鋭いまなざしから“隠している気持ち”が十分に伝わる存在感を放っていた。怪しい雑誌記者を演じた松田翔太も、これ以上のない適役だろう。
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