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解説
かつて見殺しにした恋人の影に怯えていた語り手。彼が家の火事に見舞われたとき、「置いていかないで」と手を伸ばしてきたのは、朋乃の亡霊だったのでしょうか?
しかし病院でうっすら聞こえてくる声を見ると、「忘れ物を取りに」「ひとりで家に戻って」といった言葉が並びます。語り手の妻と娘はその夜実家に帰っていたのですが、ひとりは忘れ物を取りに家に戻ったようです。
そう説明するのは語り手の妻。怯えるあまり、語り手がその腕を振り払い、業火の中に突き飛ばしてしまったのはおそらく……。
「我が子を怪異と見誤り、殺してしまう」という本話の主題は、小泉八雲が「幽霊滝の伝説」として取り上げたことで知られる怪談のバリエーションから取ったものです。
赤ん坊を背負った貧しい母親が、金を賭けた肝試しに参加する。母親は怪異に見舞われながらもなんとか帰ってきて金を得るが、背中の我が子がいつの間にかとり殺され、首を奪われていた――という話ですが、単に「肝試し」と題されることの多いバリエーションでは、母親は護身用に鎌を持って肝試しに参加し、途中、赤ちゃんが自分の髪を引っ張るのを化け物の仕業と誤認し、切りつけてしまう、というストーリーに改話されています。
個人的には、「物語中に起こったことには合理的に説明がつくのに、それによってなにも救われない」という残酷さで、後者の方がより「こわい」ように思われます。
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