【好きなゲームが世間のクソゲーな人インタビュー】RTAでは極悪難易度が面白さに変わる「邪聖剣ネクロマンサー」(1/2 ページ)
「多大な時間を本作のRTAに費やしEDも10回以上は見ました」というRTA走者さんにお話を伺いました。
年末企画「自分の好きなゲームが世間ではクソゲーと言われている人インタビュー」。今回はPCエンジンミニにも収録された「邪聖剣ネクロマンサー」のRTA走者さんにお話を伺いました。
企画:好きなゲームが世間のクソゲー
「これはクソゲー」「あれはクソゲー」と世間は気軽に言うけれど、遊び方も感性も人それぞれ。むしろ、そんな風に言われている作品の魅力を知っている人に話を聞いてみよう。Twitterで募集をかけたら、2〜3人くらい手を上げてくださるのでは?
……と思っていたら、100人くらいから連絡が来ちゃった企画です。編集部のリソース的に可能な範囲で記事化。1日1本ペースだと公開しきるまでに数カ月かかるので1時間に1本ずつ公開します。
「邪聖剣ネクロマンサー」(秋やぼ兄貴さん/@geriyabo)
1988年にPCエンジン初のRPGとして発売された本作は、クトゥルフ神話をモチーフにしたダークファンタジー。「夜 一人では遊ばないで下さい」というCM、『ダイの大冒険』の脚本でおなじみ三条陸氏によるシナリオ、H・R・ギーガー氏によるパッケージイラストという、極一部のファンに突き刺さる作品です。
本作の魅力としては
- 5人の仲間のうち2人を選んで3人パーティを組むので遊び方が豊富
- 現代でも見劣りしない、PCエンジンの性能をフルに引き出したグラフィック。クトゥルフをモチーフとしたモンスターデザイン、内臓や血しぶきの表現
- 歯ごたえのある難易度で何十時間でも遊べる
というものが挙げられるのですが、なぜか世間では全て否定的に受け止められていて、非常に残念です。
世間ではクソゲーと言われている理由
- 高いエンカウント率
- 次の大陸へ行くと跳ね上がる敵の強さ
- 最初に仲間を選べるが、5人中2人が明らかに使えない(バロン/詳細は後述)
- 「見えない隠し通路」を通らないと次の大陸へ渡れないのに微妙なヒントしかない
- リセットして再開しようものなら「ひらがな・カタカナ・英語」の組み合わせを50文字以上も打たないといけない
など、ゲームは1日1時間の高橋名人も連射で殴るレベルの不親切設計です。
その理由に納得できるか
攻略サイトがなかった時代は投げ出してもしょうがないね。
RTA視点だと見方が変わる「邪聖剣ネクロマンサー」
私は趣味で動画制作とRTAをしているのですが、ある兄貴に勧められて(圧)本作に触れ、初めはだまされたと思いましたが徐々にドハマリしてしまい、多大な時間を本作のRTAに費やしEDも10回以上は見ました。
正直……通常プレイは控え目に言って地獄。極悪難易度です。しかし、研究を重ねるうちにRTAのタイムが短縮され、クソな要素が魅力に変わっていきました。
第一に、調整が大味なダメージ計算。「攻撃力−防御力」という単純な計算式(いわゆるアルテリオス計算式)に基づいており、この影響で次の大陸に行くと敵の強さが跳ね上がります。しかし、RTAの場合、強い武器を手に入れてそのウィークポイントを一瞬で覆すことができます。
本作の有名な裏技で「座標バグ」というものがあります。これは「フィールドマップとダンジョンマップの座標データが共通のアドレスを使用しているため、ラストダンジョンの宝箱が最序盤の大陸で拾える」というもの。おかげさまで、最後の大陸まで作中4番目に強い武器「トルース」で進めることができます。
また、近年、有志の調査により最強の防具と大金、イベントアイテムの像が序盤に落ちていることも発見されました。これによりRTAでは大味なバランスがそのまま利点となりました。
次に“稼ぎ”の長さです。最強の武器や防具は序盤で手に入りますが、本作のラスボスはべらぼうに強く、大半の時間を経験値稼ぎに費やすことに。そこでRTAでは、本作の「戦闘終了時に生き残っているキャラに経験値を分配する」というシステムを利用した強キャラの集中育成が有効です。
ラスボスにダメージが与えられるのは主人公だけなので、お供2人を間引いて、その分の経験値を主人公に集中させることで大幅なタイム短縮になります。
3つ目が素早さ偏重のバランス。
素早さが行動順や逃亡率、命中率、回避率に影響し、さらには相手との素早さの差に応じて最大3回の複数回攻撃。終盤のボスは非常に素早さが高いのですが、こちらの素早さが足りないと攻撃が当たらないばかりか、連続攻撃まで食らってしまいます。本作は素早いキャラが制するバランスなのだ!
仲間になるキャラの1人「疾風のマイスト」は、全体的なステータスは低いものの素早さが非常に高く、レベル4でも中盤の敵から余裕で逃げられます。このおかげで、マイスト1人旅でガンガン先の町へ向かうことが可能となります。なお、レベルを上げ過ぎるとステータスがオーバーフローしてしまい、逆にもっとも鈍足なキャラに成り下がります(小声)。
また、仲間の1人に「バロン」という、HPと攻撃力が飛びぬけて高い漢(おとこ)がいます。しかし魔法が一切使えず、素早さもクッソ低いので被弾すると連続攻撃を食らいやすく、ゲームの仕様で他の味方にまで攻撃が流れてしまいます。マイストとは真逆の、本作とは相性が悪いキャラ。こいつを使うこと自体が罰ゲームみたいなもんです。
しかし、本作のラスボスは攻撃力がべらぼうに高く、低レベルでゲームを進行させていくRTAでは、ほとんどのキャラが一撃でやられてしまいます。唯一耐えられるのが、HPの高いバロンなのです!!!
本作には敵の素早さを下げる魔法があるので、連続攻撃も絶対的な脅威ではありません。マイストとバロンをうまく使いこなせば、上述の通りまずい戦闘バランスも余裕で克服できるのです。バロンはRTA、そして、「邪聖剣」の魅力を担う救世主の1人なのです! ……と主張しているのですが、なぜか私の師匠である某兄貴は真面目に聞いてくれません。
本作のRTAでは他にも「敵の出現を抑えるセルス」「異常に盛り上がる四天王戦」などRTA的に盛り上がる要素が、そして「通常プレイで苦労した経験を生かして、大幅に短縮したタイムでクリアできる」という快感があります。
余談ですが「邪聖剣」のRTA記録は、7年前は某“b兄貴”による5時間半ほどでしたが、その後、座標バグの発見によりRTAのチャートが劇的に進化を遂げました。5年前に私が4時間台へ更新し、その翌年には4時間8分を達成。近年では他の走者様が、さらに早い2時間52分の大記録を達成しています。
このように発売から30年以上たった今もなお、有志の方による研究結果が報告されている点も本作の魅力の1つだと思います。
※秋やぼ兄貴さんのRTA解説動画をYouTubeや、ニコニコ動画上に投稿されています。
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