Netflix「パシフィック・リム:暗黒の大陸」レビュー 日本よ、あの熱狂を思い出せ! エヴァファンにもおすすめしたい理由(2/3 ページ)
Netflixオリジナルアニメ「パシフィック・リム:暗黒の大陸」があまりに話題になっていないため、その魅力を全力で訴える。
こうした実写映画版からの作風変化こそが、「こんなの俺の知っている『パシフィック・リム』じゃない」という否定的な声があがってしまう大きな理由だろう。だが、すでに「やり切っている」感がある実写映画とは違う方向性を示したことは、スピンオフのアニメ作品としてはむしろ正しいアプローチであると、筆者は肯定したいのだ。
キャラクターの魅力と、「ドリフト」の設定を生かした関係性萌え
「暗黒の大陸」はキャラクターの魅力も大きい。兄テイラーは正義感の強い真面目な性格で、ヒーローたり得る素質を持っている。妹ヘイリーはひょうきんで可愛らしいが、意外にリアリストでもあり理想論を語る兄とたびたび衝突してしまう。性格が正反対にも思える兄妹ではあるが、それでも言動の端々にお互いへの愛情と信頼が感じられる。下世話な言い方をすれば「兄妹萌え」が半端ではないのだ。
その他にも、謎の子ども、クールビューティーな美女、理系オタクっぽい青年など、個性的なキャラクターが次々に登場し、印象に残る活躍をしてくれる。イェーガーに搭載されているAIとのやりとりがコミカルというのも楽しい。絶望的な世界観だからこそ、彼らの幸せを心から願い、応援もしたくなる。声優も兄テイラー役の小林裕介、妹ヘイリー役の下田屋有依を筆頭に、全員が文句なしの熱演をしている。
そして、「パシフィック・リム」シリーズにはキャラクターの関係性を明確に示す設定が存在する。「ドリフト」だ。それは2人のパイロットの神経をイェーガーとシンクロさせるためのテクノロジーで、記憶を溶け合わせ「心身一体」となり、その「つながり」が強いほどに強くなれる。つまりは、ドリフトがうまくいっているほど、そのキャラクターは仲良しということだ。
ネタバレになるので詳細は伏せるが、今回の「暗黒の大陸」では、そのドリフトの設定が主人公兄妹以外のキャラクターとの関係性も明確に示すようになっていく上、「1人でイェーガーを操らなければいけなくなる」というピンチも訪れたりする。実写映画版よりもさらに、ドリフトという設定が物語上も意味のあるものとして扱われているのだ。
前述した通り、「暗黒の大陸」は実写映画版とは大きく作風を変えている。だが、独自の設定であったドリフトを生かすことで、「パシフィック・リム」という作品である意味がしっかりと存在し、そしてキャラクターの関係性萌えも加速させている。スピンオフのアニメ作品として、改めて誠実なアプローチではないか。
実写映画版に負けず劣らずの大迫力のバトル、そして新機軸の面白さ
「暗黒の大陸」の製作会社は、弐瓶勉原作の「シドニアの騎士」、虚淵玄が脚本を務めた「GODZILLA 怪獣惑星」から続く3部作などで知られる、ポリゴン・ピクチュアズだ。
今回は、実写映画版に負けず劣らずの大迫力の巨大ロボットVS巨大怪獣のバトルを3DCGアニメで作り上げたということを、何よりも称賛するべきだろう。実際に「巨大だ」と思えるスケール感がしっかりとあり、新しく登場する怪獣のデザインも秀逸で、サウンドもこだわり抜かれている。
オープニングから大見せ場があるし、2話では巨大ではない「大型犬サイズ」の怪獣と人間の攻防も展開し、意外な存在も敵として立ちはだかる。ひとつひとつのアクションが十分なクオリティーである上に、バラエティ豊かなバトルが展開するため飽きることはないはずだ。
さらに、今回の「暗黒の大陸」からの新規軸として、イェーガーのアトラス・デストロイヤーが「訓練用」であり、全く武器を持っていないのもうまい。つまりはバトルで常に圧倒的な不利を強いられているからこそ、その状況を打破していくカタルシスが得られるのだ。
また、3DCGで描かれる人物は一見すると「のっぺり」した印象を持つかもしれないが、豊かな表情や身体の動き、前述したキャラクターの魅力や声優の熱演も合間って、実際に見れば存分に生き生きしている。
本作を敬遠する方の多くが、おそらくは「パッと見の印象」で引っ掛かっているというのは、あまりにもったいない。「ビジュアルが不安だったけど、実際に見てみるととても良かったよ!」となるのは、同じくNetflixオリジナルの3DCGアニメ「攻殻機動隊 SAC_2045」と共通していた。アニメそのもののクオリティーが高いということも、ここで断言しておきたい。
気になるのは人間との「いざこざ」のパート?
ここまで「暗黒の大陸」を称賛したが、それでも全ての人に好意的に受け取られることはないだろう、と思えるのも正直なところだ。
特に好みが分かれそうなのは、3話〜5話の人間たちのドラマ……というより「いざこざ」が展開するパートだろう。コミュニティーで独裁者のように振る舞う人間が登場し、そこで噴出する悪意も含めて、良くも悪くも気分が悪くなってしまう。やはり、実写映画版のような「ヒロイックな巨大ロボットのバトル」を期待している人にとっては、どうしてもNOを突きつけてしまうポイントだろう。ストレスがたまる展開がやや長めに続くので、ダレてしまったと感じる方も少なくはないはずだ。
だが、現在配信されている第1シーズンの最終話である7話まで見終われば、やはり人間たちのドラマパートは「その後」のカタルシスのために必要だと思えたし、荒廃した世界では「当然あるもの」として、個人的には肯定したい。ここでストレスを必要以上に感じてしまったとしても、その後まで見届けてほしい。
「瞬間、心、重ねて」がたくさんある
初めに記したように、あれだけ信奉者が続出したはずの「パシフィック・リム」のスピンオフであり最新作の「暗黒の大陸」は、あまり話題になっていない。改めてどういうことなのかと全人類に問い直したい。
ドリフトという設定は前述の通り、実写映画版よりもさらに生かされている。ドリフトでパイロット2人の気持ちを合わせ、共に敵を打ち倒すというのは、具体的には「新世紀エヴァンゲリオン」のテレビアニメ版9話「瞬間、心、重ねて」っぽいものだ。
あれだけ待たされた「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が特大ヒットし熱狂を巻き起こしていることにはもちろん納得しているが、「こっちもあなたたちが大好きだった巨大ロボットものとして存分にクオリティーが高いんだよ!」「“瞬間、心、重ねて”なシーンもたくさんあったよ!」と改めて訴えたいのだ。そんなわけで、シンエヴァの熱狂に便乗……もといビッグウェーブにあやかる感じで、「パシフィック・リム 暗黒の大陸」も見ていただきたい。
(ヒナタカ)
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