『嘘喰い』最強のエピソードがエア・ポーカー編である理由を、今から皆さんに説明します:今日書きたいことはこれくらい(1/3 ページ)
全部面白いけどやっぱり「エア・ポーカー」が突出していたよねという話。
最強議論って盛り上がりますよね。
例えば「ONE PIECEで一番強いのは誰だ?」とか「ドラゴンボールで一番強いのは誰だ?」といった話なんですが、この手の最強議論、大抵やたら白熱します。以前、酒飲みながら「黄金聖闘士で最強なのは誰だ」議論やったら2時間かかっても決着がつきませんでした。
この世にはありとあらゆる最強議論が満ち溢れておりまして、その中には恐らくあなたが知らない最強議論も多数あります。
例えばネット掲示板群「5ちゃんねる」には、強さ議論専用の板である「格付け板」なんてものがありまして、ただ「一番は何か」ということだけをテーマに、真面目に議論をしたりしていなかったりします。
「ダイの大冒険強さ議論スレ」とか「メガシンカポケモン最強格付け」くらいならまだ分かりやすいんですが、「クレヨンしんちゃん強さ議論スレ」とか「ぼのぼの強さ議論スレ」あたりでだいぶ人類の英知をもってしても理解することが難しくなっていきまして、「愛知県岩倉市 強さ議論スレ」までくるとごめんちょっと何いってるのか分かりません、という領域になってきます。一方「全生物の大きさを同じにした時の強さ格付けスレ」みたいな、普通に興味を引かれるスレッドもあります。現状は議論成立してませんけど。
個人的には「アンパンマン強さ議論スレ」が以前からのお気に入りでして、映画版をはじめとしてありとあらゆるアンパンマンキャラクターを集積して強さ議論をしているので、あなたの知らないアンパンマン世界を垣間見ることができます。同じアンパンマンでもステータスによって別キャラと認識されておりまして、現在の最強格付けは「アンパンマン(スターライト)」だそうです。スターライトって「だだんだんとふたごの星」で出てきたアレですよね。長男がちっちゃいころに見ました。
まあ、レギュレーションやら何やらきちっと基準を決めて議論するのも楽しいけれど、飲みながらわいわい「あいつは強い」「いやこいつの方が強い」と適当に騒ぐだけでも面白いものです。皆さんはお気に入りの強さ議論ネタ、お持ちでしょうか。
それはそうと。
ここに『嘘喰い』という漫画があります。
作者は迫稔雄先生。2006年から2018年まで、10年以上にわたってヤングジャンプで連載されたギャンブル漫画でして、天才ギャンブラーである斑目貘(まだらめばく)、通称「嘘喰い」がさまざまな相手とギャンブル勝負をしていく、端的にいってめちゃ面白い漫画です。
嘘喰い世界には、ギャンブルを取り仕切る組織である「賭郎(かけろう)」という組織があります。その賭郎のエージェントである「立会人」が提供するさまざまなゲームやギャンブル、通称「賭郎勝負」において、貘やそのパートナーである梶隆臣(かじたかおみ)は、バラエティ山盛りな強敵たちと相対していくことになります。ときには知略を駆使した虚々実々の「知」の戦い、時には暴力を駆使した肉弾戦(※貘自身は身体能力ミジンコなので全く戦いません)である「暴」の戦いが、迫先生の迫力特盛の画力で描写されます。未読の方はぜひ一度読んでみて下さい。損はさせません。
で、嘘喰い好きの間で非常に盛り上がるテーマとして、
「どのエピソードが一番面白かったか」
というものがあります。
上述した通り、嘘喰い作中ではさまざまな「賭郎勝負」が展開されるのですが、「その中で最強に面白いヤツどれなん?」という話です。もちろん「面白さ」なんて人それぞれなんで基準はいい加減なんですが、これが結構嘘喰い好きの間では盛り上がるんですよ。
例えば、雪井出との紙上ゲームがそのまま実物大の迷宮ゲームと化した、「ラビリンス」編。
例えば、暴・知共に、最後の最後まで勝敗が見えない戦いが続いた「業の櫓」編。
例えば、古代ギリシアに存在したと伝えられる処刑器具を使ったおぞましい火刑ゲーム、「ファラリスの雄牛」編。
例えば、嘘喰い全編を通してみてもまれに見る天然巻き込まれ型ヒロインである大船額人さん(ガクトと呼ばれると喜ぶ)が大活躍する「バトルシップ」編。
なるほど、それぞれにすばらしく熱く、また面白いエピソードだったことは間違いありません。
ただ、ことしんざきについて言えば、「嘘喰い最強のエピソードは何か」と聞かれれば、ノータイムでこう答えます。
それは「エア・ポーカー編」だ、と。
前置きが長くなりましたが、以下、この記事では「嘘喰い」における「エア・ポーカー」勝負がいかに面白いエピソードだったのか、ということを詳述していきます。例によって、私が勝手に「書かせてください!」って言ったら「いいよ」って言っていただけたヤツなんで、特にPR記事ではないです。
すいません、ここから先は説明上どうしても最低限のネタバレを避けられないので、嘘喰い未読の方で「一切ネタバレを読みたくない」という人は、ぜひエア・ポーカー編だけでも読んでみてください。単体で読んでも十分面白いので。単行本でいうと40巻から43巻までがエア・ポーカー編になります。
嘘喰い最強のエピソード「エア・ポーカー編」とは
まず簡単に、エア・ポーカー編のあらすじから説明させてください。
さまざまな闇ギャンブルを取り仕切る組織である、倶楽部「賭郎」。その賭郎の長は「お屋形様」と呼ばれるのですが、「屋形越え」という勝負を挑み、その勝負に勝つことによって、「お屋形様」になり替わることができます。斑目貘の目的は、その屋形越えに挑むこと。
一方、国際的な犯罪組織である「アイデアル」のボスであるビンセント・ラロも賭郎を狙っており、貘は紆余(うよ)曲折の末、ラロと「屋形越え」の権利を賭けて戦うことになります。その戦いの舞台が、MMORPGである「プロトポロス」の世界を再現した島であり、その最終決戦として貘とラロが覇を競うことになった勝負が「エア・ポーカー」です。
エア・ポーカーは、「水の中に沈んだ状態で、呼吸するための空気が入ったコイン『Bios(エア)』を賭けてポーカーをする」というルール。Biosを失うということは、即「呼吸ができなくなる」ということで、負けは死に直結します。
しかも、通常のポーカーなら5枚のトランプを使って勝負をするところ、エア・ポーカーは謎の数字が刻まれた1枚ずつのカードを提示して、しかも「相手に手札をオープンした状態で」Biosを賭けていくという、通常のポーカーからすれば全く常識破りなルールでした。しかも、賭けた手札のどちらが勝つかは、「ある法則によって予想することが可能」といわれるのみで、貘たちには公開されないのです。
貘とビンセント・ラロは、この「どちらかが必ず死ぬ」という恐るべきギャンブルで、文字通り「命」を賭けて戦うことになります。
この「水中に漬かった状態で、空気を賭けて勝負するポーカー」という時点で既に十分スリリングなんですが、このエア・ポーカーの面白さは全くそこにとどまりません。
- この勝負が、プロトポロス編までの全てを集約した、文字通りの「決戦」であること
- 徐々に「エア・ポーカー」の全貌が明かされていく中で、勝負の様相がどんどん変わっていく、「ルール公開」と「話の展開」が完全にシンクロしたストーリーであること
- この「エア・ポーカー」自体「常人には絶対にできない勝負」であることにものすごく説得力があること
- 次の「屋形越え」に至るまでの展開としても完璧なストーリーだという他ないこと
このへんについては全力で指摘しておきたい次第なんです。
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