「超電導リニア」「超音速旅客機」のように「速さ」への夢あふれる乗りものはいろいろありますが、「旅客機のエンジン」を搭載した列車もなかなかロマンあふれるのものではないでしょうか。実はそんなブッ飛んだ列車、ソビエト連邦などが試作車を作っていたのです
ターボジェットトレインは、先頭車の運転室の上に2基の旅客機用ターボファンエンジンを搭載した車両です。何だかカブトムシの角が生えたような、SF映画に登場しそうなブッ飛んだ姿ですが、本当に線路上を走行していたのです。
試作車が製造されたのは1970年のこと。当時、ソビエト連邦は列車の高速化に関するさまざまな試みが行われていました。1966年にはライバルの米国からターボエンジンを搭載した試作車も登場しており「アメリカには絶対に負けられん」という気持ちで製造したのではないでしょうか。
試作車はヤコブレフ航空工学設計局、カリーニングラード車両工場などの協力で製造。新造ではなく、近郊電車ER22形からの改造です。ER22形は1964年にデビューしたソ連でよくある一般的な近郊電車でした。
イーウチェンコ AI-25ターボファンエンジン2基と空気抵抗を減らすフェアリングが搭載されました。AI-25ターボファンエンジンはソ連で開発・製造された名エンジンの1つで、旧東側諸国にも輸出されました。
ソ連のターボジェットトレインは1972年、ウクライナ・プリドネプロフスク線での実験にて時速249キロを記録しました。一定の成果を納めた試作車でしたが、高速電車ER200形の登場もあり、結果的に生産には至りませんでした。
試作車は長年にわたり放置されていましたが、2021年現在、ロシアのトヴェリ車両工場に先頭部のみがモニュメントとして保存されています。
昨今はどこであってもコスト重視、効率重視、安全性重視の風潮なので、このようなロマンあふれる列車はもう夢なのでしょう。が、ついつい期待してしまう自分がいます。
新田浩之(にったひろし)
1987年神戸市生まれ。関西大学文学部卒、神戸大学大学院国際文化学研究科修了。主に鉄道と中欧、東欧、ロシアの旅行に関する記事を執筆。2018年からチェコ政府観光局公認の「チェコ親善アンバサダー2018」を務める
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