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『連ちゃんパパ』作者が描く「あだち充を漫画家にした男」の豪快エピソード! 『あだち勉物語』ありま猛インタビュー(3/3 ページ)

昭和の漫画業界はすさまじかった……!

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ありま ただ、僕から見るとけっこう「兄弟だな〜!」っていうところもあるんです。麻雀の打ち方も似てるし、博打でついてない時のむくれ方も似てる。

――そんな充さんから、『あだち勉物語』に関して反応は何かありましたか?

ありま 最初は「兄貴、大人しくない?」「こんなにおとなしい兄貴は兄貴じゃねえよ」って言われましたね。「じゃあ描いちゃうよ」って勉さんが拘置所にぶち込まれてる話を描いちゃいましたけど(笑)。まあ、充さん公認と言っていいでしょうね。じゃなかったら描いていいって許可は出ないでしょうから。

――充さんに関して言えば、読んでいて劇中に登場する充さんが描いたカットが気になったんですが、あれは本物なんですか?

このカット、実際に充さんが描いたものだそうです

ありま 全部本物です。第1話に出てきた機関車のカットとか。充さんに背景描かせるやりとりは、目の前でやってましたよ。勉さんを訪ねて行ったのに、まさかあんなに絵がうまい人がいるなんてとびっくりしました。「まだデビューしてないってどういうこと!?」って。僕は1回勉さんのところを「やめます」って言って自分からやめてるんですけど、充さんの存在があったからあんなことを言ったのかもしれないですね。

――第1話にあったエピソードですね。

ありま あれもねえ、「最初は誰だってうまくいかないもんだよ」って引き止められるのかと思ったら「ご苦労さん」で終わりだったんですよ。勉さんが亡くなるちょっと前に「なんであの時出て行かせたの?」って聞いたことがあるんです。そしたら「だって、そっちのが面白そうじゃん」って言われて(笑)。

 ただその前に「お前はどっちみち学歴も何にもないんだから、ダメ元でやってみろよ。博打だろうよ」って言ってくれたのは感謝してます。どうせやるなら一発やってみろ、ダメ元だから後悔ないだろうと。いきなりアシスタントにしてくれと頼むなんて断られると思っていたから、本当にあの言葉はうれしかった。

あだち勉が意地悪をしていた理由とは

――当時の漫画家さんやアシスタントさんで、今でも付き合いのある方はいますか?

ありま 何人かいますよ。てらしまけいじさんとかはまだ時々連絡取り合ったりしてます。徐々に連絡が途切れたりとかはしてますけど、例えば漫画に出てきた「見開きいっぱいに東京の風景を描かされたアシスタント」の人とかはまだ知り合いです。あれは僕も横で見てたんですけど、本当に全然怒らなかった。「なんで怒らなかったの?」って聞いたら、「絶対いたずらだと思ったんだよね」って言ってました。

――何十年も付き合いがあるのはすごいですね。

ありま あの当時のフジオ・プロって特殊でしたからね。他の漫画家さんに聞くと「アシスタントを募集したんだけど、来てくれた人が何を考えてるかわかんないから断った」みたいな話がよくあるんですけど、そういう人はフジオ・プロに来たら一発合格だよっていう感じでした。常に2〜3人、誰のアシスタントだか分からない人がいましたから。

――そんな人がいるんですか!?

ありま 赤塚先生も「あれ誰?」とか言って、「先生が呼んだんでしょ」って言われるんだけど全然分からない。先生が外で飲んだ時に「今度遊びに来たら?」とか言って連れてくるんだけど、本人はなんにも覚えてないんです。それで遊びに来た人がずっと居座っちゃったりとか。でも「どうせ誰かのアシスタントなんだろう」って誰も疑わないんです。今の漫画家の仕事場とは、かなり環境が違うと思います。

――は〜、なるほど……。じゃあ今後は、そういう人たちもたくさん出てくる感じの内容になるんでしょうか?

ありま 勉さんと、周囲の漫画家や漫画家の卵たちとかとのつながりを描いていければいいかなと思っています。勉さん本人はどんどん漫画の世界から離れていって、プライベートで変な人たちと遊んでばかりいたから、それに付き合わされるこっちはたまったもんじゃなかったですけど(笑)。ただ、漫画から離れても、勉さんはすごく漫画に詳しかったんです。

――やっぱり、ずっと漫画が好きだったんですね。

ありま でしょうねえ。誰にも言わなかったけど、いつもコンビニで片っ端から雑誌をチェックして、知り合いの漫画家に会うと「お前あの雑誌で描いてただろう」ってすぐ言えたんです。離れたと言っても充さんのマネジャーになるまでは学年誌の連載を長くやっていたし、赤塚先生のところをやめても仕事は抱えていましたからね。

――完全に離れきったわけでもなかったんですね。

ありま だから、やっぱり『あだち勉物語』は漫画に関する話の延長で描きたいと思ってます。本人はやっぱり漫画が好きだったんで。

 勉さんが亡くなる前から、勉さん主催で毎年新年会をやってたんです。「しょぼくれ漫画家のためのボランティアだ」とか言って、あんまりメジャーじゃないフジオ・プロの漫画家を集めて。そこで「俺がなんでお前らに意地悪するか分かるか?」と言ったことがありました。

――意地悪の理由ですか。

ありま その理由というのが、「俺が意地悪をすれば、俺が死んだ後に嫌でもお前たちは酒を飲むたびに俺を思い出す。だからだよ」って話で。「墓参りなんていらない。お前たちが集まって飲んで俺の話をしているうちは、俺は死んでねえからな!」って言われたんですよね。

 よく、「人は一度死んで、その人のことを記憶している人たちが全員死んだところでもう一度死ぬ」っていうじゃないですか。それなんですよね。で、最初に話したように、この新年会のメンバーで集まって飲むと、やっぱり「俺も勉さんにあんなことをされた、こんなことをされた」っていう話になるんです。

――なるほど。この漫画が多くの人に読まれて勉さんのことを知る人が増えれば、それだけ勉さんは長く生き延びるわけですね。

ありま そうですねえ。まあ、自分をネタにされると喜ぶタイプだったし、人に構ってもらえるとうれしいっていう人だったから、案外本人は喜んでるんじゃないかな、と思いながら描いてます(笑)。

――今後勉さんと周囲の人々がどうなっていくのか、とても楽しみです! ありがとうございました!


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