子どもの方が、作り手より「心がエリート」 映画「クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」高橋渉監督&脚本うえのきみこインタビュー(3/5 ページ)
コロナ禍に生きる子どもたちへ伝えたいことがあった。
※以下からはクライマックスのサプライズを、核心的なネタバレは避けつつも記しているので注意!
クライマックスの違う案もあった
――クライマックスの展開はもう泣きっぱなしでした。この展開を構築するまでの苦労や、裏話はありますでしょうか。
うえの 脚本にはサスガくんが「火事だー!」と言ってチシオちゃんを何とかもう1度走らせて「天組」に戻そうと試行錯誤して、それが無理だったから、あのエリートに変えるマシンを作ったという流れがあったんです。
高橋 サスガくんの独白シーンが長くなりすぎたこともあって、そこはカットしてしまったんです。でもサスガくんがチシオちゃんに真剣に恋をしているんだということが伝われば十分なシーンだったので、今の形になりました。
――そのサスガくんのチシオちゃんとのその後の関係が、エンドロールで補完されているのもうれしかったです。そしてチシオちゃんの「あの顔」も良い意味でとても印象的で、そして感動がありました。
うえの チシオちゃんはけっこう大変でしたよね。脚本の2稿や3稿を読み返していると、チシオちゃんが早く走りすぎて「顔が新幹線になっちゃう」という謎な設定があったりしました。
高橋 新幹線になる前にも、藤岡弘、さんみたいな顔になる案もありましたよね。でもそれだと顔面に観客の意識が行きすぎちゃって、メッセージが伝わらなくなるかなと思ったので、最終的にああいう顔になりました。脚本を書いているときは「笑っちゃう顔だよなあ、でも笑っちゃだめなんだよな、意地悪なシーンだな」なんて思ってました。
うえの 最終的には監督にぶん投げる形にしてしまいましたね。でも、脚本を書いた私が、分かっていても感動するクライマックスにしてくれた高橋監督には、感謝しかありません。
――映画館で、「あの顔」をチシオちゃんが見せ始めた時は子どもたちは笑っていたけど、すぐに笑わなくなって、心から応援しているのが伝わってきました。その意味では、子どもの教育上においても素晴らしいクライマックスだったと思います。
高橋 そういうのを無視して、みんなゲラゲラ笑っちゃうだろうな、と思っていたんですけど、笑わなくなったということは、しんちゃんからのメッセージを受け取ってくれた、ということですよね。それは作り手としてうれしい誤算でした。僕たち作り手の方が、むしろ邪念がありましたよね。子どもたちの方が、心がエリートでした。
うえの 私たちの方がハゲワシについばまれる立場なのかもしれませんよね。
4歳と5歳のおいっ子からの質問も
――すみません、一緒に見た4歳と5歳の甥っ子からも、質問ビデオを預かってきたのでよろしくお願いします。
おいっ子(4歳) なんで風間くんは「お尻バカ」になっちゃったの?
高橋 お尻……というか腸は、第2の脳といわれているんです。腸は脳内物質も作り出してて、腸に近いお尻をかむことで、脳にも作用すると思ったんですよ。
――まさか科学的な見地があったとは……。
うえの 本当は吸ケツ鬼は頭を噛んだ方がいいかもしれないけど、さすがに頭をかむのはかわいそうと思った犯人の優しさかもしれませんね。
――ありがとうございます。もう一問お願いします。
おいっ子(5歳) なんでマサオくんも犯人かもしれない(容疑者)になっちゃったんですか?
高橋 マサオくんは過去にもいろいろやらかしてますからね。「栄光のヤキニクロード」とか「B級グルメサバイバル」とか。なので疑われても仕方がないかなと。
――なるほど。また、今回の映画でマサオくんが容疑者になったのは「ミステリーでは身近な人が犯人であることが多いから」だと作中でも言われているんですが、それも5歳ではちょっと分かりにくかったんだと思います。
うえの 今回のネネちゃんは、そうして「決めつけ」をしちゃっていますよね。そこで「なんでマサオくんなの?」と思うおいっ子さんは、心がエリートなんだと思いますよ。
――マサオくんがかわいそうだから、おいっ子は「なんで?」と思ったのかもしれないですね。
高橋 考えさせられます。僕らのほうが、やっぱり「ノーエリート」だったかもしれません。
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