加えて特に評価できるのは、SFを絵にするクリエイティブ力である。ゼロ年代以降のSF小説をグレッグ・イーガンとともにけん引するテッド・チャンの言語SF「あなたの人生の物語」を原作とした「メッセージ」では、そのあまりに独創的な宇宙船が話題を誘った。
また「ブレードランナー」の正当続編という高いハードルをクリアしてみせた「ブレードランナー2049」でも、80年代当時のサイバーパンク観を正当に進化させ、どこか旧く懐かしい、しかし存在し得ない架空の未来をつくりあげた。
ヴィルヌーヴは1960年代の古典SFを、絢爛でありながらテンプレートとならない、絶妙なバランスで描いてみせた。『デューン』は数多の映画に影響を与えており、一歩間違えばそれらの逆輸入と見られかねない危険がある。
しかし砂漠を生き抜くパワードスーツや飛行機体、建築美術、衣装のもつオリジナリティーは、その時代性を感じさせない。絵で見たときに何かのパロディーになっていない、というのは彼の作品で最も評価すべきところだ。
ただし「なぜ、今、デューンをやるのか?」という思いは当然ある。これらの尽力をもってしても、宇宙を舞台にした英雄譚というストーリーが抱える根本的な古臭さは否めないからだ。
しかしヴィルヌーヴは早くも3作目の構想を明かしており、HBO Maxはオリジナルドラマ「デューン:シスターフッド」の配信を予定している。本作が“長大な原作をベースにした一大シリーズの構想”を描いていることは間違いないだろう。
このスピード感はもちろん経済的な理由によるものだ。10月現在、本年度の全米興行収入ランキングベスト20のうち半数以上は続編・リブート・フランチャイズ・ユニバース作品で締められている。ワーナー・ブラザーズが膨大な原作量を誇る「デューン」シリーズに、次なる稼ぎ頭を期待しているのは自明の理だろう。
原作の立ち位置とこれまでの経緯から非常に高いハードルを掲げられた本作が、最新の技術により、過去最大に成功した映像として仕上がったのは間違いない。
IMAXで展開される圧巻のビジュアル、ハンス・ジマーの力強いBGMが魅力的なことは疑いようもなく、ティモシー・シャラメ、オスカー・アイザックらの演技と豊かな衣装美術はキャラクターたちの実在感を確かに確立している。また、ジェイソン・モモア、ジョシュ・ブローリン、デイヴ・バウティスタらスーパーヒーロー俳優たちの存在感はメタ的な笑いを誘い、原作および過去の映像化作品に触れたことのない新しい観客にフレッシュな喜びを与えることに成功している。
すでに批評的成功を獲得している同シリーズだが、末永く続くユニバースとなり得るかは本作の商業的成功にかかっている。果たして現代の観客は、新しい時代のスカイウォーカーを受け入れるだろうか?
(将来の終わり)
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