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『ちいかわ』が“幸福論を問う作品”であるという決定打 なぜ「オフィスグリコちゃんのカエル」でTwitterがどよめいたのかあのキャラに花束を(4/4 ページ)

ファンシーだけど、リアルでだいぶ辛いって『ちいかわ』読者はもう知っている。

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「なんとかなれー!」

 窮地に陥ることがものすごく多い、ちいかわ・ハチワレ・うさぎ。本当にやばいときに発せられるのが、ハチワレの「なんとかなれー!」という発言です。

 いうなればこれは、救済フラグ。やけくそな行動なんだけれども、それによってピンチから脱出できる、この漫画における切り札的発言です。『ちいかわ』ファンで、やばすぎる展開が続いたときに「なんとかなれー!」を心待ちにしている人は多いはず。

 この「なんとかなれー!」が、『ゴールデンカムイ』の杉元佐一が危機一髪のときに叫ぶ発言「俺は不死身の杉元だ!」に非常によく似ている……というところから、「不死身の杉元」がTwitterのトレンド入りになりました。見た目は全然違いますが、生きるか死ぬかの瀬戸際のやけっぱち、という点では全く同じだったりします。

 杉元佐一の発言は、絶対に諦めない、この窮地は乗り越える、という強靭すぎる意思から発せられるものです。同様にハチワレは絶対諦めない、頑張り続ける子。なるべくなら出ない方がいい発言ですが、これからも「なんとかなれー!」が出るたびに、3人はもりもり成長していくのかも。


幼少期のトラウマの昇華

 ちょっと自分語りになります。実は『ちいかわ』のアカウントをぼくは2回ブロックしたことがあります。1回は草むしり検定の受験でちいかわだけ落ちたとき。もう1回はちいかわがむちゃうマンと写真を撮れなかったとき。

 怖かったからです。あまりにも的確に、幼いころに出会ってしまったトラウマを突いてきて、怖くて泣いてしまったからです。かつて似たような経験をして、つらすぎて心にふたをしていたんです。『ちいかわ』が開いちゃったんです。

 もう寝ても覚めても何をしていても、『ちいかわ』のそのシーンが反すうされてしまいました。冷や汗って本当に出るんだよ。ちいかわとハチワレが受験してハチワレだけ受かったときの気まずさ。みんなの中に飛び込む勇気がなくて諦めてしまい、ヒーローとの写真を撮れなかった悲しさ。今読み直しても心臓がバクバクする。幼少期につらくて悪夢にさいなまれていたのを、再び大人になって見ることになろうとは。

 ただ「ここまで気が狂いそうになるのは『ちいかわ』がすごいからではないのか?」と感じてから、ブロックを解いて恐る恐る読み直すようになりました。

 『ちいかわ』には多数、子どものとき体験するであろうトラウマが出てきます。大人になってからなら気にならないかもしれないことでも、子どものころは夢に見てうなされるような出来事のオンパレードです。ちいかわにできた小さな友達回や、パジャマパーティーズでのステージの失敗なんかで心を痛めた人、結構いる気がします。

 ちいかわたちの感性はピュアで子どもっぽい。でも労働と責任のある生活は大人と同じ。このちぐはぐさが大人の心の中の、子どもの部分をえぐっていくんじゃないか。しかも子どもが感じていたであろうトラウマを、何もかもハッピーにする作品ではないです。そこそこ痛い気持ちは残しつつ、自分たちで問題解決をするように必死に考えた末に、ちょっとだけいい方向に成長するのを見せてくれるのが『ちいかわ』です。だからこそ奇跡ではないリアリティーがあり、子どものころ感じたかもしれない読者の痛みの共感を、うまい具合に昇華してくれます。

 『ちいかわ』内には、先ほどのモモンガの件のようにまだまだ解決できていない問題がたくさんあります。でかつよになったオフィスグリコちゃんの回でTwitterがどよめいたことを振り返ると、大人をもびびらせるトラウマ感は正直あります。

 でも必ず、魔法のようなハッピーエンドじゃなくても、苦労しながら乗り越えてくれると信じられるから『ちいかわ』は毎日更新を待ってしまいます。どこかで絶対に「なんとかなれー!」が入ると信じて。

たまごまご


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