「ノマドランド」は車上暮らしをしているノマドワーカーの姿を描いた作品であり、劇中に登場する彼らは客観的には経済的に貧しく、低賃金でこき使われている存在ではあるが、それを社会的な問題として糾弾する意図では作られてはいなかった。
単純な「善悪」では推し量れない、ノマド暮らしそのものを慈しむような姿勢は、「エターナルズ」においてもさまざまな土地や文化で暮らす人間たちと、彼らを見守るエターナルズの姿に重なる。
本作を語る上でもう1つ重要なクロエ・ジャオ作品が「ザ・ライダー」(2017)だ。落馬事故のせいでロデオライダーとしての未来を事実上絶たれてしまったカウボーイの物語で、「思いもしなかった現実を目の当たりにするが、それでも残る生きがいやアイデンティティーを模索する様」が、今回の「エターナルズ」に通じているのだ。
また、「ノマドランド」はプロの俳優が2人のみで後は現地の生活者を登場させており、「ザ・ライダー」も実際に起きた出来事を本人が実名のまま演じる作品だった。もちろん「エターナルズ」はアクションヒーロー映画でありプロの俳優が演じているので、それらの「半分ドキュメンタリー的」な特徴はないのだが、それでもこうした「クロエ・ジャオ監督らしい実在感」が宿るのは脅威的だ。
まさかの「幽☆遊☆白書」オマージュも
前述したクロエ・ジャオの作家性は、どちらかといえば文芸的な作品に似合うもので、派手な見せ場のあるアクションヒーロー映画にはそぐわないのでは? と懸念していた人も多いのではないだろうか。
ところがクロエ・ジャオは「監督として映画を作っているわけではない。ファンとして作っている」とメッセージを寄せていることから分かる通り、もともとMCUの大ファンでもあった。しかもクロエ・ジャオ監督は幼少期から日本のマンガも大好きで、メインキャラクターのキンゴ(クメイル・ナンジアニ)のスーパーパワーは「幽☆遊☆白書」の「霊丸」(指からエネルギー弾を放つ能力)が元ネタなのだという。
特に勇敢な女性戦士のセナ(アンジェリーナ・ジョリー)のアクロバティックな動きは洗練されていて美しく、素早いカメラワークで追いかける空中戦も展開するので、目が釘付けになるような面白さがあった。
長い上映時間による中だるみや、カタルシス不足という難点も
ここまで「エターナルズ」を称賛したが、正直に言えば大満足!……というわけでもない。上映時間が156分と長いこともあって、冗長さや息苦しさも覚えてしまったのだ。クロエ・ジャオ監督らしい1カットを長く撮るシーンはほぼなく、全体的にはカット割りが多めで多くテンポも良いはずなのだが、それでも設定の説明や会話シーンの多さを退屈に感じてしまう方もいるだろう。
物語そのものが「そうなっている」ので仕方がないともいえるのだが、「悪をくじく」分かりやすい勧善懲悪的なカタルシスも得にくい。前述した通りエターナルズのメンバーはそれぞれ魅力的に描かれているのだが、10人もいるだけにそれぞれのヒーローたちの活躍のバランスは良いとは言えず、特にクライマックスはチームを組み戦う面白さも十分に構築できていないように感じてしまった。随所に「物足りなさ」を覚えるところはある。
そうした不満もありつつも、これからのMCUが楽しみにはなった。同じく上映中の「DUNE/デューン 砂の惑星」もそうだったように、じっくりと時間をかけたからこその作品の「厚み」があり、キャラクターそれぞれの紹介が終わったからこそ、これからの彼らの活躍も追い続けたくなったのだ。直近では11月24日よりドラマ「ホークアイ」がディズニープラス独占配信開始されるので、こちらもチェックしつつ、次のMCU映画に備えたい。
(ヒナタカ)
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