「シャン・チー/テン・リングスの伝説」に続く、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)第26作「エターナルズ」が11月5日から公開されている。本年度のアカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞を受賞した「ノマドランド」(2020)のクロエ・ジャオ監督がスーパーヒーロー映画を撮るということでも話題となっている。
しかし、「アーリーレビューが絶賛に染まる!」ことが通例となっていたMCUの中では評価はかなり賛否両論。米映画批評サイトRotten Tomatoesではトマトメーター(批評家支持率)が腐った(60%未満)状態となった。11月5日時点では51%で、これはMCU史上もっとも低い数字だ(ただし、一般観客からのオーディエンススコアは86%とおおむね好評である)。
実際に鑑賞したところ、「評価が分かれるのもうなずける」が「クロエ・ジャオ監督の作品としては納得できる」というのが正直な感想だ。MCUの中では異色といえる内容であり、だからこそアクションヒーロー映画としての不満を覚える人、クロエ・ジャオ監督の作家性を生かした秀作だと称賛する人、その両方の気持ちがよく分かるのだ。核心的なネタバレに触れない範囲で、その理由を記していこう。
「紀元前」まで遡りながら「かつての仲間」を集める物語
あらすじはシンプルだ。7000年にわたり、人智を超えた力で人類をひそかに見守ってきた10人の守護者・エターナルズが、1週間後に滅亡を迎える地球を救うために数世紀ぶりに集まるというもの。他のMCU作品とのつながりも少なめで、最低限「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019)でどういうことが起こったかを知っておけば、問題なく楽しめるだろう。
最大の特徴は、エターナルズの「来歴」を時間軸を前後させながら展開していくことだ。現在と過去を並行して語る映画は決して少なくはないが、何しろ彼らは7000年以上も生きているので、その過去と言えば「紀元前」にまで遡る。アクションヒーロー映画でありながら、人類の歴史そのものをたどっていくような壮大さも見どころになっているというわけだ。
物語の主軸となっているのは、現代でバラバラに暮らしているエターナルズの元へと渡り歩き、「かつての仲間集め」をしていく様子だ。何しろ主要メンバーが10人もいるので、鑑賞前は「顔と名前が一致するだろうか?」と不安もあったのだが、実際に見てみるとそこは無問題。それぞれの特徴が過不足なく描かれており、豪華キャストの魅力も相まって彼らのことがすぐに大好きになれた。
仲間集めそのものは映画「七人の侍」(1954)のようでもあるが、旧友と久しぶりに再会し大きな脅威に立ち向かう様はマンガ「20世紀少年」や映画「IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。」(2019)なども思い出す。
個人的な推しキャラは、屈強な身体を持ち性格も優しい「ギルガメッシュ」。「新感染 ファイナル・エクスプレス」(2016)や「白頭山大噴火」(2019)などでも強烈な印象を残した俳優マ・ドンソク(アメリカでの名義はドン・リー)が、十八番といえる「張り手」も繰り出し恐るべき戦闘力を発揮するのがたまらない。彼がとあるキュートなルックスで登場するのも見どころだ。
また、エターナルズの中には、ファストス(ブライアン・タイリー・ヘンリー)という夫と子どもがいるゲイの男性がいたり、マッカリ(ローレン・リドロフ)という聴覚障害を持つ女性がいたりと「多様性」も打ち出している。
製作総指揮を務めたネイト・ムーアによると、マッカリのスーパーパワーが音速の壁を破るほど素早く走るというものだからこそ、耳が聞こえないことは戦いに有利に働いているというのだという。多様性を「その人の良い特性」として描いていることも、「エターナルズ」のすてきなところだ。
鋭く刻印されたクロエ・ジャオ監督の作家性
「個性豊かな仲間集め」という時点で万人が楽しめるエンタメ性がありながらも、クロエ・ジャオ監督の作家性が鋭く刻印されている点も重要だ。彼女のこれまでの映画は、荒涼とした風景を切り取っており、そこから「人間の暮らしや歴史」を感じさせていた。本作でも、前述の通り人類史そのものを7000年前まで遡って提示してくれるし、スクリーンいっぱいに美しい風景を映し出してくれる。
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