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「好きだったインターネットが急に敵に見える恐怖感」―― 新鋭にゃるらが「NEEDY GIRL OVERDOSE」で描いたもの(2/3 ページ)

企画・シナリオを手掛けたにゃるらさんに、同作やインターネットの“承認欲求”について聞いた。

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企画段階では「同級生」型の複数ヒロイン制だった

―― なるほど。次にゲーム内容についてお聞きします。最初に公開されたPVだけではあまりよく分からなかったんですが……これはどういうゲームなんですか?

にゃるら:一番似ているのは「プリンセスメーカー」(※)だと思います。コマンドを選択して女の子を育てていくゲームで、パラメーターによって分岐するエンディングがある、という感じです。

※プリンセスメーカー:父親として少女を育て大人にする世界初の育成ゲームシリーズ。エヴァンゲリオンでおなじみガイナックスが製作を手掛けていることでも有名

―― なぜ育成シミュレーションにしようと思ったのでしょうか。

にゃるら:最初の企画書では数人のヒロインがいるギャルゲーだったんですけど、それだと工数的にきついよねという話になって。「誰が一番良い?」って聞かれて、選んだのが配信者のキャラクターだったんです。あとは「配信者」という設定を生かそうとしていくうちに「配信者っぽいステータス」を調整していくゲームになんとなく決まっていきました。

NEEDY GIRL OVERDOSE ヒロインの“あめちゃん”は配信者という設定

―― 最初は多数いるヒロインから1人を選択するゲームだったんですね。

にゃるら:そうです。SNSを使うところは同じだったんですけど、「同級生」とか「下級生」みたいなシステム(※)で、女の子をナンパしていくゲームのSNS版みたいな企画でした。それより女の子を1人にして、もっと深堀りしていく方がいいだろう、と。

※同級生・下級生:elfから発売されたアダルトゲームシリーズ。アダルトゲームながらアドベンチャーゲームとしての要素を含んでおり、後の恋愛シミュレーションゲーム/ギャルゲーに与えた影響は非常に大きい。「ギャルゲーのプレスリー」のような存在

―― 企画の段階では「同級生」だったのが「プリンセスメーカー」になったんですね。

にゃるら:2日目ぐらいの段階で「『同級生』作るとさすがに1年では終わらない」ってなって。企画のサイズを最初にグッと切ったんですよね。それで残ったのが「配信者」のキャラクターだった。

―― ちなみに、他にはどんなヒロインがいたんですか?

にゃるら:他に4人のヒロインがいたんですけど、4人の属性を全て混ぜたのが今回のヒロインです。他の子も精神が弱い子とか電波系とかだったんですが、それを全部足した感じですね。全部まとめて凝縮して整えたので、凄く個性的な人格になったと思います。

―― 本作のボリュームはどれぐらいなんでしょう?

にゃるら:大体一周3時間程度です。全部のエンディングでクリアするなら時間から20〜30時間ぐらいはかかりそうです。あと、シナリオに関係ないSNSとかメッセージアプリのテキストは本当に膨大な量を用意したので、それを全部見るともっとかかります。

―― 実際の操作としては「選択肢のようなものを選んで実行していく」という感じですか?

にゃるら:完全にPCの操作そのものです。アイコンをクリックして、コマンドを実行して、SNSや配信画面に移行して、などの繰り返しです。

NEEDY GIRL OVERDOSE ゲーム画面はPCのデスクトップを模したもの

―― ゲーム画面の中にある疑似デスクトップがコマンド選択の代用になっている、という感じですか。

にゃるら:そうですね。デスクトップのアイコンを選択することでコマンドが実行できます。実行するとSNSでそのコマンドについてつぶやいたり、ネタを見つけたよってメッセージが来たりします。

―― テキストウィンドウの代用がメッセージアプリとSNSなんですね。

にゃるら:PCに出てこないものをいかに排除するのかをチームでずっと考えてました。デートはさせたいけど、デートしてる場面は写せないぞ、とか。

―― なるほど、本当にずっとデスクトップ上で進行していくんですね。結局どうやってデートすることにしたんですか?

にゃるら:ツイート画面に写真を載せることができるじゃないですか。だから「デートしてこんなところに行ったよ」というツイートができる。中間がないわけです。

―― 「デート中の描写はなくて、デートの結果をツイートとして読める」みたいな感じですか。

にゃるら:そうですそうです。

NEEDY GIRL OVERDOSE 行動結果はLINEやTwitter(のようなアプリ)で見られる

―― にゃるらさんから見て、「特にここは推しておきたい!」というのはどのあたりですか。

にゃるら:自分がテキストを担当したので、「SNSにこういう女子がいたらこういうことをつぶやくだろうな」っていう感じを味わって欲しいなと思っています。テストプレイしてもらった女性の方からは、「自分を見ているみたいで怖い!」と言ってもらえたりもしました。

―― なるほど。そのテキスト上の「リアリティー」にはやっぱり、にゃるらさんご自身の体験が生かされてるのでしょうか。

にゃるら:以前僕は『承認欲求女子図鑑』という本を書いたことがあって、その本は「承認欲求の強いインターネットの女性にインタビューをする」っていう内容の本なんですけど。そういった本を執筆していく中で培われたものもありますし、そもそも僕、10年間Twitterやっているので、その経験もありますね。


「ユーザーの精神に傷をつけたい」

―― 本作は古典的な美少女ゲームと現代のインディーゲームの中間のような印象を受けたんですが、どんな美少女ゲームやインディーゲームから影響を受けてきたかぜひお聞きしたいです。

にゃるら:僕の場合、さっき話した通りセガサターンのゲームだとか「lain」だとかが大好きで、最近では「ドキドキ文芸部!(Doki Doki Literature Club!)」なんかも好きです。「電波ゲーム」みたいなのも好きで……とにかく「ユーザーの精神に傷をつけたいな」という気持ちがものすごく強くあり、それをかなり重視しています。

NEEDY GIRL OVERDOSE 「ドキドキ文芸部プラス!」(Switch/PS4/PS5)

―― いわゆる「トラウマ」的な体験があるゲームだったりする……?

にゃるら:「このゲームでしか味わえない驚き」みたいなものをすごく重視しています。好きだったインターネットが急に敵に見える恐怖感とか。通常の美少女ゲームのヒロインなら絶対に行わない言動や行動とか。

―― なるほど。やっていて恐怖感を感じることもあるんですね。

にゃるら:感情の起伏が激しい女性と同棲するわけなので、怖いことも楽しめると思います。

―― にゃるらさんは、過去の美少女ゲームだとどんなヒロインが好きですか?

にゃるら:一番好きってわけじゃないですけど、「NEEDY GIRL OVERDOSE」に合わせて“憂鬱な美少女”を一人挙げるとすれば「天使のいない12月」という美少女ゲームの「須磨寺雪緒」という女の子ですね。彼女は希死念慮持ちでいわゆる自殺癖があるみたいな女の子で、でも実際に自殺までは行かなくて、「死のう」というところを主人公に見せて、主人公に止めてもらうというのを繰り返すキャラなんです。これ、2003年の作品で、2003年にこんな「今のSNSとかにいそうな女の子」を描いているのすごいなって、ずっと心に残ってますね。

NEEDY GIRL OVERDOSE 天使のいない12月/須磨寺雪緒(公式サイトより)

―― 2003年でそれはすごいですね。ちなみにフリーゲームとかって遊ばれていましたか?

にゃるら:まあ人並みに。

―― 「かわいい画面と怖いものの対比」って、かつてはフリーゲームやブラウザゲームでよく見られたのでちょっと気になっていました。

にゃるら:ああ、「タオルケットをもう一度」とか。

NEEDY GIRL OVERDOSE 「タオルケットをもういちど」(ふりーむ!より)

―― そうそう、そういう影響もあるのかなと。

にゃるら:そうですね。“フリーゲーム魂”といいますか、インディーゲーム的なものだからできる、フルプライスだったら許されないような仕掛けっていうのは、ある程度仕込んでいるつもりではあります。

―― かわいいといえばこの色調が本当に可愛いと思うんですが、これはどういう経緯で決まったのですか?

にゃるら:「ユニコーンカラーでいこうよ」(※)っていうのはなんとなく最初から全員共有していました。「今こういう題材でゲームを作るなら、この色合い、この感じしかないよね」って感じでしたね。元から自分がこの色合いが好きで。「アイドルタイムプリパラ」の夢川ゆいとか、ガァララのライブみたいな色味が好きですね。

※ユニコーンカラー:紫、黄緑、ピンクなどパステル調のカラーが何色か組み合わさったもの。「マイリトルポニー」みたいなのを想像するといい

NEEDY GIRL OVERDOSE 独特の色づかいはユニコーンカラーが基調

―― 色調にすごく統一感があるなとは感じていましたが、これが「時代の色使い」だと。

にゃるら:そういう女の子を描くときにはこの色合いしかないのでは」みたいな。

―― もう一つ、現実の配信文化とか現実のSNSからの影響についてもお聞きしたいんですけれども。例えば「“精神状態が良くない女の子”を、YouTubeなどの配信で見て消費する」っていう文化は現実にも存在していますが、そういったものはどのように見られています?

にゃるら:これはむしろ、「作品を見てください」としか言えないですね。それをしゃべっちゃうと、もうなんかそれ自体がネタバレみたいになっちゃうんですが……一つ言えるとするなら「タイトルに現れている」というのはあります。

―― そういう「現実に対しての目線」は作品の中で表現されていると。

にゃるら:込めているとは思います。ユーザーがどう受け取るかというのは僕も楽しみにしている部分なので、喋りたくないといいますか……。例えばちょっと見せ物的に楽しまれることに対して、ユーザーがどう思うのかっていうのを見てみたいですし。

―― 配信で遊ばれるというのを最初から想定されている感じですか。

にゃるら:今ゲームを作る中で「ゲーム実況を想定しない」ことはないと思うんですよね。テキストの読み上げ速度とかはとても気を使いました。

―― 例えばどんな人にこのゲームを遊んでもらいたいですか?

にゃるら:やっぱりインターネットが好きな人ですね。主人公の女の子「あめちゃん」はインターネットエンジェルで、インターネットがめちゃくちゃ好きで、若いのにインターネット文化とかオタク文化を全部知っているっていうありえないキャラクターなんですが、その子に癒されるような男性だとか、または単純にかわいいものが好きな女の子とか、配信者を目指している子とかもターゲットに入っていると思ってますね。


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