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旅団はなぜ生まれ、クロロはどうして団長になったのか――『HUNTER×HUNTER』で衝撃の過去が判明

※397話までのネタバレを含む。

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 約4年ぶりに連載再開した『HUNTER×HUNTER』で、11月21日発売の週刊少年ジャンプ2022年51号から3週連続で幻影旅団の過去編が描かれている。暗黒大陸に向かう船内において、王位継承戦を中心としたさまざまな思惑が本格的に交錯するタイミングで、まさかの展開となったことにネット上も騒然となっている。

※本記事では最新397話までのネタバレを含みます


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クロロ
幻影旅団、団長のクロロ(画像は『HUNTER×HUNTER』11巻より)

 幻影旅団とは主要キャラの1人・クラピカの宿敵で、「A級首の盗賊グループ」(2話)、「史上最凶との悪名高い盗賊団」(18話)と序盤から名称が登場する実力派集団。2000年〜2001年に連載されたヨークシンシティ編では主役といえる立ち回りをし、その中で団長が仲間を「ウボォーさん」と敬称付きで呼んだり、幼少時代らしき「始めはただ欲しかった」のコマが突如でてきたり、結成時に「あれ…クロロ?」とマチが困惑していたり……当時謎だった描写に実に22年越しに回答が提示されている

旅団
「始めはただ欲しかった」(画像は『HUNTER×HUNTER』カラー版11巻より 初出は『週刊少年ジャンプ』2000年52号)。ビデオテープを運ぶクロロ、シャルナーク、フランクリンを上から見るウボォーギンの視点であり、彼が目標を欲していたことが明らかになった(2022年51〜52号)

“過去編”の予告はあった

 ヨークシンシティ編の連載時、クラピカ過去編のネームが作られるもお蔵入りとなり、10年以上たってから読み切りとして発表された。それを収録した0巻のインタビューでは「旅団とクラピカの因縁をお互いの側面から描いてみよう(中略)すぐ出来たわけですよクラピカの方は」「団長は望んで団長になったわけではないんですよ。作品で説明するつもりなので詳しくはふれませんが」と語っており、過去編の構想は以前からあったことが伺える。

 余談だが0巻は「劇場版 HUNTER×HUNTER 緋色の幻影」の入場者特典として配布され、この映画がきっかけで実写版デビルマン研究家が誕生している。

旅団のイメージ変遷

 旅団といえば、全員集合時のやりとり「命じてくれ団長 今すぐ!!」「俺が許す、殺せ」に始まり、地下競売場をダブルマシンガンで一掃、続くマフィアとの戦闘では片手でバズーカを防ぎ、十老頭の実行部隊“陰獣”もあっさり始末するなど、登場当初は鮮烈な印象を残してくれた。その後、ゴンのセリフ「仲間のために泣けるんだね 血も涙もない連中だと思ってた」に象徴されるように、身内には優しく、巨悪ではないことも分かってきた。

旅団集合
衝撃的なやりとり(画像は『HUNTER×HUNTER』カラー版8巻より)

 特にパクノダとの人質交換のくだりでは、「彼らが今まで何をしてきたのか私は知らない 貴方の憎悪の深さから漠然と非道集団のイメージをふくらませただけ…」というセンリツのモノローグがあり、それは今まさに読者に突き刺さる。392話には「ウィキペには『極悪非道の盗賊』とあったがどうやら誇張みたいだな? オレが訂正しといてやろうか?」「そうだな頼むわ 『ムカつく奴等にゃ容赦しねェ』くらいが妥当だろ」というメタ的なやりとりもある。

 ちなみに冨樫氏は藤巻忠俊氏との対談で「団長は初登場で一話の最後に出して、効果的なセリフを言わせる。でも、描いた時は後のことを深く考えていないんです。他の団員にしても『ビジュアル的に被らないよう女の子を入れておくか』程度の考えで最初は出してます。その後で、キャラ同士を僕の脳内で雑談させて『これだ!』という部分を膨らませていきます」と手の内を明かしている。この“敵キャラを後から肉付けする手法”は『幽☆遊☆白書』時代にはできなかったことだという。

団長・クロロの魅力

 初登場とその後で印象が変わった代表格が団長・クロロだ。団員には厳かな雰囲気で接しているのに、ネオンとの会話は好青年そのもので、ウボォーギンを弔う大暴れでは「ウボォーさん 聞こえますか?」と今までと違った口調で呼びかけ、ゾルディック家との戦闘直後には「しんどー ありゃ盗めねーわ」とこぼしていた。一見するとキャラがぶれているようだが、それがなぜなのか過去編で明らかになる。

 すなわち、子ども時代のクロロは柔和で、飛び抜けて優秀な故にさまざまな役割を演じられ、そして凄惨な体験をしたことで仲間や故郷を守るため悪党の道を選んだ。素のクロロは年長のウボォーに敬称をつけ、団長は与えられた役割として遂行していたのだ。

 冨樫氏は先の0巻で「決まったことだから、がんばる」という性格や設定が自身にないからこそ好きであり、旅団では団長がもっともお気に入りだと述べている。演技力抜群でカリスマ性があり、慕われやすい人柄を理解すると、スキルハンターの見え方も変化する。他人の念能力を盗んで使える力だが、本領はヒソカ戦で行ったように「仲間に貸してもらう」ことにあるのだろう。4種類の制約も仲間にしてしまえばどうということはない。


1Pだけ登場した結成当時の様子(画像は『HUNTER×HUNTER』カラー版12巻より)。397話で再び描かれることになる

 「小悪人共が震え上がり決して流星街に近づかない様 この街と自分をデザインする」――397話のセリフからは、ヨークシンシティ編で流星街がマフィアに恐れられていた状況はクロロの影響があったことが伺える。時系列でも、作中で流星街の存在を世界中に知らしめることとなった事件、31人の同時自爆は旅団設立後に行われている。

【簡易年表】

  • 70年9月:ノブナガ誕生
  • 73年頃:クロロ誕生
  • 84年頃:カタヅケンジャー特別上映会、サラサ死亡
  • 87年頃:幻影旅団結成
  • 89年頃:流星街出身の浮浪者が不当逮捕
  • 92年頃:浮浪者の冤罪が証明され、31人が報復自爆
  • 94年頃:クルタ族虐殺
  • 99年1月:第287期ハンター試験 ゴンら合格
  • 99年9月:旅団が地下競売襲撃 ウボォーギン、パクノダ死亡
  • 00年1月:第288期ハンター試験 キルア合格
  • 00年3月:ヒソカが除念師アベンガネとGI離脱
  • 00年7月:流星街のザザン討伐、ネテロ自爆、ゴン重体
  • 00年8月:第13代H協会会長総選挙、アルカがゴン治療
  • 01年1月:第289期ハンター試験
  • 01年XX:ブラックホエール号出航

決着が近づいている

 流星街の子どもたちがクロロという1人のカリスマに惹かれて集まり、ビデオテープに記録されていたヒーロー戦隊の吹き替え上映をきっかけに、旅団(旅する劇団)を名乗り、仲間の死により準備期間を経てクモへと至った。結成当時は諦めと怒りが原動力だったという過去が明らかになることは、神秘性が剥がされることでもあり、旅団の物語に決着がつく可能性が高まっている。0巻の最も有名なQ&A「今後、クラピカは、幻影旅団はどうなるのでしょうか?」「全員死にます」も、急速にリアリティーを増している。

 現在、旅団はヒソカと戦争しているが、「過去を語らない」とするヒソカにはこの点で分がある。もっとも、石田スイ氏が過去編を描いたことで「あの冒頭シーンに続くような形で、ヒソカの過去を漫画にしてみたいなと思ったんですよね。いつになるかはわからないですけれど(笑)」と冨樫氏に心境の変化があったらしく、ヒソカの過去編も出てくる可能性がある。

ヒソカ
天空闘技場編で最大級にインパクトのあった話(画像は『HUNTER×HUNTER』カラー版7巻より)

 00年頃から構想があった旅団の過去が22年たった今明かされているのは、舞台が整ったからだろう。「生かすべきは個人ではなく旅団」という彼らの掟は、カキンの王を決める「壺中卵の儀」と同質で、どちらも個人の権利より集団を優先している。それらを緻密に描くことは基本的人権に基づく近代の人間観の考察になる。

 王位継承戦が始まったこと、ツェリードニヒという巨悪が登場したこと、複数対複数の念能力バトルが本格化したこと――旅団、クラピカ、ヒソカの因縁を描くには時間がかかった。30代前半で『HUNTER×HUNTER』を始めた冨樫氏も56歳となり、子育ても終えるなど状況は変わった。若き天才がベテランになったからこそ描ける展開はあるのだろう。

残された謎

 旅団の過去編はまだ3話しかない。それでこれだけ心を揺さぶってくるのだから恐ろしい。残された謎をいくつかあげてみよう。

  • 旅団の掟はなぜ生まれたのか、「幻影」の由来
  • サラサ虐殺の犯人
  • シーラはどうなったのか
  • クロロが逆十字をシンボルにし、耳飾りをした理由
  • クロロがパクノダのメモリーボムを知った経緯
  • クロロと流星街の長老の関係
  • クルタ族と旅団の関係
  • クルタ族虐殺の犯人
  • ゾルディック家と旅団の関係

 おそらくこれらの一定数に回答が示されながら、モレナ一味との対決、ヒソカとの殺し合い、クラピカとの接点が描かれていくはずだ。また作中ではっきり「闇側」だと認められているのはツェリードニヒとパリストンで、特にツェリは一般人をさらって殺したり、動画を撮影したりとサラサやクルタ族の無惨な死と関係がありそうだ。一方、そんなツェリにも394話で同級生が登場し、彼の性質は「見えない胃袋」のようなものだというエクスキューズが入りつつある。人間の複雑さがかつてない精度で描かれそうで、今から身震いする。

※見えない胃袋:『レベルE』に登場した概念。他のものを腹いっぱい食べても頭のどこかで飢えている感覚。コンウェル星ではこの「見えない胃袋」を満たす薬を巡って戦争が起こり、星が爆発した

高橋史彦

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