そして、「敵は、全て(マルチバース)のスパイダーマン」というキャッチコピー通り、マイルスは別世界のスパイダーマンたちと敵対せざるを得なくなる事態に遭遇し、さらにネタバレ厳禁の衝撃的な展開へとなだれ込む。
スパイダーマンの映画作品の中でもかなり攻めた作劇がされているともいえるが、とあるセリフが後の展開に呼応しているなど、周到な計算のもとで脚本が書かれていることもわかるだろう。
マルチバースそれぞれの「表現の違い」もすさまじい
グウェンとマイルス、実質的に2人いる主人公のドラマがたっぷりの尺を使って描かれるからこそ、その後のとんでもないアクションも盛り上がる。糸を伸ばしてビルの間をスイングし、時には360度グルングルンと回るかのような、スパイダーマンの特徴および3DCGを生かした、ド迫力の映像に誰もが圧倒されるだろう。
前作「スパイダーマン:スパイダーバース」もアメリカンコミック原作だからこその、漫画の表現をそのままアニメ化したような映像が圧巻だったが、本作ではさらなる進化を遂げている。というのも、マルチバースそれぞれの「世界」が前作よりもたっぷり描かれるからこその、それぞれの世界の「表現の違い」もまたすさまじく、もはやアニメの絵というよりも「絵画」が激しく動いているような印象さえある。
例えば“スパイダーマン・インディア”が住むのは、特別な模様と色の“曼荼羅(まんだら)”の世界。クリエイティブ・チームは1970年代に出版されたインドのインドラジャル・コミック(インドのコミックシリーズ)にインスピレーションを得ていたそうで、門外漢でも確かにインドっぽさを大いに感じる。それ以外のマルチバースの表現そのものが面白く、時にはあっと驚くサプライズにもなっていて、それだけでクラクラしてしまうほどの衝撃があるのだ。
このクリエイターコンビの名前を覚えてほしい
本作を見た人は、今回は製作と脚本に携わったフィル・ロード&クリス・ミラーというクリエイターコンビのことを、ぜひ覚えていただきたい。過去に監督と脚本を務めた「くもりときどきミートボール」や「LEGO ムービー」も画面内の情報量が半端なものではなく、製作とプロデュースに関わったNetflix配信の「ミッチェル家とマシンの反乱」も「劇場版クレヨンしんちゃん」的なノリでとんでもなく面白い活劇が展開する傑作だった。
この2人がいてこそ、「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」は情報が隅から隅までぎゅうぎゅうに詰め込まれたバラエティ豊かな映像表現と、もはやドラッギーといえるほどのアクションの快楽と、それでいてサプライズに満ちていながらも計算され尽くされた物語が組み合わさり、かつてない映画体験ができる作品になったと断言できる。だからこそ、追ってフィル・ロード&クリス・ミラーの過去作も見てみてほしいのだ。
「飢餓感」が映画史上ナンバーワン
そして、この「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」は事前にアナウンスされている通り「前編」だ。この続きは全米で2024年3月29日公開予定(日本では2024年公開とだけアナウンス)の「スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース」まで待たなければいけない。本作への大きすぎる文句は、あまりに衝撃的すぎる物語と映像を目の当たりにしたからこその、「もっと早く続きを見せてくれ! 待ちきれないよ!」と思ってしまうことに他ならない。
その「飢餓感」は、個人的には「バーフバリ 伝説誕生」からの「バーフバリ 王の帰還」、「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」からの「アベンジャーズ/エンドゲーム」をも超えて、映画史上ナンバーワン。それも含めて楽しめる「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」は、最高の環境で楽しめる映画館で見るしかない。かつてないスパイダーマン映画が、あなたを待っている。
(ヒナタカ)
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