「テレビアニメの劇場版」としても、「社会人物語」としても、最上級の作品を見届けた。7月1日より劇場公開されている映画「ゆるキャン△」が、そうだったのだ。
溢れんばかりのキャラクターへの愛と、そして優しいメッセージに触れ、終盤では涙がポロポロこぼれ落ちた。個人的に「トップガン マーヴェリック」をも超えて、2022年のベスト1候補の映画が本作である。「ゆるキャン△」を全く知らないという方でも、丁寧に紡がれた物語と、かわいいキャラクターが織りなすクスクスと笑えるコメディー要素、そして劇場のスクリーンで映える演出を大いに楽しめるはずなので、老若男女を問わず幅広い世代に見ていただきたい。
「その後」を描いた物語
テレビアニメ化だけでなくドラマ化もされた漫画「ゆるキャン△」は、個性豊かでかわいい女子高生たちが、タイトルさながらの「ゆるい」キャンプをしていく、優しくてほっこりとした印象が好評を博した作品だ。キャンプのノウハウもしっかりしており、現在に至るキャンプブームの火付け役にもなっていて、天真らんまんな女の子を筆頭とする仲間たちとのグループキャンプだけでなく、1人でいることを好む女の子によるソロキャンプの良さを示したことも画期的だったのではないか。
そして、今回の映画「ゆるキャン△」では、女子高生だったキャラクターたちは社会人となっている。原作でもある種の妄想のような形で、大人になった、またはおばあちゃんになった彼女たちの姿が描かれたこともあったが、今回の社会人の描写は「ガチ」。もしも社会人だったら…?といった「IF」と言うよりも、原作者のあfろも監修を務めた形での、「その後」を描いた作品なのだ。
おそらく、映画「ゆるキャン△」において、ファンが最も危惧していることは、その社会人という設定、そして完全な映画オリジナルストーリーであることだろう。原作はもちろんテレビアニメでもまだ「正史」として描かれていなかった、未来の話を先んじて映画で語ることはやぼともいえるのではないか、はたまたこれまでのキャラクターや世界観、もしくは「ゆるキャン△」という作品にあった良さが失われてはしないかと、不安に思っている方も多いと思うのだ。
だが、安心してほしい。そこには変わらないキャラクターの魅力があった上で、2時間をかけて語る物語としてのダイナミズムも作り出し、さらに後述する「ゆるキャン△」という作品の素晴らしさをも広げていくような、「映画でしかできない」「社会人という設定を最大限に生かした」、最適解を見事に提示した内容になっていたのだから。
「ゆるさ」がありつつも「甘やかさない」作劇
予告編などで示されている通り、今回の物語は「みんなでキャンプ場を作る」というシンプルなもの。これまでキャンプ場でキャンプを楽しむ側だった「野クル(野外活動サークルの略)」のメンバーが、忙しい社会人として働く傍ら、空いた時間を使って集まり、草が生い茂ったままの場所を、キャンプ場へと作り替えるまでの切磋琢磨が描かれているのだ。
特筆すべきは、そのキャンプ場作りの過程に「野クルらしいゆるさ」はあるものの「甘やかしていない」ことだろう。例えば、草を手作業で刈り取る作業は過酷だが、そんな作業もしっかりやりきる姿が描かれ、さらには効率的で負担をかけない作業方法も提案される。
さらに作業の過酷さは「腰が痛い〜!」というギャグに昇華され、バイクでの長距離移動も「相変わらずストロングスタイルだねぇ」と評されるなど、明るい彼女たちの「らしさ」が存分に描かれる。キャンプ作りにおけるさまざまな問題も良い意味であまり深刻にならず、やはり「ゆるキャン△」らしいほっこりとした印象のまま見られるのだ。
それでいて、キャンプ場作りをする上で、工事はもちろん経営の経験などない彼女たちには、草刈りや長距離移動以外だけではない、大小さまざまな困難が待ち受けていて、それもまた「実際そうなるだろうなあ」というリアルさで描かれている。
そもそも「山梨の観光推進機構に勤める千明が、数年前に閉鎖された施設の再開発計画を担当していた」ことからキャンプ場作りに着手できたという設定も、とても「ありそう」なものだ。原作も本格的なキャンプ描写が好評だったが、今回の映画でも徹底した取材を行ったことがうかがえるのだ。
個人的に泣きそうになってしまったのは、野クルのみんなが同じ日に集まれないことさえも、「とある自分たちの呼び名」を持って明るいギャグにしてしまっていること。「休みの予定が合わずなかなかいつものメンバーがそろわない」ことは社会人あるあるだが、それでも野クルのみんなはしょげたりなんかしない。思えば原作でも、メンバー全員が揃わなくても、それぞれの時と場合でそれぞれの楽しいキャンプを描いてきたので、この点でも「社会人になってもみんな変わらないなあ……」と、やはりほっこりとできるのだ。
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クマさん版ベルセルクだった。