実写映画「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」レビュー 4Kレストア版を見てあらためて思った「やっぱり超面白いじゃん!」(2/3 ページ)
真っ当な実写化のアプローチもある。
例えば、ゲームにおける身長の何倍もの大ジャンプは、機械的な装置が付けられジェット噴射もする「ジャンプブーツ」で再現、さらにキノコもとい粘菌がトランポリンになって大きな穴に落ちたマリオが舞い戻る場面もある。「マリオと言えば大ジャンプ」という「押さえるところはしっかり押さえている」のだ。
その他にも、ほぼほぼ装甲車の装いの警察車両を奪って、マリオが笑顔を浮かべつつ炎が飛び交う中を爆走するのは、当時発売されたばかりの「スーパーマリオカート」(1992年)よりも、むしろ「マッドマックス」や「デス・レース2000年」っぽくあるが、これはこれで狂気を感じさせて面白いではないか。
さらに、なんと「ボム兵」がほぼほぼ原作そのままの姿で登場し、かなりの大活躍をしてくれる。なぜか手のひらサイズで超小さかったり、吹き替えだと「ボム爆弾」と呼ばれていて「ボムと爆弾の意味いっしょやん」とツッコミたくもなるが、見た目がかわいいこともあってぜんぜん許せる。
他にも、「逆進化銃」という人間を猿にまで戻すえげつない武器の見た目は「スーパースコープ」だし、火炎放射器が登場するのもたぶん「ファイヤーマリオ」の再現だ。さらには、粘菌だったりトランポリンだったりしたキノコを利用する、“とある痛快なシーン”もある。このときの「キノコを信じろ!」という言葉は頭にこびりつくほどの名言だ。
他にもマリオが序盤で「やつらの骨の1本1本を折って、手と足を片結びにしてやる!」(吹き替え版)となかなか猟奇的なセリフを発していたような気もするが、原作のマリオもよく考えれば容赦無く敵を踏みつけたたりファイヤーを投げつけたりはしていたので、そのストレートな再現だと思えば納得がいくのかもしれない。たぶん。
完全に恐竜だ、これ
さらに見逃せないのはヨッシーの存在である。360度どこからどう見ても、恐竜そのものである。原作のデフォルメされた丸っこいかわいらしさなど見る影もない。誰にもこびず、気どらず飾らず、「ヨッシーを実写化するならこうだろ」とストレートに表現したスタッフ達の心意気に誰もが痺れることだろう。
しかもこのヨッシーの人形は、高さ約90センチの構造内に60メートルの長さのケーブルが詰め込まれていて、64の個別の動きができる、なんとも複雑で凝った作りだったらしい。その精密な動きのおかげか、見た目のリアルさに反して動作がかわいらしく思える場面もあるし、ちゃんと舌を伸ばして敵をやっつけようとする活躍もあるのもいじらしい。
この見た目が恐竜すぎるヨッシーをはじめ、総じて、初めは「あれ?」だった要素が次第に魅力的に思えてくるのも、「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」の美点なのかもしれない。先ほどは良くも悪くも世界観がダークで気色悪く、グンバ(クリボー)の見た目がめちゃくちゃ怖いとも言ったが、それらもまたキュートに見えてくるので不思議である(麻痺とも言う)。
ちなみに、「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」は、よりにもよって恐竜映画の代表格にして歴史的ヒット作「ジュラシック・パーク」と同じ月に公開されてされてしまい、それも興行が失敗した理由のひとつとして語られている。こちらの恐竜の造形技術も皮肉抜きで素晴らしいのに、ちょっと切ないところだ。
ゲームの実写化は確実に「正解」を見つけていった
ここまで「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」をおおむね褒めたが、それでもやはり「失敗作」とされてきた事実は認めざるを得ない。マリオを演じたボブ・ホスキンスは本作を「生涯最悪の映画」などと辛辣に振り返っているし、セットや小道具とまったく整合性の取れない脚本に現場が大混乱してクッパ役のデニス・ホッパーがブチギレたりしたらしいとの逸話も残っている。
こうした理由もやはり、「前例」がなかったからだろう。脚本が二転三転した後にファミリームービーにシフトしたのも、ポップで楽しい雰囲気だった原作をダークでキッチュな世界観へと作りかえたのも、前例がないからこその「挑戦」だった。現場がかなりグダグダになっても娯楽映画としてちゃんと面白い内容として完成したのは奇跡ともいえるが、原作ファンの多くに受け入れられない結果にはなってしまったのもまた事実だ。
その後1994年には実写映画版「ストリートファイター」が興行的には一定の成功を収めたものの、原作の中途半端な再現度でやはり賛否を呼ぶなど、ゲームの実写化には紆余曲折の時代が続いた。
だが、2002年に公開された「バイオハザード」はシリーズが6作も作られる大ヒットシリーズとなり、2010年代後半から2020年代には「名探偵ピカチュウ」(2019年)や「ソニック・ザ・ムービー」(2020年)のように、原作ファンも納得の映画が作られるようになった。さらに、2023年にはドラマシリーズとして製作された「THE LAST OF US」が絶賛で迎えられるなど、長い時を経てゲームの実写化は確実に「正解」を見つけていったという歴史がある。
また、「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」は俳優たちに禍根を残しただけでもない。ルイージを演じたジョン・レグイザモにとっては本作が初のメジャー大作で、「僕の人生を変えてくれた」と感謝をしていて、後にX(Twitter)で「私のヒーローだった」とファンに声をかけられたこともあったそうだ。カメオ出演をしているランス・ヘンリクセンは、本作のメイクアップアーティストと結婚をしていたりもする。
エンターテインメントの歴史は失敗の歴史でもあり、だからこその成功がある。そんなことも噛み締められる「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」は、やはり愛すべき失敗作なのだ。劇場で本作を見た方から(意外と)面白かったと称賛の声が届いている、再評価の波が押し寄せている(気がする)のも、そのためだろう。ぜひこの機会を逃さず、劇場でご覧になってほしい。
(ヒナタカ)
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