実写映画「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」レビュー 4Kレストア版を見てあらためて思った「やっぱり超面白いじゃん!」(1/3 ページ)
真っ当な実写化のアプローチもある。
Netflixで配信中のドラマ「ONE PIECE」が大好評を博している今こそ、超人気コンテンツの「実写化」の源流の1つを見てみるのはいかがだろうか。それは、ゲームを原作とした1993年公開の実写映画「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」である。
日本円にして約50億円の製作費が投じられた本作は批評的にも興行的にも「失敗作」とされており、黒歴史のように扱われてきた経緯があるものの、筆者は子どものころに見て「え? けっこう面白くね?」と思っていた。9月15日から上映中の、30周年記念4Kレストア版を劇場で見てあらためて思った。「やっぱり超面白いじゃん!」
日本語吹き替えの出来もすこぶるよく、マリオ兄弟役の富田耕生と辻谷耕史は最高のハマりっぷりだし、日高のり子が演じるヒロイン・デイジーがとてもかわいらしいし、井上和彦と千葉繁の敵キャラコンビの掛け合いも楽しい。
また、エンドロール後のおまけは、2017年発売のHDリマスターBlu-rayにも収録されていた、それまでは日本未公開・未放送だったもの。その吹き替えも追加で収録されているので、ぜひ見逃さないでほしい。入場特典のマグネットも嬉しかったし、いろいろと「あちゃー」と思える裏話が掲載された新規編集のパンフレットも良い内容なのでおすすめだ。
まず「前例」がなかったからこその果敢な挑戦は支持したいし、後述するように制作上のドタバタが深刻だった割には正統派のファミリームービーとして見どころが満載。ツッコミどころの数々も「これはこれで」愛らしく思えてくるのだ。そんな独自の魅力に溢れる本編の魅力を、さらに記していこう。
あらすじは忠実なはずなのに、なんか、もう、ぜんぜん違う
本作のあらすじは、「配管工の兄弟がさらわれたプリンセスを助けるため、キノコが生えている世界でジャンプをしつつ、爬虫類系の怪物たちと戦う」というものである。これだけ取り上げれば、原作となるゲーム「スーパーマリオブラザーズ」に忠実ではないか。
しかも、「ブルックリンでの配管工の仕事がうまくいっていない」「地下で異世界に迷い込み大冒険をする」というのは、この2023年に公開され超大ヒットしたアニメ映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」とも一致している。30年の時を経て、この実写映画をオマージュしていると思えるほどだ。
それなのに、やはり映画本編を見ると、「なんか、もう、ぜんぜん違う」という気持ちが前へとせり出してくる。まず第一に、良くも悪くも(個人的にはとても良い)キャラクターと世界観がダークで気色悪い。
例えば、体は大きいのに頭だけが異様に小さい敵キャラ「グンバ」の見た目がめちゃくちゃ怖い。そのグンバがゲームのザコキャラとしておなじみのクリボーの海外名だったと知ると、「これをクリボーと言い張ったのか」と胆力を称賛せざるを得ない。ちなみにこのグンバは、人間っぽく進化した恐竜を強制的に「逆進化」させ、小さな脳を持つ忠実なしもべとなった存在で、設定もかなりえげつない。
さらに異彩を放つのは世界観。レトロフューチャーで雑多な雰囲気は、青空の下での冒険が繰り広げられた原作とは似ても似つかず、1985年の映画「未来世紀ブラジル」に近い。
そこかしこにキノコが生えているという確かな原作再現もあるのだが、この映画でのキノコの大半は納豆のように糸を引いた「粘菌」である。ぐっちょぐちょのドロドロである。こうしたあさっての方向に行き過ぎた実写化のアプローチが、一部の好事家から強い支持を得ている理由だ。
意外と真っ当な実写化へのアプローチ
ここまで書いて、「じゃあ実写化作品としてぜんぜんダメじゃん!」と思われるかもしれないが、ちょっと待っていただきたい。実はあらすじ以外でも「ここは原作を実写化するためのアプローチとして真っ当じゃん!」と思える部分がたくさんあるし、それぞれが娯楽映画のギミックとしてちゃんと面白いのだ。
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