転職サービスの会社なのに「ゲーム担当」を採用 ガチのゲームを量産するpaizaの情熱が振り切ってた
目標は「エンジニアワンダーランド」を作ること。
「プログラミングで萌えキャラの着せ替えをするゲーム」「プログラミングでガチャを引いて女の子を集めるゲーム」など、異色のゲームを次々と世に送り出している「paiza」というサイトをご存じでしょうか。
サイトを見れば分かるのですが、paizaはプログラマーやエンジニア向けの転職・就活・学習サービス。ところが公開されているコンテンツは上記のようなゲームや、かわいい女の子が登場する漫画など、熱いオタク臭があふれまくっています。
paizaは先日も新作ゲーム「ロジックサマナー 閃光の召喚プログラマ」をリリースしたばかり。「プログラミングを召喚魔法」にした本格異世界ファンタジーRPGになっています。この会社一体なんなんだ……と気になりすぎたのでいろいろとお話を聞いてきました。結論から言うと、この会社ヤバイです(褒め言葉)。
アニメは「エンジニアの共通言語」
―― paizaではずいぶんいろんなゲームをリリースしてますが、このゲームってどなたが開発してるんですか?
片山:企画は僕と鹿野又を中心に社内のエンジニアを交えて考えています。イラストレーターは外注で頼んでいますが、開発は全てpaizaのエンジニアが作ってます。
―― 社長自ら! 世界観やかわいい女の子の設定なんかも片山さんが考えてるんですか?
片山:今は違いますけど、最初は僕がやってました。萌えキャラを使って楽しくプログラミングのスキルアップができないか、というのが出発点でした。2013年末に第1弾として始めたのが「新人女子プログラマの書いたコードを直すだけの簡単なお仕事です!」というプログラミングコンテスト。エンジニアが見ると思わず直したくなるような拙いコードが書いてあって、それを直してあげると新人女子が実は社長令嬢であることが分かって昇進していく……っていう演出でした。まだかわいい女の子のイラストがあるだけでゲームという形ではなかったですね。
鹿野又:私もまだ入社する前でした。社長が自分でPixivを見て絵師さんに依頼したらしいです。
―― 社長なにしてるんですか。
片山:まだ社員が5〜6人くらいのときだったので(笑)。
―― どうして萌えキャラを使おうと思ったんでしょう。
片山:エンジニアっていろいろな人がいて趣味でコードを書いたり、「競技プログラミング」っていうめちゃめちゃプログラミングができる人たちがガチで問題を解きあって勝負する世界があったりする一方で、なんとなくSEに就職できたからやってるっていうサラリーマンライクで家に帰ったらPCも開かないっていうエンジニアもいるんです。でもプログラミング自体が実はゲーム的ですごく楽しいもの。「業務以外でもプログラミングを楽しもう」「それをスキルアップや仕事探しと結び付けよう」というのがpaizaが生まれたコンセプトなんです。
どうやったら興味のない人にも遊んでもらって「趣味でコード書いても面白い」って思ってもらえるのかなとエンジニアの人と話してるうちに、どんなレイヤーのエンジニアと話してもアニメの話は必ず通じるっていうことが分かったんです。それこそ技術部長とかCTOとかと話してもアニメの話だけは盛り上がる。エンジニアにとってアニメは共通言語なんだな、と。
―― エンジニアにはアニオタが多いのか……!
片山:いえ、もちろん硬派なエンジニアの方もいますよ! でも今はオタクじゃなくてもアニメは見るし、ハードルをとにかく下げたかったんですよね。当時萌えキャラを使ったキャンペーンをやってるところなんてなかったので、「エンジニアはそういうのに興味ないんだ!」とか「社長令嬢を助けて昇進とか政治的だ!」とか批判もありました。でも「問題解くのが楽しかった」とか「アルゴリズムに興味を持った」と言ってくれる人も多くて、今では他のエンジニア転職サイトさんでも女の子キャラを使ったイベントをやるところも出てきましたね。
エンジニアにしか読めないマンガ
―― では萌えキャラとプログラミングの相性はよかったと。
片山:ですね。これはプログラミングのハードルを下げられるな!となって「じゃあ今度はマンガだ!」ということでpaizaは「マンガ期」に入ります。
―― そんな期がありましたか。
片山:ネームを描いたのがこちらの谷口です。
―― えっ! エンジニアがマンガを描いたんですか?
谷口:いえ、私もエンジニアの経験はあるんですが、paizaにはライターとして入社してます。「書くもの全般」ということでマンガもやったんですが……。
―― 絶対に無茶振りだと思う。マンガの経験があったんですか?
谷口:私もオタクだったのでたしなむ程度には……。同人を一瞬やってみたくらいで絵は上手くないので、作画はプロの先生にお願いしています。
―― 普通の社員がネーム描けるのもすごいし、やらせる会社もすごいですよ。
谷口:それで描いたのが「エンジニアでも恋がしたい!〜転職初日にぶつかった女の子が同僚だった件〜」です。転職初日に会社に行こうとした主人公が角で「遅刻遅刻〜」ってパンをくわえた女の子にぶつかって、出勤したら同僚だということが分かって「あーっ、さっきの!」っていう。
―― めちゃくちゃ王道のやつだ(笑)。
谷口:マンガの途中でプログラミング問題が出てきて、結果でストーリーが分岐するマルチストーリーなんです。全部正解するとその女の子と結婚できるという。
―― じゃあエンジニアじゃないと最後まで読めないんですか?
谷口:まあそうですね。
―― なんでそんなガチ仕様にするんですか! ほとんどの人読めないでしょ!
鹿野又:解答はネットでシェアしてOKというルールだったので最悪ググれば読めます(笑)。
片山:「自分の書いたコードをシェアする」というのもこのイベントのコンセプトの1つなんです。エンジニアってクローズドな世界なので、転職をするときにも自分の書いたコードを見せるってことが少ないんですよ。
―― え、それはどうして?
片山:例えばどこかの会社のプロジェクトでコードを書いた場合、大体その守秘義務があるから面接の場でそれを見せるわけにはいかないんです。「○○という巨大プロジェクトに参加してました」っていう人をいいじゃん、と思って採用してみたら実はその人はプログラムを全然書いていなかった、みたいなことが結構ある。それこそ趣味でコードを書いているような人じゃないと、面接で見せられるような成果物って実はほとんどないんです。
―― なるほど……。
片山:paizaのコンテンツでは楽しみながらコードを書いてもらって、それを企業にも見せることができます。もちろん転職を考えていない人にも気軽に遊んでほしいですし、遊んだことが転職活動の一環にもなる。そういうつながりは意識して作っています。
―― うまいことPRにつなげましたね。
谷口:その後もマンガコンテンツはいろいろ作っているんですが、だんだんラブコメに行き詰まってきて……。マンガ期の後期は女子高生プログラマーが戦う「バトルマンガ」を描いたりしました。
―― やってること完全に『少年ジャンプ』のテコ入れと同じじゃないですか!
谷口:話としては『ゲームセンターあらし』をはじめとするコロコロ・ボンボン系列のマンガを参考にしました(笑)。
谷口:だんだんマンガのネタがなくなってきて、丸1日マンガ喫茶に入り浸ってネームの勉強をしたりもしましたね。「今日は1日マン喫行ってきます!」って。
―― マンガのネタ考えるのが仕事の会社員って聞いたことないです。
コンテンツを通して「エンジニアワンダーランド」を作りたい
片山:そんなわけでマンガ期に限界を迎えつつあったことで、いよいよゲーム期に突入します。
―― お、ついにゲーム期が。
谷口:最初に作ったのが「プログラミングで彼女をつくる」っていう着せ替えゲームです。プログラミングってなんでも作れるのがいいところなので、彼女も作れたらいいなっていう。エンジニアの夢ですよね(笑)。
―― そんな発想するのpaizaだけでは……?
片山:登場する彼女はアンドロイドで、プログラミング問題を解くと好きな服や髪形に改造できるって仕様です。ゲームは当初考えてたより実際作ってみたら開発が大変で、僕も最後のほうはコードを書いていました……。これが好評だったので次はもっと本格的なゲームを作ろうとしたんですが、そうなるとさすがに内製では限界を感じてたんです。
―― まあ皆さん本業はゲーム作りをする仕事ではないですもんね。
片山:みんなで「ツムツム」とか「ねこあつめ」とかのカジュアルゲームを研究したりしてたんですが、やっぱりちゃんとゲームを作ったことがない人たちだけでは難しい。
―― 普通の転職サービスの会社ではみんなでツムツムの研究とかしないと思いますが。
片山:というわけで他社でソーシャルゲームのディレクターをやっていた鹿野又を採用しました。
―― なんでそうなるんですか!
鹿野又:私も転職活動中にpaizaの求人を見て「なんで転職サービスの会社でゲームディレクター募集してるの!?」と思いましたね(笑)。
片山:同業他社では絶対取らない職種なので、会社をやってきた中で一番の賭けでした。
―― paizaが完全に暴挙に出た。
鹿野又:それで作ったのが「コードガールこれくしょん」というゲームです。課金ではなくプログラミング問題を解くことでガチャが回せて女の子を集めていくっていうゲームで、おかげさまでとても大きな反響がありました。
この企画は今までと違い、初心者がゲームしながらプログラミングを学べるものにしたかったので、難易度調整にかなり苦労しました。プログラミングがミニゲームになっているんですが、最初は難しい問題が多くてミニゲーム部分で疲れちゃうなと。そこでベータ版、プロトタイプと作って難易度を下げる検証をして最終的なリリースになった形です。
―― やってることが完全にゲーム会社なんですが。
鹿野又:「プログラミングを学ぶためのゲーム」じゃなく「ゲームをやってるうちにプログラミングが学べる」というのがコンセプトだったんです。実務的にも統計的に見てもプログラミングって難しいことができるより、基礎的なことがすごく早くできるのが大事で、その結果として難しいことも覚えていけるという部分があります。初心者にはもちろん上級者の「筋トレ」にも使えます。そのためにはゲーム部分に楽しさがないと繰り返し遊んでもらえないので。
―― ゲームの現場から来た人の目から見て、鹿野又さんのpaizaの印象はどうでしたか?
鹿野又:ゲーム会社に負けず劣らず真面目に作ろうとしているので、「あれ? 同業に転職してきたんだっけ?」と思いました(笑)。ターゲットが「学生を中心にしたエンジニアやエンジニア予備層」としっかり限定できているのでやりやすかったですね。普通にゲームを作ろうとするとどうしても欲張ってあっちにもこっちにもウケるものを作ろう、となってしまうので。
―― 確かに「プログラミングに特化したゲーム」というのはマニアックで逆に斬新でした。
鹿野又:そのあとに作ったのが「恋するハッカソン〜君色に染まるアイドル〜」というノベルゲームでした。アイドル系のアニメとかが流行ってたから今度はそれやろう、という。
―― ものすごい貪欲に乗っかっていきますね(笑)。
鹿野又:主人公がプロデューサーになってアイドルを育成していくノベルゲームで、レッスンやテレビ局・コンサートなどさまざまなシーンの選択肢と分岐ストーリーを全部書きました。総量としては10万字くらいにはなりましたね。
片山:僕が学生時代にやってたバンド仲間が今メジャーアーティストなんですが、協力してもらって主題歌を書き下ろしで用意したんです。僕も一緒にスタジオに入って「そこのメロディこっちのほうがよくない」とか相談して。
―― 社長、作曲までするんですか(笑)。
片山:作詞は谷口が担当しました。
谷口:社内で「作詞依頼書」っていうのが送られてきたんですよ。「楽曲で表現したいこと 努力して夢のステージに一歩を踏み出せた喜び、高揚感、疾走感、未来への期待感」とかすごく細かく書いてあって。あの当時のチャットのやりとりは今見るとカオスです。
―― あの、宣伝やPRのために「ゲーム」を利用する手法自体はわりとよくあると思うんですが、paizaの場合「ガチで面白いゲーム」を作ろうとしてませんか?
片山:「ゲームをプレイした結果プログラミングのスキルが上がった」という体験ができるように作っているので、問題数も毎回10問以上ある。それを解いてもらうためにはやっぱりゲームとして面白くないとやっていけないんですよ。スキルアップのための学習支援はエンジニアに絶対必要なものなので、こういうゲームこそ半端なものにしちゃダメだと思って作ってます。
―― それならいっそゲーム会社に外注するとかは考えませんか? わざわざ鹿野又さんや谷口さんを採用しなくても……(笑)。
片山:いやー、それだと確かに表面的にゲーム性は上がるかもしれませんが、エンジニアの気持ちが分かってる人が作らないと今度は「プログラミング」や「学び」の部分が浮いちゃうと思うんですよ。自社にそういう人材がいればノウハウも蓄積されますし、深いところまでエンジニアのことを考えたコンテンツが作れる。プログラムで遊んだり学んだりしながらスキルアップして、やりたいと思えることを仕事にできる自己実現の場として「エンジニアワンダーランド」を作るのがpaizaの目標なんです。
鹿野又:私のPCにはいつも萌えキャラが映っているのでコンテンツ制作に関わっていない社員からは「あの人何してる人なんだろう」っていぶかしげな視線を感じるときもありますけどね(笑)。
プログラミング自体がゲームと似ている
―― 新作のゲームとして「ロジックサマナー 閃光の召喚プログラマ」が登場しましたが、これはどういったゲームなんですか?
鹿野又:今まで萌えキャラ系が多かったのでちょっと趣向を変えて「異世界ファンタジーRPG」が作れないかなと。プログラミングって1回書くとそのあと自動で仕事をし続けるのが魔法みたいだなと思っていたんです。あと最近の主人公って異世界に行くと大体最強になるので、エンジニアが異世界に転生して最強の魔法使いになったら面白いかなと。
―― またどっかで見たような設定が!(笑)
片山:コードを書くことがそのまま魔法の詠唱になるんですが、本当にプログラムが書ける人じゃないと魔法が使えないのでより優越感とか「俺TUEEEEEE!」感が味わえると思います。僕は「タクティクスオウガ」的な世界観が好きで、RPGっぽいレベルアップ演出ってプログラミングの上達とも似ているので以前からやってみたかったんですよ。
―― 片山さん自身も結構なゲーマーなんですか?
片山:好きなほうだとは思います。paizaにはプログラミング問題を解くと自分のスキルや予想年収をランクで可視化する「プログラミングスキルチェック」というサービスがあるんですが、あのランク制も「グランツーリスモ」や「バトルフィールド」をプレイしていて成果をバッジやトロフィーで示してくれるシステムがヒントになった部分があるのかなと。
プログラミングってエラーが瞬時に返ってきてそれをクリアすれば必ず答えにたどり着けるというのが、すごくゲーム的なインタラクションだと思ってるんです。パズルゲームみたいな感覚。
鹿野又:「コードガールこれくしょん」を作ったときに、このゲームをきっかけにpaizaに登録した初心者の方の中から実際にエンジニアとして就職した人が結構な数出たんです。そのときは本当に作ってよかったなと思いましたし、「ゲームで遊びながら就職もできちゃうかも」くらいの気軽さで触ってみてもらえるといいのかなと思います。
―― ありがとうございます。最後にpaizaのコンテンツのこだわりがあれば聞かせてください。
片山:あ、paizaのコンテンツに出てくる女の子はなぜか全員ニーハイで絶対領域があります!
―― そこなんですか(笑)。
谷口:最初のデザイン段階では違っていても最終的には必ずニーハイになってますね。誰かが社長の趣味を自然と察しているのかもしれません(笑)。
鹿野又:これからも斜め上の面白いものを作り続けて皆さんに「またpaizaか!」って言ってもらえるようになったらいいなと思っています!
というわけで、paizaの皆さんに「なんでゲームなんて作ってるんですか?」という素朴な質問をぶつけてみた結果、想像以上にガチでやっていることが判明しました。マンガやゲームを作るために社員を採用する会社がマンガ業界やゲーム業界以外にもあるなんて……。
筆者はプログラミングについては全くの無知ですが、今回お話を聞いていたら「マンガやアニメと同じくらいプログラミングも面白いんだ!」という情熱が伝わってきて胸が熱くなりました。あと、最終的に社長はプログラミングと同じくらいニーハイが好きなんだということもよく分かりました。ニーハイが好きな人に悪い人はいないのでpaizaは素晴らしいと思います!(個人の感想です)
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