街で見かける「似顔絵師」ってアレだけで食べていけるの? 気になったので直接聞いてみた
知らなかった世界の話ばかりでした。
ねとらぼのたろちんと申します。丸みを帯びた顔面で失礼します。
顔面といえば、皆さんは「公園やショッピングモールで似顔絵を描いてる人たちって何者なんだろう」って思ったことはないでしょうか?
少なくとも僕は街を歩いていて「あー、今日もいい天気だな。似顔絵描いてもらおう」とか思ったことはありません。だけど似顔絵屋さんは行楽地などでは結構あちこちで見かけます。一体どうやってあれだけの人数が似顔絵を描くだけで生計を立てているのだろうか。そもそも本当に食べていけてるのだろうか。めっちゃ気になりませんか?
ということで、マジで似顔絵1本で食べている似顔絵師の宮地真一さんに来ていただきました。実際に似顔絵を描いてもらいつつお話を伺ってみたいと思います。
宮地さんプロフィール
この道17年の似顔絵画家。フリーランスの似顔絵画家として、東京タワーをはじめ各地のショッピングモールやイベントで似顔絵ブースを出展している。漫画風の楽しいタッチが得意で、ネット上でも似顔絵制作を受け付けている。
1人10分で描き上げる「似顔絵」の世界
―― よろしくお願いします。あの、描いてもらってる間ってどうしてたらいいんですかね。
宮地さん:皆さん最初は緊張されますね(笑)。リラックスして笑顔で座っていていただければ。
―― どれくらいで描けるんですか?
宮地さん:絵のサイズや注文によって変わるんですが、大体1人10分くらいで1500〜2500円です。
―― はやっ! しかも思ったより安い! そんなんでもうかるんですか?
宮地さん:逆にこの価格なので早く描けることは似顔絵師に必須のスキルなんですよ。もちろん結婚式のウェルカムボードなどしっかり描きこむようなご依頼になるとまた値段も変わってくるんですが。
―― お客さんってどんな人が来るんですか?
宮地さん:家族でいらっしゃる方が一番多いですかね。子どもの誕生日とかご両親の還暦祝いとかカップルの記念日とか、節目の思い出に描いてほしいという人は多いです。年賀状に家族の似顔絵を使いたいという人も多いですよ。
―― なるほど、記念写真を撮るようなイメージなんですね。
宮地さん:ほかにも名刺に使いたいとか、最近だとSNSのアイコンにしたいという人も増えてます。「子どもの成長を見比べるのが楽しい」といって毎年来てくれるようなリピーターさんも結構いるんですよ。
―― 意外と需要あるんだな、似顔絵……。
―― 使っている道具も独特ですね。
宮地さん:これは「パンパステル」という画材です。チョークみたいな粉の画材で、僕は化粧品用のパフなどを使って描いてます。消しゴムで消せたりして使いやすくて、最近似顔絵業界でも流行ってますね。
―― 全然絵を描かないので知らなかった。筆とか絵の具じゃないんですね。
宮地さん:小学校で習う水彩絵の具って一番難しいんですよ。せっかく線がうまく描けても一度塗りに失敗したらもうダメになっちゃったり。それで絵が嫌いになっちゃう子もいるのでもったいないですよね。
―― ちなみに1日に何枚くらい描くんですか?
宮地さん:これもイベントや注文によってピンキリですが……1日に135人描いたこともあります。
―― そんなに!
宮地さん:お台場でブースを構えたときなんですが、オープンからクローズまでずっとお客さんが来ましたね。あ、できました。
―― もう描けたの!?
「似顔絵の才能」と「絵描きの才能」は違う
―― ほんとにあっという間に完成して驚きました。そもそも宮地さんはどうして似顔絵師になろうと思ったんですか?
宮地さん:小さいころから絵が好きだったんですけど、僕は特に似顔絵を描くのが好きだったんです。「似顔絵を描く仕事」なんてあると思わなかったので、最初はイラストの学校に通ったりデザインの勉強をしていたんですけど、実は似顔絵師を集めたプロダクションがあるということを知って。それで「僕も似顔絵師になりたいんですけど」と。
―― へー、そういう会社があるんですね。それは試験とかがあるんですか?
宮地さん:当時は連絡してポートフォリオを持って行って社長が気に入ったら採用って感じでした。スーツ着て行ったら「絵描きはスーツなんか着てこないよ」って言われたりして(笑)。今でこそライバル会社も増えてますが、そのころはまだ競合もなくてあまり組織だってなかったのかなと。
―― どんな流れで仕事をするんですか?
宮地さん:各地のイベントやパーティへの出張依頼があったり、ウェルカムボードやギフト用の注文が入ったり、似顔絵教室の先生をやったりいろいろな仕事があります。僕は今は独立しているんですが、会社にいたころはスケジュール管理や画材の用意を会社がやってくれるので絵だけに集中できる環境だったと思いますね。
―― なるほど。なんか全員街中で勝手に似顔絵を描いてる謎の職人みたいに思ってました。
宮地さん:変わった経歴の人もいますよ。僕が定期的に描いてる東京タワーには似顔絵のブースが3つあるんですが、昔ながらのおじいちゃん画家が色紙に筆で描いているところもあります。
―― あ、そのイメージです! 上野公園とかにたくさんいる謎の似顔絵おじいちゃん。
宮地さん:おじいちゃん画家たちに話を聞くと「昔は新聞の1コマ漫画や風刺画を描いていた」とか「法廷画家をやっていた」なんてこともあります。僕は似顔絵がメインですが、ほかのイラストやデザインの仕事と二刀流でやってるような人もいます。教科書のイラストや本の表紙を描いたりですとか。
―― そういう出自があったのか……。
宮地さん:似顔絵にもいろいろあって僕のような漫画タッチの人もいれば、デッサンが得意で本格的な絵画に近い実写系のタッチで描く人もいます。あと地方によってもタッチの傾向が違うんですよ。
―― えっ、そうなんですか。
宮地さん:例えば「大阪は線の太いこってりタッチ」「名古屋は水彩の温かいタッチ」「東京はアメリカンタッチや、きらきらタッチ、デザインタッチ、キャラクタータッチなど多種多様」って感じです。旅先で似顔絵を描いてもらうと違いが面白いと思います。
―― 似顔絵師を目指す人ってどんな人が多いんですか?
宮地さん:「特徴をとらえて線が似たことに喜びを覚える人」が似顔絵をやりたい人なんじゃないですかね。
―― 普通の絵と似顔絵でやっぱり描き方は違うんでしょうか。
宮地さん:似顔絵の才能と絵描きの才能は違いますね。絵はそれほど上手じゃないけど似顔絵が上手という人は結構いるんですよ。
―― コツみたいなのがあるんでしょうか。
宮地さん:似顔絵の基本は「丸、三角、四角で顔のパーツを把握すること」なんです。たろちんさんでしたら顔は丸、目は線、鼻は丸、口は四角でパーツの位置は中央寄りですね。
―― すげえ! 一瞬で僕が描かれた!
宮地さん:これが似ていると面白い似顔絵になるんです。配置も大事で、目が離れすぎたり位置が上すぎたりすると別人になります。あとは目や鼻の描き方などに絵師それぞれ自分の「持ちパーツ」があるので、その中から無意識に選んでいる感じです。
―― こういう考え方があるから10分とかで似顔絵が描けるんですね……。
宮地さん:さらに数ミリの線の違いで内面や精神状態を表現するんですが、基本はこの形から複雑化させていきます。デッサンとかでもシンプルな絵にだんだん影をつけて複雑化させていったりしますが、似顔絵師はこの基本の形を把握するのが早い人たちなんですよ。
―― 学校の美術の授業とかでもこういうこと教えてくれたらいいのに……!
宮地さん:先生が知らなかったりしますからね(笑)。
―― ちなみに宮地さんみたいにユーモアのある画風の人って、特徴的に描きすぎて怒られたこととかってないんですか?
宮地さん:そうならないためにも似顔絵師は自分の描いた見本をブースに飾るんです。「自分はこういうタッチですよ」って事前に理解してもらえるので。
―― あ、なるほど!
宮地さん:ただそれができないこともあるので、たまにきれいな絵を描いてほしい人が僕のところに来ちゃうようなこともあります。そのときは……特徴を減らして全然似てない絵にしたほうが満足してもらえることもありますね(笑)。
プロの似顔絵師は初めて使うタブレットでも似顔絵が描けるのか?
―― 今回はペン付きタブレット「raytrektab」のPR記事ということでこれで描いた似顔絵もお願いしたいんですけど、宮地さんはデジタルでも似顔絵を描くんですか?
宮地さん:僕は両方やってます。対面で描く場合はアナログが主流なんですが、年賀状やSNSアイコン用の注文だと最初から「データでほしい」という依頼も多いですから。
―― 初めてとは思えないくらい簡単に使いこなしますね……!
宮地さん:昔からパソコンで絵を描くのも好きなんですよ。家で使ってるのは手元で描いたものが画面に表示される普通のペンタブレットなんですけど、これは画面に直接描けるのでほとんど違和感ないですね。あ、ほんとにいいですねこれ。普通にいい。
―― すごい気に入ってる。普段手描きメインの人がデジタルを触ると感覚が違ったりしそうですが。
宮地さん:昔はそうでしたが、今は筆圧も細かく感知してくれたりするのでほとんど違いは感じないですね。あと消したり描きなおしたりするのはやっぱりデジタルが楽です。最近は手描きの絵描きさんの中でも、作品の構想を考えたりレイアウトを決めたりする作業には便利なデジタルを使っている方を見かけますよ。
―― 似顔絵の世界でもデジタルで描く人は増えていますか?
宮地さん:最近はネットだけで活動してる似顔絵師さんも多くて、そういう場合はデジタル派の人も増えてますね。
―― ということは似顔絵師って昔より今のほうが多いんですか。
宮地さん:すごく多いですよ。僕が始めたころの数十倍に増えてると思います。
―― そんなに!
宮地さん:あ、できました。
―― やっぱり早い!
―― 実際に使ってみてどうでした?
宮地さん:全然違和感なく描けました。小さくて持ち運びもしやすいし。最近のものはいいなあ……今ほんとに買おうか悩んでます。
―― じゃあ今後イベントなどでもタブレットで似顔絵を描いてデータで渡すような似顔絵師が出てきたりするんですかね。
宮地さん:どうでしょう、対面の似顔絵の場合はやっぱり手描きの温かみや直接顔を見て描いたという思い出も魅力ですからね。
―― なるほど。
宮地さん:でも「短時間でクオリティを上げられる」というのはデジタルの利点です。消して描きなおすスピードや塗り込みのしやすさは圧倒的にデジタルのほうが上ですから。上手く役割分担して似顔絵業界が盛り上がるといいなと思います。
―― ありがとうございます。初めて似顔絵を描いてもらって緊張しましたが、すごく楽しかったです。
宮地さん:僕も初めて似顔絵を描いてもらったときは緊張しました(笑)。ぜひ気軽にふらっと描いてみてもらってください。意外と面白いですよ!
ということで似顔絵師の宮地さんのお話と妙技を堪能してきました。僕は「自分の顔を描いてください」とか頼むことに妙な気恥ずかしさがあったんですが、実際描いてもらうとやっぱりうれしかったです。宮地さんの出店スケジュールはホームページでも公開されているので皆さんもぜひ一度行ってみてください。似顔絵、おすすめです!
記事でも登場した「raytrektab」は絵を描く人に人気の筆圧感知ペン付きWindowsタブレット。お絵かきソフトの定番「CLIP STUDIO PAINT DEBUT」ダウンロードコードがバンドルされており、外出先やリビングでも本格的なお絵かきが楽しめます。
本物の紙に描いているようななめらかな描き心地と、持ち歩きやすい8インチのコンパクトサイズが最大の特長。デジタル派の人はもちろん、これまで液晶タブレットを使ったことのない手描き派の人の最初の1台にもぴったりです。
ちなみにこの取材の後、ほんとに気に入った宮地さんがマジで購入して使用レポートを送ってくれたので最後に紹介しておきます。そこまで頼んでないのにすごいいい人だ……!
・スケッチ(練習)の量がかなり増えました
スケッチブックや画材を必要としないので、いつでもスケッチしてます。テレビやドラマを見ながらタレントの顔をスケッチしたり、インスタなどから好きな絵を見つけて模写したりして、練習してます。
・アナログの注文の場合の下書き、構成に便利です
似顔絵は配置やパーツの大きさが大切なので、編集できるとかなり良いです。
・小さいのでどこにでも持ち歩いてます
電車の中でもスケッチできました。スケッチブックより、タブレットの方が何となく恥ずかしくないです(笑)。
・日常的に使ってみて
とても良いです!
長年似顔絵を描きまくってきた宮地さんが素のテンションで「ほんとにいい」と絶賛していたのでほんとにいいんだと思います!
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