サブストーリー・熊野の炎の道
世の中には,大名の領地で窮屈なまま生きるよりは,死を選ぶ者もいる。
“熊野”は誉れ高き侍の一族に生まれた,強大な大名の甥にあたる人物だった。しかし,城内での政治的な生き方は,彼にとって苦痛でしかなかった。
少年の頃,彼はあえて剣道の稽古をさぼり,かわりに霊都の商人や村人のところに出入りしていた。
彼の両親は裕福だったが,熊野の面倒を見るよりは体面をつくろうことばかりに興味を持っていて,それゆえ彼は奔放に暮らしていた。
幾年かが過ぎ,熊野はだんだん夢見がちな少年から暴力的なごろつきへと変わっていった。24歳のときは飲んだくれの悪党で,家族からも縁を切られて長い月日が経っていた。
彼は霊都の町外れをあさり回り,残飯を食い,納屋で寝る日々だった。そしてある夜,熊野が空き家に押し入ったとき,彼はその報いを受けることとなった。
彼がうつらうつらしていたとき,突如小屋の真ん中の石のかまどから,ものすごい熱が立ち昇った。とたんに家の中は暗く煙に満ち,火の粉が闇の中に渦を巻き出してねじれた口の形になった。
その口は息を吐き,彼はあっという間にその何者かに囲まれてしまった。
「逃げるのだぁ」
火の神はきしるような声で叫んだ。熊野はその声が本当の音なのか,それとも自分の頭の中から響いているものなのか見当がつかなかった。
「帷が破れる前に……雲帯岳に向かえ……」
そして煙と灰が消えた。熊野はうろたえ混乱し,小屋から転がり出た。彼には火の神が自分の周りを取り囲み,彼に命令しているように思えたのだ。
彼は霊都を飛び出し,困惑のまま霜剣山の峰にある雲帯岳に向かった。
熊野が山にたどりつくまでの数週間はまさしく狂乱状態の日々で,彼は飢えと疲労で狂気に陥っていた。
しかし,彼には奇妙な明瞭さがあった。彼は陰謀に満ちた父の邸宅からはるかに離れた,この寒く岩だらけの地が,自分の故郷のように感じていたのだ。
彼は正気に戻った。それは,彼が自らの瞑想の中で,神が彼を山伏としての道へ導いたことに気付く数ヶ月前のことである。
そして,彼が霊都から逃げ出した翌日に,そこが壊滅させられたことを知る数年前の話である。
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