■インプレッション
プレミッションの簡略化によってスピーディーにプレイできる反面,装備や作戦に「凝る」余地はほとんど残されていない。チームメンバーには経歴やスキルの得手・不得手といった個性がなく,感情移入しづらいのはちょっと残念。
それでも「ライフゲージなし,回避不能」というリアル志向は本作にも受け継がれており,扉一枚を挟んで敵と対峙する緊迫感は健在だ。照準のアシストや弾倉の自動装填などの操作補助も細かく設定できるので,熟練度に合わせた楽しみ方ができる。
キャラのアタリ判定は若干甘く感じた。壁際に隠れたつもりでも被弾する事は珍しくなく,逆に標的が多少遠くても当たってくれる。味方のキャラについても同様で,よほどの緊急事態でない限り,メンバーの肩越しに射撃することは控えた方がよい。
敵・味方のAIには物足りなさを感じる。
交戦中の敵の反応はその場に留まるか,じりじりと接近するかのどちらかで,面白味に欠ける。
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■部屋に手榴弾を投げ入れようとする筆者。 一気に的を殲滅させる作戦だが……。 |
■どかーん!!「ぎゃー!」方向を見余って跳ね返って来た手榴弾に粉砕される筆者。投げる方向には注意が必要だ。 |
味方のチームメンバーも射撃のウデはそこそこだが反応がニブく,突入時に戸口で立ち往生したり,手榴弾を目の前に落として自爆したりと,せっかくの命令も裏目に出る事が多く,「お前らホントにエリート部隊かよ!?」と言いたくなるほど頼りない。
しかし,前シリーズで熟成されたグラフィックは非常に美しく,建物の構造はモチロン,さりげなく配置された小物類が場の雰囲気を効果的に引きたてている。敵キャラの作り込みも細かく,例えば作戦地域が南アフリカだと,敵の装備品も現実の南ア軍が使用しているものだったりする。この辺りはさすが。
「“完全”日本語化の功罪」
最近は海外大型タイトルの日本語化も早くなり,英語が苦手な方にとっては大変便利な時代になった。
しかしながら,トータル・フィアーズ完全日本語版の翻訳にはぎこちなさを感じた。特にプレミッションのブリーフィングは気になった。
言い回しや語彙選択の問題か,オリジナル版にあった作戦指令の緊張感が薄く感じられることも。特に英語特有の俗語や“ラングレー(CIAのコト)”といった,本国では既知だが日本では馴染みの浅い隠語などへの配慮が足りず,時として意訳よりも把握しづらい。次回は戸田奈津子さんの登用を切に願う。
「トータル・フィアーズの照準」
さて,そんなトータル・フィアーズだが,同社作品シリーズ経験者の視点で本作を表現するならば,「RS入門用シューティング」だ。
ゲームの内容はCQB主体の「レインボーシックス」テイスト。と,その弟分の「ゴーストリコン」のシステムをベースに,煩雑な操作や判断に軍事面の予備知識が要求される要素は,徹底的に簡略化されている。では,その狙いは?
RSE社にとって本作は,劇場公開の記念碑であると同時に,映画を追い風にした新規ユーザー層の開拓というミッションを担った戦略タイトルであると解釈できる。
そのために前シリーズのエッセンスを残しつつも,極力間口を広く,敷居を低くしようとした跡が,そこかしこに窺える。ミッション読込中に表示されるTipsに,“トータル・フィアーズを楽しんだ後は,「ゴーストリコン完全日本語版」「Rainbow Six」「Rogue Spear」にも是非挑戦してほしい。”という勧誘文がさり気なく出てくるのがそれを証明しているかのようだ。
その結果できあがった本作だが,簡略化しすぎて多少の説明不足の感は否めないものの,初めてこのジャンルに触れるプレイヤーにとってはスリリングでサクサクと進む,斬新なゲームとして迎えられるハズだ。
先輩プレイヤーたちが初代RSのデモ版を初めてプレイした時に覚えた楽しさを,きっと本作で体感することだろう。しかし前シリーズのファンに対してこの作品の「ウリ」を明確にすることは難しい。
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