開発者インタビュー
「ACE COMBAT 5 THE UNSUNG WAR」は好調な売れ行きを見せており,改めてACEのパワー,そしてファンの多さを実感できた。
無事に我が子の巣立ちを見届けた開発チームもホッと一息ついたであろう頃,戦闘機好きの多いSBGは開発スタッフの方々へインタビューをお願いした。
迎え入れられた会議室にはACE開発チームの内9名のメンバーがにこやかに待っていてくれた。個人的にもACEシリーズは大ファンなだけに,かなり緊張しつつも貴重なお話しを伺うことができたのでここでお伝えしよう。
コンセプト:リアルな世界と爽快感の追求
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━━フライトシムとシューティングのバランスをとるのは難しい思われますが,ACE5はそのバランスはどのようにとられましたか? また,それぞれの要素で拘りなどは?
一柳:シミュレーションかシューティングかを気にするというより,ACE5のコンセプトを実現するためにどういうバランスにするのがベストかを考えました。
ACシリーズを通して守られてきたコンセプトが「手軽に爽快にエースパイロット気分を味わえる」ということなので,難しい操作をこなす充実感よりも,簡単操作で次々と敵機を打ち落とす爽快感を重視しています。
そういう意味では,ACE5はシューティングゲームですね。
遊んでいる最中に,ゲームと言うことを忘れてのめり込んで欲しいと思っています。そのために盛り込む工夫は,必ずしも現実を忠実にシミュレートすることばかりではありませんから。
井崎:フライトシムのように厳密に再現すると,リアルだけれども地味な遊びになってしまうところがあります。リアルな雰囲気を大事にしつつ,漫画や映画で見たような派手でわかりやすい空中戦を楽しんで欲しいんです。
━━ACE5でもハイテクノロジーなガジェットが登場します。今回はそれぞれが現実性のあるものだと感じましたが,明確な線引きなどはされていましたか?
菅野:前作のストーンヘンジ等もそうでしたが,その世界や時代背景を代表する様なテクノロジーというところに落ち着けています。なので「これはアリ,これはダメ」といった明確な線引きを設けたわけではなく,今回はそれぞれの国力を具現化したものとして描いたつもりです。一目見て世界の概要が分かって,広がりが感じ取れるような。
オーバーテクノロジーっぽく受け取られるかもしれませんが,今回の兵器群も決して全くの絵空事ではないんです。現実世界で過去に発表されている技術や構想を延長したものであって,もしかしたら実現が可能かもしれないものを登場させています。
ACE5の世界は架空ではありますが現実の兵器も出ますし,それらと並べても遜色無くリアルに見せたかったという気持ちがありました。とはいってもケレン味は欲しかったので,現実味のあるテクノロジーという点を重視しつつデザインしています。
一柳:リアルでなおかつびっくりするような光景を作り出したい場合,「1:どんな舞台に」「2:どんなとっぴな光景が存在するか」その両方の現実感と非現実度合いを上手く調節するべきだと思います。
━━音楽のコンセプトがAC04と共通しているようですが,これの狙いは?
中西:音楽については前作と比較してスケールが大きく,より密接にストーリーを盛り上げる必要性が出てきました。前作の良い部分は活かして,さらにスケールを壮大にしてゆくのがベストだと考えました。楽曲の詳細はミュージックディレクターとして小林に組み立ててもらいました。
小林:気付かれた方も多いと思いますが,ACE5のマップには前作に登場した都市名などが出てきています。つまり,前作「AC04」と同じ世界でACE5の物語は進行しているのです。このことを暗に皆さんへ伝えたい,いや「感じとって」いただきたい。このような意図が私達にはあったのです。
曲中にも,前作のISAFのテーマやAC04のテーマなど,実はかなりふんだんにちりばめられているので,前作を愛して下さったファンの皆さんには“にんまり”できるかと思いますよ。
さらに大きく,さらに深く,さらに熱く!なった,ACE5の世界をぜひ堪能していただきたいですね。
登場機体:開発者・プレイヤーの思い入れ
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━━ACE5では50機以上の機体が登場しますが,これらの選定基準は?
一柳:これは藪木の趣味です(笑)。
藪木:いや,そういうわけじゃないです。まあ趣味もありますけど(笑)。
基本的にはAC04で登場した機体を中心に,それらのファミリーを形成するにあたって必要な派生型を選び,さらにAC04で出ていなかったけど人気の高い機体,例えばYF-23AやJAS-39,X-29Aからマニアックなものまで加え,またMiG-31のようにゲーム的に個性を出しやすい機体も選定しました。
結果として50機以上という数字になりましたが,宣伝のときにわかりやすい売り文句のひとつになったと思います。
一柳:練習機のHAWKは,開発元のBAEシステムズが「宣伝したいので是非ゲームで使って欲しい」とお願いされたので,採用することになりました。
━━資料の少ない機体も登場しますが,これらの機体性能はどのように決定したのでしょうか?
井崎:情報が少ないものに関しては,翼の形状や全体のバランスといった機体のデザインなどから予想される性能を数値化しました。実際の機体と性能が異なってしまうこともあるでしょうが,重要なのはゲームの中で操縦して楽しめることですので,まずそれを前提に考えてパラメータの調整をしました。
一柳:今回,作成した戦闘機モデルの承認を得るため,戦闘機メーカーと連絡を取ったときに,「ここの形状はこうではなくこうなっている」という,今まで知らなかったデータが送られてきたりしました。そういった情報も,なるべく実物に忠実に取り入れました。
━━機体を「ファミリー」という系統にした狙いは何だったのでしょうか?
藪木:まず,AC04を自分もプレイして思ったのですが,登場する全部の機体を使用することはなかったんですね。ACE5で更に機体が増えるとますます使用しない機体だらけになってしまう。どうすれば登場する機体を満遍なく使ってもらえるかと考えた結果,使用している機体で一定の戦果をあげると次の進化機体が登場するというシステムを思いついたんです。そうすればそれぞれの機体を使用する必然性が出てくる。
井崎:今までだとステージが進むと次の機体,その次はこの機体と,自動的に新しい機体が出現していました。これはともすればそれぞれの印象が薄れてしまいかねないのですが,機体数が増えるとこれが顕著に表れるだろうと。1つの機体を長く使い続けることによって,元の機体と進化後の機体,ともにプレイヤーに印象付けようという狙いでもあります。
特に飛行機の知識の無いプレイヤーに対して,実際の機体の進化を追ってもらう事で,その機体を知り,思い入れをもってもらいたかったんです。
逆に色々な機体に乗りたいという要望もありますから,この両面を成立させるのが今回のファミリーという方法だったんです。
━━今回はゲームオリジナルの機体が2機登場しますが,設計を考える際に参考にしたもの,苦労したことなどはありますか?
藪木:X-02はSu-37をベースにYF-23などステルス機体の要素を取り入れて作りました。可変翼機構は何らかの驚きの要素を入れたかったので入れました。初めは冗談のつもりだったのですが…あと某小説はまったく関係ありません(笑)
FALKENは以前からZ.O.E.を復活させたいと思っていました。今度は特殊兵装に驚きの要素を持たせようと思いレーザーを入れました。そのおかげで通常形態と発射形態の機構が複雑で整合性を取るのが大変でした。レーザーもプロジェクト終盤に企画やプログラマーに無理を言って入れてもらいました。
また今回はもう一機FALKENの攻撃機への派生型ADLERという機体を途中まで作っていたのですが,スケジュールの都合で泣く泣く切りました。これはシンファクシ,リムファクシが発射する散弾ミサイルを自機が使えるようにと考えていました。
一柳:架空機の特殊兵装は,ロックオンしないので使いにくいかもしれませんし,値段も高いのですがぜひ手に入れて欲しいです。コツを覚えたらすごく強力な武器なので気持ちいいですよ。
━━敵の機体も多数登場しますが,選定する際に苦労したことなどありますか?
井崎:なるべく色々な敵と戦ってもらいたいので,大型機の類はAC04で登場したものと極力かぶらないようにしました。戦闘機サイズの敵は,ハリアーや無人戦闘機など特殊なものを除いて基本的にプレイヤーが搭乗できる機体と同じです。せっかく登場する機体なら,戦ってみたいし使ってみたいでしょうから。
━━開発チームでこれは一押し,あるいは特にこれが好きだ,という機体があれば教えてください。
井崎:私は地味なんですが,トーネードですね。攻撃機にも戦闘機にも電子戦機にも発展する実機のコンセプトが今回のシステムと良くマッチしていて,楽しんでもらえると思います。
鈴木:私はA-10(サンダーボルトU)ですね。この機体は対地攻撃に特化しているので,対地攻撃の任務のときにすごくいい感じです。また機銃が斜め下を向いているので,地面と平行に飛びながら地上物を壊していくことができるんですよ。
藪木:私も地味なんですが,A-6(イントルーダー)です(笑)これだけEA-6Bと合わせて2ヶ月以上かかった機体で,苦労して作った分だけ思い入れがあります。
一柳:私は……グリペン(JAS−39C)なんですねえ。
菅野:あ,取られた!(笑)
一柳:小さくてすばしっこくて小回りがきくって,そういうのが好きなんですよね。
菅野:一柳は実際に乗ってますしね。
一柳:そうなんですよ。以前,イギリスのファーンボロー航空ショーに取材に行ったことがあって,そこでイギリスのゲーム雑誌からの取材を受けたときに,BAEのブースで展示してあるグリペンのコックピットに座らせてもらったんです。それで好きになったというのもありますね。
河野:私はフランカーです。理由は……美しい,ってところでしょうか。やっぱり綺麗な機体は見ていて飽きないですし,如何にも「戦闘機」って感じですから。
菅野:一柳と同じですが,私もグリペンです。短距離で離着陸できる機体という事で,高速道路等と絡めた光景が実際に見受けられるのですが,そういった日常の風景を突然非日常にしてくれる自由度が魅力です。
中西:F-14が好き! やはりエンジンは2基に限る!あとA-10も好き。特に機銃が。機銃音も特別扱いでご用意させて頂きました(笑)
小林:いやー,やはりF-2でしょうか。小気味良い機動性と特殊兵装の対艦ミサイルの強力さがたまらないのです。通常ミサイルやバルカンでは味わえない,破壊力と長距離射程のズルさが大好きです(笑)。あそうそう,スペシャル塗装で4機揃えて飛べばホラ!夢のF-2ブ…え,オフレコですか??残念だなぁ…
糸見:私はあまり戦闘機とか詳しくないので……。あえて言うならF-16です。コンテを描くときとか形が描き安いんですよ(笑)。形がわかりやすいし,飛行機として必用なものも全部付いてますし。
河野:あぁ,それでみんなF-16だったのか!(笑)
一同:(笑)
━━次作でプレイヤー機として登場させてみたい機体はありますか?
藪木:次回作ではよりユーザーさんの意見や要望を実現できるように選んでいきたいと思います。どんな機体の要望が高いかを知りたいです。読者の方の熱い思いを是非教えてください!
ゲームシステム:世界との一体感のために
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━━新システムとして「僚機に指示を出せる」というのがありますが,このシステムの狙いは?
河野:システムというよりは,プレイヤーをストーリーに深く関わらせたいと思い出てきたアイデアで,企画の段階で,やりたいこと,やらなければいけないことを討論するうちに自然に出てきました。
AC04では戦っている内になんとなく周りでストーリーが進んでいるという感じでした。そうではなく,プレイヤーが実際に仲間と一緒に戦っているという,そういった感覚を出したかったんです。
井崎:ミッション後のリザルト画面を見ると僚機による撃墜数は少ないのですが,実際は僚機に狙われて敵の動きがかく乱されたり,ダメージを与えておいてくれたりと,かなりのサポートをしてくれているんです。積極的に僚機に指示を出してやると新しい戦略や楽しみが見えてくると思います。
河野:ACE5ではそういった僚機との一体感だけでなく,世界との一体感とか,そういったものを意識していたように思います。簡単に言うなら“仲間”というやつです。
地上の警察と連携したりとか,所属する部隊だけでなく,最後にはかつての敵とも“仲間”としての意識を共有するわけです。
━━ACE5では僚機システムもあり,AC04よりもセリフが大幅に増えましたが,この点でご苦労されたところなどをお聞かせください。
中西:セリフで苦労した点ですが,ひとことで言うと全部です(笑)
前作比で20倍ほどの音声データ量なんです。とにかく今回の敵は「量」でした。データ管理,台本,キャスティング,収録,加工・・・問題は山積みでしたね。
データ管理ツールを自作したり,2スタジオ同時並行収録や,命を削る(笑)など様々な工夫をして収録を乗り越えましたよ。しかし収録を無事に終えても,さらに大きな山は続きます。
無線加工処理も前作と同じやり方をしていたら少なくとも10人は必要だったかなぁ…。プロセスを1から見直し,いろんなアシストプログラムを自作するなどの工夫をして,なんとか担当1人で作業できる環境を用意しました。もちろん担当者はフル稼働でしたけどね。
そしてこの苦労の中,質を落とすどころか,さらにクオリティアップ要素まで盛り込んでいるんです。無線の背景音について,前作は一部のみ対応していたんですが,エース5では全部の無線に背景音を重ねてあります。単にセリフだけでなく,その人の状況が「音」でわかるようにセリフ以上の情報まで入っているんです。
ほら,全部苦労でしょ(笑)
一柳:開発初期段階で,日本語の音声導入を決める際に苦労しましたね。最初は,自分以外全員反対するんだもん。「日本語では雰囲気が出なさそう」「収録が2倍になって大変じゃないか」って。確かにその通りなんですが,でも絶対に入れたかったんです。
自分が操作できないイベントシーンではなく,まさに今自分が戦っている最中に,自分を取り巻く世界が生き生きと変化しているという感覚を大事にしたくて。
でも英語音声だと,ゲームに慣れて上手くなった人じゃないと,忙しいゲーム中に字幕を読むことはできないじゃないですか。
ゲームの最中に比較的フリーに機能していて,自然に情報を取り入れることができる聴覚を有効利用しない手はないと思ったんです。
河野:それが,開発が進行してくると,今度は立場が逆になりました。ゲーム中に行われるストーリー展開の説明が重要なので,これは日本語じゃないと理解できないことがわかって。
でも,必要なメッセージの準備が進むにつれて,その膨大な量に気付き始めて,今度は一柳が「間に合わなさそうだったら日本語カットしようか?」って。
━━英語版の音声も苦労されてそうですね。
河野:合計で約30時間分,総数で26000ほどのセリフがあるんですよ。日本語の収録は4週間ほどでしたが,英語版の収録は米国で10週間かかりました。延々何分も語るものから「OK!」なんて短いものもあったりしますが。
一柳:英語はかっこよくて雰囲気が出るけど,最初は状況が分かりやすい日本語でプレイするのがお勧めです。日本語音声もすごくかっこよく出来上がってますから。一度クリアした後に,2周目は英語でプレイして欲しいですね。 次のページへ
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※画面写真は開発中の為,実際の製品とは異なる場合があります。
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