開発者インタビュー
━━今回はグラフィックがさらに綺麗になり,地上もかなり細かく表現されていますね。
菅野:前作のアンケートでも指摘されていたところですし,また今回は低空を飛行するミッションも多かったので,ディテールテクスチャーを用いた高精細化と樹木配置等でクオリティーアップを図っています。
ミッションの数は前作比1.5倍となりましたが,今回は複数のマップ(地形)を用いて1ミッションという構成もある関係上,マップは数だけで55種類程あるんですよ。しかも情報量も増えているので,今まで以上に物量との戦いが熾烈でした。地上のテクスチャーは衛星写真を利用もしましたが,マップがそれだけの数になるとどうしてもイメージに合うデータが無かったりもしたので,独自にレンダリングした物もかなりの数になりますね。
一柳:シロクマ仕込んであるよね(笑)。
菅野:よく見つけましたね(笑)
実はとあるステージにシロクマ親子がいるんですよ。他にもパックマンのモンスターやリッジレーサーのクルマ等が地上に描かれていたりします。シリーズ恒例ではありますが,そういう遊びもいくつかの面に仕込んでありますし,単純に飛んで楽しいギミックや風景が目白押しだと思いますので,是非フリーフライトを活用して欲しいですね。
━━3Dの表現はユーザーから見るともう完成された感がありますが,ACE5のグラフィックに関しては制作側としてどうお考えですか?
一柳:実は私たちも前回のAC04でもう行くところまで行ったと思ったんですよ。もうこれ以上は無理だろうと。でも,今回さらにクオリティを上げることができて,開発者自身がびっくりしました(笑)。
一同:(笑)
菅野:今回は先ほども言った通り,地上やエフェクトの表現などは前作以上に力を入れました。ただ今回は地上に接近するステージも多く,必然的にそういった部分のクオリティを上げることになりましたが,それはあくまでも「エースコンバット5」のゲーム性やシナリオの方向性から来るもので,漫然とクオリティを上げていった訳ではありません。PS2そのものが持っている3D演算性能,そしてACE5ならではの仕様から表現を突き詰めていった結果と言えます。そういった意味では十分満足のいく完成度だと自負しています。
━━まださらにクオリティを向上させることもできる?
河野:菅野が言ったのは,単にグラフィッククオリティを上げればいい,ということじゃないんです。グラフィックのクオリティは既に限界近くですから。
例えば,空戦をメインにしたゲームを作るとしたら,雲を利用して隠れたりといった要素を作るため,雲や空の表現などをもっと向上させる必用が出てくるかもしれません。そういった意味では一要素のクオリティを上げる余地はまだあります。
でもそれはゲーム性,ゲームデザインに必用だからリソースの再配分を行なうということでこれ以上際限なくグラフィッククオリティを上げるということではないんです。
鈴木:今時点では限界まで使っていると思っていますが,落ち着いて見直しをかけたときにまだまだ向上の余地が見つかるのではないかと思います。ただハードとしてはほぼ限界に達しているのは事実なので,これから重要になるのは限られたスペックをどう振り分けるか,ということになると思います。
━━プレイする上でデュアルショック2とフライトスティック,お薦めはどちらでしょう?
鈴木:デュアルショック2とフライトスティックでそれぞれよい部分があります。遊ぶ人によってどちらがしっくりくるかが違うので,可能であればどちらも触れる場所で試しに遊んでみて,気に入った方で遊んでいただきたいですね。
ストーリー:当事者としてのプレイヤー
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━━本作は登場人物のキャラクター設定,3つの勢力,ストーリーの当事者としてのプレイヤーなど,ストーリー性が充実していますね。
河野:先ほども言ったように,今回は“仲間”というものを演出したかったというのがまず一点ありました。そして変化していく状況,ストーリーの中でプレイヤーをそれに深く関わらせたいということも考えていました。
━━世界地図を見るとAC04の時の舞台,USEAもありますが,繋がりは意識したのでしょうか?
菅野:「前作を知っていないと分からない」という様な繋がりは意識しませんでした。シリーズが長く続いてきた理由のひとつに,毎回新しくエースコンバットを始める方々もいらっしゃる訳ですし。そういう方でもこの世界地図を見たときに,シナリオに特別関わりの無い国も存在することで現実的だと感じてもらえるかもしれません。シリーズを通して遊んでくださっている方ならば,より世界の広さを感じてもらえればいいなと。
特に今回は「国家」が大きなファクターなので。前作でも既に膨大な設定がありますし,繋げるからにはきちんとした整合性をとってはいますが,ゲーム中にそれを語りすぎると煩くなってしまうでしょうから公式サイト(ACESWEB)などゲームとは離れた所で明かす事にしています。
━━「ラーズグリーズの悪魔」という物語は実在しているのでしょうか?
河野:これは実在しません。ACE5で創作したオリジナルの物語です。実は割と後の方から付け加えられた要素なんです。
井崎:“ラーズグリーズ”という名前だけは,実は北欧神話に出てくる人物の名前で「計画を壊す者」という意味があるんですよ。その言葉の響きもありましたが,その意味がストーリーにおける主人公達の役割も表しているのでこれに決めました。
河野:あと,プレイヤー達にそういった“名前”を付けたかったというのもありました。AC04で敵に「黄色中隊」がいたように,今回はそれに対するプレイヤー側の呼称をつけたかったというのもありましたね。
単に無名な戦場の1人のパイロット,という位置づけではなく,戦局を変える特別な存在として,仲間達からだけでなく,戦いに関わる全ての人達からその存在を意識される。つまり,名前を与えることでそれを表現したかったんです。
━━確かに敵部隊の通信で「上にラーズグリーズの悪魔がいる」と言われた時にはグッときました。
河野:ええ,そんな風に味方だけでなく,敵からもプレイヤーが認知されている,ということでストーリーとの一体感を出せたと思います。
最終的には敵だった者達も仲間になるわけですから,その中でプレイヤー達の存在を埋もれさせたくなかったんです。
━━今回のプリレンダリング映像は映画を見ているようでした。どういった点を意識されて制作されたのでしょうか。
糸見:今回のムービーで特に意識したのは光と影,そして色彩ですね。登場人物たちの心情やストーリーの展開に合わせて,色彩をコントロールしています。それらで盛り上がりを上手く表現して,よりドラマ性を高くできるよう試みています。台詞や演技だけでは伝えきれないものもありますから,それらを感じてもらうためのものです。
河野:実は開発するときに,盛り上がり表っていうの作っていたんですよ。グラフなんですが,この時はこのぐらいの盛り上がり,この時はクライマックスだから沢山盛り上がる,というような。でも,作っていく内に最後は全部の箇所で目盛りが目一杯振り切った状態で,これじゃ意味ないじゃない,ってなりました(笑)。
糸見:あとは人物の動きにも非常に気をつかいました。仕草や立ち姿でその人物の性格を感じられるようにと常に注意をはらっています。もちろん表情にも力を入れています。表情や目の動きだけで語らせられるぐらいに。
━━表情はキャプチャーできないのですよね?
糸見:技術的には可能ですが,今回は全て手作業で行っています。
体の動きもそうですが,キャプチャーに頼ったリアリティーというよりは,ある程度整理して伝わり易いシルエットを考えるほうに時間を費やしてます。
今回のように登場人物が多い場合は,個々の個性をどれだけはっきり分けさせられるかが問題となりますから,細やかな演出はアニメーターに頼る部分が大きいですね。
菅野:ムービーの制作がどんどん進んでいくと,はたから見て「そろそろこれで完成かな?」と思っても,ある日突然別物といっても良いくらい完成度が上がる時があるんです。それは顔の表情付けだったり手の動きが加わったせいなのですが,これらは絶大な効果をもたらしていると解かりましたね。ダベンポートがソファーに座るシーンも,ただ座っているのではなく,曲にあわせて手や足をバタバタさせたりする仕草一つで,彼の気取らない性格やロック好きな男というものを表現できていると思います。
━━あと,犬がもの凄いリアルですね!
糸見:はい,かなり気合いを入れてしまいましたね(笑)。カーク(犬の名前)のアニメーションを担当したスタッフは,実物の犬の動きや形態をかなり研究してました。犬はモーションキャプチャーするわけにはいきませんから(笑)。
モデルは近所のお米屋さんで飼われている犬なんです。許可をもらって毎日撮影してましたよ。ただ撮影するのも申し訳ないので,行くたびにお米を買って帰ってきて,開発室に大量のお米の袋が……(笑)。
河野:1日中,犬をじーっと見てるなんて,考えてみると怪しい姿だよね(笑)。
一柳:最初,犬なんか入る予定なかったのに,いつのまにか居たんだよなあ(笑)。
糸見:犬好きなので入れました(笑)。というのは冗談で,カークは主人公達の象徴的な存在として扱う為に付け加えています。皆がいる場所にはカークがいて,カークがいるということは,そこに仲間達が集まっているということを表す為でもあります。
━━エンディングで女性が子供にラーズグリースの本を読んで聞かせていますが,あの女性はもしかしたら……?
河野:あぁ,なるほど。そういう解釈もあるんですねえ。
でも違いますね(笑)。そういう部分はお楽しみにとっておきますし,今後何かしらの形になる可能性もありますから(笑)。
一柳:これはAC04でも起きた現象だったんですが,そうやってプレイヤーの一人一人がストーリーを色々と膨らませてくれるんですよ。いつかそれらのエピソードを形にしたいですね。
開発スタッフより
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━━最後に皆さんがここを見て欲しい,楽しんで欲しいというポイントをお願いします。
井崎:一つの機体を長く使ってそのバリエーションを楽しんで欲しいですね。それぞれの人に思い入れのある「愛機」ができてくれたら嬉しいです。
鈴木:僚機を積極的に使ってプレイしてみて欲しいです。また別な楽しみ方が出てくると思います。
藪木:恐らくほとんどの人がHUD視点でプレイすると思うのですが,たまにはコクピット視点や後方視点でも遊んでもらえるとうれしいです! あと直接自分は携わっていないのですが,空母から発艦したり,急襲される基地から発進するインタラクティブ・アトラクトや空中給油など,普段一般の人ではなかなか見ることのできない視点を入れられたことは大変意義のあることだと思います。
一柳:短時間で爽快感を味わえるアーケードモードも,ゲーム性を非常に重視したレベルデザインをしてありますので,こちらもぜひやりこんで欲しいです。
河野:スタッフ皆それぞれが力いっぱい仕事をやりきりました。そういった私たちの力をACE5の中から感じ取っていただければと思います。
菅野:眼下の地形に見え隠れする要素から,エースコンバットの世界がさらに広がったと感じて頂けたら幸いです。ぜひ自分なりのエースコンバットストーリーを作り上げてみてください。
糸見:日本語音声と英語音声の両方でプレイして欲しいですね。また違った印象を受けると思います。
中西:今回の効果音は重低音で気持ちよく響くよう仕上げてみました。サブウーファーが付いたサラウンド環境でのプレイもお勧めです!
小林:BGMの総数,ナント90曲オーバーです! 全部まともに聞くと4時間近くかかる計算になりますが,ぜひくまなく聴いて下さいね(笑)。あ,でもオリジナルサウンドトラックじゃないと聴けない曲もあるので,サントラも合わせてよろしくお願いします!(笑)
━━ところで,将来的に通信対戦などは……?
一柳:今は何も言えません(笑)。でも“もし”作ることになったら,エースチームが作るからには,単なる対戦ツールではないスゴイ物を作りたいと思います。
◇ ◇ ◇
お話しを伺っている間,とにかくひしひしと伝わってきたのが開発スタッフの皆さん全員がACEシリーズが好きで好きでしょうがないというその様子で,“好き”の理由は少しずつ異なるのではあるが,それらの思いが焦点を結び,噛み合い,昇華した結果がACE5なのだと実感できた。
ACEシリーズは行くところまで行ってしまった,もうこれ以上は……などと勝手な素人考えを抱いていた。が,ACEシリーズはこれからも進化し続けるに違いない,インタビューを終えたときにはそう確信していた。
・「ACECOMBAT5 THE UNSUNG WAR」紹介 INDEX
・PlayStation2 2004 INDEX
・PlayStation2 INDEX
・SOFTBANK GAMES TOP INDEX
※画面写真は開発中の為,実際の製品とは異なる場合があります。
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