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ゲーム脳、言われているのは日本だけ東京大学大学院情報学環教授 馬場章氏インタビュー 後編(2/2 ページ)

前編において、医療的効果や教育的効果はもちろん、人格形成にも利用できることが判明した「シリアスゲーム」。とは言え、「ネット中毒」や「ゲーム脳」など、ゲームのマイナス面があるのも確かだ。これらの問題は、どのように捉えていくべきなのだろうか?

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羽生名人もゲーム脳?

ITmedia ネット中毒の可能性がある人はそんなに少ない、とは言え必ずしもいないわけではないんですね。ゲーム脳はどうでしょう。

馬場 ゲーム脳は日本でしか言われていないことです。外国でゲーム脳なんて言ったら笑われてしまいますよ。ゲーム脳という言葉を使った森先生(※日本大学文理学部・森昭雄教授)を一部のマスコミが無批判に取り上げて、人々を、とくにお父さんやお母さんたちを何となく不安にしてしまっている。

 ゲーム脳に関する学説は2つの点で間違っているんです。ひとつは「脳波の測定方法」。森先生は簡易的な脳波測定機を作り、大学生や学園祭に遊びに来た小学生の脳波を測ったようですが、脳波はそんなに簡単に測れるものじゃない。

 私は脳科学の専門ではありませんが、脳科学の専門家の研究室にいくと、それはもう仰々しくて、測定にもかなり習熟した技術が必要なんです。それを帽子みたいなものを被って……漫画じゃないんですから、そんな簡単に脳波は測れないですよ。

 もうひとつの間違いとしては、森先生が測定したという「脳波の解釈」が間違っている。ポイントは前頭前野に出てくるα波とβ波の測定で、α波とβ波の波形がだんだんと単純化していく、つまり脳が働かなくなる。これが痴呆症(認知症)の高齢者の脳の波形に似ているから危険だと言っています。しかし、これは嘘なんです。

 というのも、ゲームに慣れれば前頭前野の働きというのは不活性になる。つまり、ゲームに慣れてきたという証明にしかならない。慣れると前頭前野は働かなくなり、他の部分を使ってゲームをしていくようになるんです。

 将棋の羽生名人の脳波を、しっかりとした脳波測定機で測定したところ、羽生名人は将棋を指している時に前頭前野がほとんど働いていない。多分、違うところを動かしているんだと思いますが、そこがどこかは分かりません。脳の働きというのはそれぐらい複雑で、人類が解明しているのは脳全体の働きの3分の1くらいですから。ただ森先生の定義で言うと、羽生名人でさえゲーム脳になってしまうんでしょうね……。

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脳波の測定方法と脳波の解釈が間違っていると、半ば苦笑しながらも馬場氏は指摘する。確かにこの2つが間違っていては、根本的におかしいと言わざるをえないだろう

ITmedia 大抵の人には慣れた一連の動作というものがありますから、そこで前頭前野が働かない人はゲーム脳と言うのなら、羽生名人だけでなく、地球上にいるほとんどの人間がゲーム脳になってしまいそうですね。

馬場 さらに森先生は、ゲーム脳では痴呆症の高齢者と同じ波形になっていき、キレやすくなるとも言っています。しかし、痴呆症の高齢者ってキレやすいんですかね? そういった因果関係が私には理解できません。

 逆に痴呆症の高齢者は、ゲームをやったほうが脳の波形が活発になるという研究結果があります。高齢者にはゲームをやらせたほうが良くて、子どもにはやらせてはいけない。子どもがゲームをプレイするとゲーム脳になるんだけど、もうゲーム脳と同じ脳波だと言われている人にはゲームをやらせたほうが良い。これじゃ、全然理屈が通じてないですよね。

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前編でも述べられているが、指先と脳(言葉を考える)の運動が行えるPSP版「もじぴったん」など、高齢者にも効果が高いと考えられるタイトルも多い

 ただ、何となくゲームは良くないんじゃないかといった考えが一般の人々の中にあるので、ゲーム脳という言葉を言われると何となく不安になってしまう。

 どうして人々にはゲームに対する不安があるのか、という問題には、ゲームが登場して日が浅いからという理由を挙げることができると思います。テレビが登場した時もやっぱり恐怖に思われたんですよ。テレビを見すぎると知的障害になるといったことが言われていました。ですが、50年経った今どうなっているかと言うと、知的障害にはなっていないですよね? それどころか、最初は不安に思われていたテレビは、どの小学校にも設置され普及している。教育にも利用されているんです。

 ゲームの場合、テレビに比べればずっと新しいメディアなので、人類がゲームとの付き合い方を確立できていない。例えば、テレビは何時間以上見てはいけない、近くで見てはいけないといったように暗黙のルールが蓄積されてきて、私たちはテレビに支配されるのではなく、反対にテレビを使いこなす、そういう方法を身につけてきたと思います。しかし、ゲームに関してはそれだけのスキルを身につけていない。だから不安なんです。

 そこでゲームか勉強かの二者択一となった時に、ゲームするより勉強だね、といった親の価値観だけに依存した判断となり、ゲームが悪者になってしまう。このような状況でゲーム脳なんて言われると、子どもに勉強させる口実として、つまりゲームをさせない口実として「ゲーム脳になる」といった言説が広まるのは当然なんです。

 ただ先ほども言ったようにゲーム脳には全然根拠がない。それでもゲームのマイナスの側面として強調される。それに対してゲームのプラスの側面といえば、ゲームをやっていると集中力がつく…かもしれない、といった曖昧なものになってしまう。

 だからこそ科学的にゲームのプラスの側面を証明したい。これはゲームに対する付き合い方を人類が身につけるためだけではなく、産業界に貢献するところも大きいはずです。ゲームの良いところと悪いところを平等に見て、もしプラスの効果が大きいのならば、それを積極的に利用する。

 実は日本の場合、ゲームの研究は遅れてましたけれど、ゲームによるプラス効果の事例はたくさん蓄積されているんです。ですから、これまではバラバラに言われていたものをひとつにまとめる意味でも、シリアスゲームという考え方の枠組みは有効なのではないかと考えています。

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「信長の野望」や「桃太郎電鉄」など、ファミコン時代よりゲームから学んだことは多い。馬場氏はこれらをひとつに、シリアスゲームという枠組みに収めて研究を進めたいと語る

ITmedia スポーツゲームひとつを取ってもそうですよね。現実の試合を見ていても選手の名前を全員覚えるには時間が掛かりますが、ゲームなら数試合で覚えることができます。

馬場 ゲームでは、擬似的とは言え自分が参加していますから。さらに言えば野球とは何かも分かるようになる。単に観客として選手の名前を覚えるだけでなく、ルールや駆け引きが分かる。ゲームには知識を増やすだけでなく認識のレベルを掘り下げる効果があるんです。



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