殴って笑い、笑って殴る。これぞエンターテイメント:「ゴッドハンド」レビュー(2/2 ページ)
クローバースタジオの三上真司氏とグラスホッパー・マニファクチュアの高田雅史氏がコラボレーション。ハードなアクションとウエスタンスタイルの音楽が交錯する世界を、ひたすら脳天気で軽い兄チャンが駆け抜ける。
通常技を選択することの面白さ
単純にボタンを連打しているだけでは勝てない「ゴッドハンド」。勝敗を分かつのは、どれだけ有利な状況を作り出せるか、そのためにどんな戦術で臨むか、という思考力だ。考えれば考えるほど、ゲームの駆け引きは深くなっていく。反射神経ではなく、頭脳勝負なので、難易度を克服するのは比較的簡単だともいえる。少なくとも高度に熟達した操作などマスターしなくても、ゲームを進めていくことは十分に可能だ。
考えるべき戦術はいろいろとあるが、これも基本はシンプル。大きく分けると、通常技をどうするか、威力の大きい必殺技をどこで使うか、の2点に集約できる。面白いのは、使用する技をプレーヤーが自分で決定できるという点だ。これはゲームの駆け引きの根本なので、少し詳しく説明しよう。
アクションゲームでは、よく方向キーまたは左スティックと各種ボタンを組み合わせて、多彩なコンボ攻撃を出せるというシステムが採られる。これは、アクションのバリエーションという点では面白いのだが、いくつもの操作を覚えねばならず、どうしてもプレーヤーを選んでしまう。しかし、攻撃のパターンそのものを少なくしてしまうと、アクションゲームとしてはあまりにも寂しく、すぐに飽きてしまう恐れが高い。ゴッドハンドで採られた手法は、この矛盾を解決するアイディアなのだ。
ジーンの通常攻撃は腕と脚に分かれ、腕から4つ、脚から5つの技を繰り出せる。これは、腕攻撃用に4つのスロットがあり、脚攻撃用に5つのスロットが設けられていると考えれば良いだろう。自分が使いたいと思う技をスロットにセットすれば、その技が出せるようになるというわけだ。
例を挙げよう。腕攻撃のスロットは4つと言ったが、ここに左チョップ→右ジャブ→左アッパー→右ストレートという風に技をセットしていく。こうしておくと、腕攻撃を繰り出すたびに、この順番に従って4つの技が繰り出されることになる。前述したコンボとは、こうしてプレーヤーがセットした技を出すことで成立するのだ。
また、通常技にはそれぞれに攻撃力が定められている。となると、ひたすら威力の高い技だけをセットすればいいように思えるかもしれないが、そう甘くはない。前述の例を見て頂きたい。攻撃が左右順番に並んでいることが分かると思う。右手で相手を攻撃した後で、また右手で攻撃するか、それとも左手で攻撃するか、どちらが有利か? 言わずもがなだろう。
左右を交互にセットすることで、コンボのすきがなくなり、その分敵の動きに対応する速度も増す。リーチも重要だ。エルボーとストレート、どちらが遠くまで攻撃できるだろうか。これも答えは明らかだろう。
コンボは、間合いの短い攻撃から長い攻撃につなぎ、それを左右交互に並べていくのが基本となる。だが、これも完全無欠ではない。第1撃が短いと、そもそも敵に接近しないと攻撃が当たらない。これは不利だ。そこでどうするか? いろいろなアプローチがあるが、セオリーは脚を使うことだ。
脚を使った攻撃は威力が大きく、リーチも長い代わりにすきも大きい。これは格闘試合の中継を見た人なら、うなずけるだろう。そこでダッシュして敵に接近し、脚攻撃を当てて怯ませてから、腕攻撃のコンボを撃ち込むといった戦術が生まれてくる。効率的で高いダメージを与えるにはどうしたらいいか。通常技の選択はそれを考えて行っていくのである。
とにかくド派手でコミカルな演出が楽しい必殺技
続いて必殺技。これには「ゴッドリール技」と「ゴッドハンド解放」の2種類がある。前者は効果や範囲があらかじめ決まった技で、シューティングゲームでいうスペシャルボムのような技だ。単体、直線、範囲などのタイプがあり、プレーヤーが好きなタイミングで発動できる。
使用回数はあらかじめ決まっているが、ゲーム中に専用のアイテムを手に入れれば、ストックを回復できる。さまざまな技があるので、通常技と同じようにあらかじめスロットにセットして使う。囲まれた時の緊急脱出や、中ボスクラスの敵との戦いなどに役立つだおる。ストックを残しておいてステージボスで連発する、といった使い方もアリだ。
ゴッドリール技で見逃せないのが、そのコミカルでド派手な演出となる。
例えば「打ち上げ花火」なんて技があり、これは敵を空中高くぶっ飛ばした後、画面中に花火が上がる。どこから出てきた、なんてヤボなことを言ってはいけない。ハードな戦いで疲れたプレーヤーの心を癒してくれようとする開発者からのサービスと思って、思いっきり笑おう。実際、偉そうなボスにこういうおバカな技でトドメを刺すと、何ともシュールでたまらない。
もうひとつの必殺技であるゴッドハンド解放は、敵にダメージを与えたり、敵を挑発することでたまっていくテンションゲージが一定以上ある時にのみ使えるもの。発動から一定時間はスピードと攻撃力が飛躍的に上昇し、さらに無敵状態になる。文字通りの切り札だ。
中ボスやボス戦までにテンションゲージをためておき、バトルが始まったら、適当なタイミングで発動して、後はひたすら連打する。コンボを撃ち込もうが脚攻撃を繰り出そうが、やりたい放題だ。ふらふらの状態に追い込めれば、そのまま追い打ちもかけられる。敵の体力をごっそりと削り落とせば気分は爽快(そうかい)!
きっちりと貫かれたコンセプト
軽い主人公、コミックタッチな必殺技。これらの要素は、ひょっとしたらハードでシリアスなゲームを求める人は嫌うかもしれない。特に神と悪魔の戦いといったテーマから重厚な雰囲気を期待したなら、ますますそうだろう。また、個性派クリエイター集団、グラスホッパー・マニファクチュアが加わっているため、特有の濃いネタもちらほらあって、これも人によっては鼻につくかもしれない。
しかし、それは決してマイナスではない。コミックタッチな演出は作品のカラーに過ぎない。あらかじめそういうものだと割り切っていれば、何の問題もないだろう。また、グラスホッパー・マニファクチュアならではのテイストも「キラー7」、「BLOOD+ one night kiss」といった諸作に比べれば、格段に薄い。
むしろここで評価すべきは、笑いとアクションという異質なジャンルを結合させようとしたチャレンジ精神であり、それをまとめ上げた開発陣の手腕だろう。“アクションはハードに、世界観はおバカに”。このコンセプトが全編を通してきっちり貫かれているからこそ、プレーヤーは息詰まる攻防と、思い切り息を抜けるイベントを楽しめる。このリズムがいいのだ。
最後に、そうしたゴッドハンドの魅力を凝縮したシーンをご紹介しよう。ゲーム起動時に最初に見ることになる、暴力シーンやグロテスク描写への警告を示す画面だ。
主人公の後ろ蹴りが敵の急所にヒット。ここにチーンという鐘の音が重なる。かつて警告画面でこんなぶっ飛んだ演出を行ったソフトがあっただろうか? アクションゲーム、特に人が人を殴るゲームだというと、すぐ暴力と結びつける傾向があるが、それなら全世界には乱暴者があふれかえってしまうはず。そんな言いがかりを軽くいなし、笑い飛ばしている「ゴッドハンド」。さあ、肩の力を抜いて、ハード&おバカな世界に飛び込もう!
ゴッドハンド | |
対応機種 | プレイステーション 2 |
メーカー | カプコン |
ジャンル | ゴッドアクション |
発売日 | 発売中 |
価格 | 7140円(税込) |
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