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ゲーム業界のM&Aを語ってみたパートII――EAとTake2くねくねハニィの「最近どうよ?」(その22)(2/3 ページ)

桜が咲いたので花見をしようと思ってたのに、ふと気がつくとパチンコ屋でハンドルを握り締めているくねくねハニィがお送りする「最近どうよ?」。第22回目は今、北米で起こっている大ニュースの経過を報告。4月になって新年度も突っ走るハニィをよろしこ(※意訳版あり)。

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EAがTake2を買収か?

 GDCが終了して明けて2月25日(月)の朝。ロサンゼルスでミーティングをしていたハニィの元に大きなニュースが入ってきた!――「エレクトロニック・アーツ(EA)がTake2を買収する!」。正直言って「やっぱりな」な感想でしたけど。だってハニィは非公式にこれを予言していましたから! ってミーティングしていたお客さんに言ったら「みんな予言してたよ!」と突っ込まれトホホな感じでしたけどねん。

 Take2についてちょっと説明しておくね。正式名はTake Two Interactive Software社。Take2はパブリッシュブランドをいくつか持っていて、「Grand Theft Auto」シリーズのRock Star、スポーツ系の2K Gamesなど、あまり良く知らない人は別のパブリッシャーだと思ってたりもするね〜。この他にも、「Bio Shock」や「Manhunt」など、話題性が高いソフトを世に送り出してるけど、2005年のHot Coffeeと言われる事件(「Grand Theft Auto:San Andreas」のPC版に、インターネットでダウンロードしたプログラム<このプログラムのコードネームがHotCoffeeという名だったの>によってアンロックできる「性描写シーン」が含まれていたとして問題になった)によって裁判があって相当な打撃を受けてたの。

 さらに、昨年「Manhant 2」がESRBレーティングでAOがついて発売がサスペンドされたり(最終的には修正してMレーティングを取得後発売した)、欧州で売れない国があったり、と売上見込が達成できず、さらにさらに最新の「GTA IV」がPS3版の開発に難航して遅延して発売を翌年に延期するなどなど、ホントにつらい思いをされてたんですよ。売りに出てるのでは? という噂は実は絶えず出ていましたな。今だから言えるけど。

 ちなみに、2K Gamesはセガから譲り受けたもの。セガはこの2K GamesブランドをTake2に売り渡してスポーツからは撤退したんだよね〜。あ、Marioとの競演である「Olympic」は特別です(笑)。Wii版もNDS版も好調ですね! あ〜脱線してしも〜たぁ。

 ActivisionとVivendi Universalが合併して「Activision Blizzard」となった(「くねくねその18」を参照)のはご存知の通り。業界で長い間君臨していたEAがこのまま黙っているわけがないのだ。しかもEA社長に返り咲いたリカテロ氏がPandemicとBiowareを買収して「これでゲーム業界のM&Aはひと段落」って言った3日後にこの合併の発表……。偶然(Activision幹部談)とは言え、相当恥をかかされたもんね。このまま2位の座確定を受け入れるわけはないな、とは思ってたさ。

 EAは紳士的に水面下で友好的な買収をしかけていたらしいんですが、結局Take2経営陣から拒否されたため、GDC後の「買うぞ!」宣言になったらしいですね〜。要は友好的なTOBから敵対的TOBへってところだったんですね。EAはTake2の株主に直接株を売るように働きかけ、一方Take2の経営陣は株主にEAに売らないで欲しいと呼びかけてる、ってのが現状。実は、買収は行われるのか否か、泥仕合になってるんですわ。EAが提示した1株あたりの金額は、直近のストックマーケットクローズ時のTake2株価の64%上乗せの金額(トータルで20億ドル:約2000億円)だったのに、Take2は安々とは受け入れなかったんですの。

なんで売らないのか?

 EAに何でもかんでも牛耳られたくないからって気持ちの問題、と言いたいところなんだけど(笑)、そうじゃなくて理論的な理由を説明すると、4月29日に発売を控えている「GTA IV」の存在を過小評価しているからってのが大きな理由らしい。「64%プレミアをつけた、とか言っちゃってるけど、ホントはできる子なんだからね! 発売されてからの株価を考えれば、安すぎだよ〜」と叫んでるみたいです。さらに、現在仕込んでいる種の花が咲くまでの期待値を含んでいないってのも言われてます。ええ、Take2側からのコメントですけど(笑)。

 実際にTake2は4月30日(「GTA IV」発売の次の日)に話し合おうってEAに申し出たらしいんですが、EAはこれを拒否。これによってEAは安いうちにTake2を買っておきたいって気持ちが見え隠れしてるとも言えるよね。「GTA IV」の販売数はとてつもないことが予想されているし、その数字が出れば、間違いなく株価は上がるだろうからね〜。

 現在のEAによる1株26ドルっていう株主へのお誘いの期限は4月11日だったんですけど、3月末に発表があって4月18日までに延長になったんですわ。刻んできてますけど、やっぱり「GTA IV」の発売後じゃないんだ〜(笑)。でも、この一連の出来事、後になったら分かることだけど、Take2はEAに「売るつもりがまったくない」のか「売ってもいいけど、その値段じゃイヤ」なのかは不明なんだよね。もし後者であるならば、時間と金額の問題なのかもと思うと、ちょっぴり出来レースを見ている感じでつまらない。興ざめ感は否めないわん。

この買収による影響は?

 ではこの買収による影響はどうかというと、目に見えないいろいろな影響があるでしょうな。それは、Activision Blizzardの時とはまた違うこともあるんですわ。

  • (1)EA首位奪還

 もちろん、きっとEAは世界第1位のパブリッシャーに返り咲くでしょうな。何て言っても「GTA」シリーズがある。Activision Blizzardに対抗するためには、こんなに好都合なタイミングでかつ大規模なお買い物を見逃す手はないのであ〜る。「Bio Shock」、「Manhunt」なども含め、またEAにオリジナルラインアップが増えるわけですな。

  • (2)スポーツゲームはEAから♪

 EA SportsはNFL、NBAなどほとんどのライセンススポーツゲームのラインアップを取りそろえており、毎年必ず売れるゴールデンブランドだったわけです。ところが、Take2がセガから2K Gamesブランドを買い取り、EA Sportsに対抗するために廉価で販売したもんだから、値下げ知らずだったEA Sportsブランドもやむなく値下げを余儀なくされた、という過去もあったのね。また、最近ではMLB人気が堅調で、2K Gamesの「MLB」はEAが眉をひそめるくらい好調なんですよ〜。

 そこで、この2K Gamesをパックリ食ってしまえば、SCEやマイクロソフトなどプラットフォーマーを除いて、スポーツゲームジャンルで敵はほとんど見当たらないことになるでしょうね。ユーザーが持っているスポーツゲームは必ずEAから発売されるってのがフツーになってしまうかもね。買収後、2K Gamesブランドが生き残れるのかは不明。もしかして殺されてしまうブランドなのかもしれないと思うと、何だかやりきれない思いもするね……。

  • (3)大量リストラ

 この買収が行われれば相当な数のリストラ対象者が出る予定なの。そりゃ、パブリッシャーとしてはダブってる仕事があるでしょうから、それなりのリストラは行われるでしょうが、怖いのは仕込んでるタイトルやプロジェクトが潰されて、クリエイターやエンジニアが大量解雇されることが見込まれることですな。また人が流れるのでしょうかね〜。

 ま、アメリカのようなM&Aが頻繁に行われる社会では、買収や合併によるリストラは「上場企業に勤めている人が予期すべきリスク」だそうですねん。プロジェクトが潰れるだけでもショックなのに、解雇かよ……。世知辛いすなぁ。

  • (4)ますますハリウッド化へ

 正当な競争がないってことは、切磋琢磨がないってこと。大型化タイトルに集約されていくことになるってことよね。ユーザーはEAやActivision Blizzardなどメガパブリッシャーのタイトルの棚だけ見ていればひと通りのゲームが買えるようになるってこと。一部のオタクやあまのじゃくだけがマイナーなタイトル棚を見てるってことかな。それっていいことなのかな?

ハニィのあとがき

 ビジネスで考えればフツーの話かもしれないけど、エンターテインメントってことを考えると、行くところまでいってしまった感があるよね。業界が成熟しきって強者と弱者、資本力のある会社とない会社が極端に分かれる岐路に立ってるのかもしれないね。この大きなうねりの中に日本のパブリッシャーが入っていないことも、また、日本でこの情報が大きく報道されていないことも、日本が世界のゲーム業界で孤立していくんではないか、という危機感さえ感じるわ。

 もちろん「最近どうよ?」でもこのニュースはトレースしていくけど、ぜひ、関心を持って見て行ってくださいまし〜。ハニィとしてはEAがどう、とかではなくて、独立系のパブリッシャーは独立して生き残って欲しいと思っているんですわ。大きなところがどんどん大きくなっていくのはもう止められないかもしれないけどね……。

 そんなメガパブリッシャーの動向を横目で見ながらも、あのフランスの会社Atariが再生をかけて人事を刷新。CEOとしてVivendi、Sony BMGで活躍してきたジム・ウィルソン氏が就任、親会社Infogramesの社長としてSCEワールドワイドスタジオトップだったフィル・ハリソン氏(ところでPS3の「Home」どうすんのさ〜!)が就任して、タッグを組んで再生に乗り出すらしいのよ。Atariはここ数年経営難から自社タイトルIP(知的財産)である「Driver」や「Stuntman」をスタジオごと売り払ったり、あまりよろしくない傾向だったんですが、きっとEAやActivision Blizzardに挑んで行くんでしょうね〜。それにしてもこのお2人、ハニィは別々のタイミングで仕事で直接関わってたのですごく不思議な気持ちでやんす。どーでもいいか!(笑)。ま、ハリウッド化阻止のためにもぜひご健闘をお祈りしたいところですな。

 そういえば、SCEですが、Sony Online Entertainment(以下、SOE)を傘下にしたらしいよん。SOEは「Ever Quest」の会社。そもそもSOEはSCEAにいた方が「Ever Qeust」を作ってスピンアウトして出来た会社(Ever Questの著作権表記を見るとSony Computer Entertianment Americaって書いてあるから今度確認してみてね)だから、元サヤってことかもしれんけどね〜。苦労しているネットインフラのところでSOEがPCで培ったノウハウが生きてくるといいなぁなんて思うハニィでしたん。

 それからそれから、CMP Game Group(GDC主催者)が「Game Developer Research」2008年度版で、世界の開発会社Top50を発表してんの。発売されているタイトルの販売本数、レビュー得点等によってワールドワイドで総合評価したものなのだ。日本の開発陣が入ってるので紹介しておくね。

  • 1. Nintendo Kyoto
  • 2. Infinity Ward
  • 3. Blizzard Entertainment
  • 4. Electronic Arts Canada
  • 5. Valve
  • 6. Konami Japan Studio
  • 7. Insomniac Games
  • 8. Capcom Osaka Studio
  • 9. Electronic Arts Tiburon
  • 10. BioWare Edmonton
  • 11. Bungie Studios
  • 12. Ubisoft Montreal
  • 13. 2K Boston [& Australia]
  • 14. Harmonix
  • 15. Bandai Namco Tokyo
  • 16. Square Enix Tokyo
  • 17. Game Freak
  • 18. Epic Games
  • 19. Hudson Soft
  • 20. Neversoft

 最後に、前回の「最近どうよ?」で書いた、次世代機向けに開発が高度化高騰化していく中で、XNAやWiiウェアなどのダウンロードがゲーム業界に新たな息吹をもたらすでしょ? ってことを英語のまま「デモクラタイズ」という言葉を使ってみたところ、ある欧州の大手日系の社長様からメールをいただきまして、「大衆化」と訳してみては? とのご提案。な〜るほど!

 特定の分野においては「開放」もひとつの「大衆化」なのですが、「大衆化」の方がより普遍化されていて造語の原語に近いような気がしますがいかがでしょうか。「次世代機」のソフトが「ハリウッド化」するという大方の見解に対して、「ハンディカムでもいい映画が撮れるよ」とか、アカデミックな専門知からWebの集合知へという流れにならってプログラムの世界も「エリート独占の時代は終わった」ってなもんじゃないでしょうか。

 すばらしい。特に「ハンディカムでもいい映画が撮れるよ」ってのに響いちゃいました〜!しっかし……物を書く人間としてはもうちと語彙を増やさんといかんなぁと。読者の皆様、こんな稚拙なハニィですが、頑張ってまいりますのでご支援よろしこよろしこよろしこ〜っ。

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