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デベロッパーの形態の違いに気づいてた? くねくねハニィの「最近どうよ?」(その23)(2/2 ページ)

「モンスターハンターポータブル 2nd G」がブレイクする日本にいると、「GTA IV」が海外で爆発的にヒットしてるって聞いても「ふ〜ん」な感じだけど、どうやら行きそうですね、北米だけで1000万本。どうやら開発費は100億円以上との噂。開発費も販売本数も、ケタが違う。そんな日本と海外の違いを「開発会社のかたち」って切り口から語ってみたくねくねハニィの「最近どうよ?」第23回目です。

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開発会社のかたち

 日本においてのゲーム業界の歴史から言うと、ひと言で「開発会社」とくくっている集合体にはいろいろな形があるよね。例えば企画から開発までフルで行うところ、プロデュースだけして外部開発会社をコーディネートする(つまり分業して下請けに出す)ところ、グラフィックだけ提供するところなど。

 また、実際にすべての人材を抱えている開発会社であろうとも、請けた仕事によっては下請けに出すこともあるんですね。逆にすべてがそろっていても、プロジェクトの一部だけ(グラフィックだけとか)請けたりもするわけですし。それだけじゃない。手が空いているプログラマーが、大きなプロジェクトのために別の開発会社に派遣されてるなんてよく聞く話です。

 パブリッシャーが競争するように、デベロッパー同士も競争していることは当然なんだけど、日本の場合は下請け、孫請け関係が長い間構築されているから仲良しだったりもするわけで、ひと言で「開発会社」と言っても、このようにいろんな形態や仕事の請け方があるのですな。

 ところが、海外の場合はというと、開発会社といえば「すべてを社内でやる」ってのが基本なんだな〜。開発会社に下請けがある、とかタスクフォースでいろんなところから開発者が集められてモノを作る、なんて想像ができないのだ。だからすべてを丸抱えする海外の開発会社の開発費がとても高いってのはうなづけるよね。ただし、最近ではコスト削減の波が海外のデベロッパーにも押し寄せてて、一部のコーディング(プログラム)を東欧に、グラフィックパーツを中国に外注するところも増えてきてるけどね。これもタスクフォースという形ではなく、あくまでも作業の切り売りなので、最終的には開発会社内で処理されることなのだよ。

 日本は優秀な職人を一気に集めて短期間にモノを上手に作る、小回りが利いて効率的かつ短期間に開発をする、って定評はこんなところからも来るのだね。また、1人のプロデューサーが複数のプロジェクトを持っていたり、プログラマーやアーティストを複数タイトルで共有していたりと、海外から見ると、混迷を極めているわけです。でも、こんな効率的な進め方は日本でしかできないわけで、ジョブディスクリプションがしっかりと分かれている海外ではとても不可能な芸当なんですよ。

誰が作ったのか?

 先ほどもちょっと書いたけど、ハニィがゲーム業界でビジネスをどっぷりしていたときに思っていたこととして、日本では「誰がお金を出したか?」がフォーカスされていたけど、海外では「誰が作ったか?」を重要視している風潮が続いているのね。ようやく日本にもその波が来て、最近でこそプロデューサーやディレクターがフィーチャーされるようになってきた。

 海外の開発会社の構造で言うと、プロジェクトのヘッドがプロデューサーであり、実際に会社組織でいうところの権限保持者であり責任者であるわけですな。ロースペック機においては数人でモノを作ることも可能であったわけですが、昨今の大プロジェクトでは何十人、いや、何百人という開発者を束ねてひとつの物を作っていくという、「クリエイター」としての素質だけでなく「マネージャー」としての格も問われるようになった。一方、日本の場合は、取りまとめ役というよりは、クリエイティブな職人連中の先頭を走っている人、って感じだから、同じ「プロデューサー」と言えども、若干趣が違うよね。

 そういう意味では組織的に形を作って、その枠の中で合理的な分業をしてゲーム開発をする海外の形と、ダイナミズムを持って職人芸を組み合わせることにより限られた期間できっちりゲームを作ってしまう日本の「開発」のあり方(もちろん、ひとつの会社内のチームで作り上げるっていう日本の作り方もたくさんありますからね。あくまでも極端な話ってことで読んでくださいね!)の違いにちょいとびっくりする外国勢も多数いらっしゃいましたよ(ま、ほとんどの外国人は、日本がこのような特異な形態を取っていることを知らないんだけどね〜)。

 GDC(Game Developers Conference)での講義なんぞを聴いていると、日本からのプロデューサーまたはディレクターのお話が非常に「クリエイティブ」なところが多いのに対して、海外の人たちの「組織論」や「コンセプトのコンセンサス」的な話になっている。「個」を重んじる日本と「組織」でモノを作っていく海外の違いって感じですが、な〜んとなくステレオタイプで見る日本と海外との下馬評とまったく正反対な感じよね〜(笑)。

職人芸で組織的積み上げと対抗?

 どちらもいいところとそうじゃないところがあると思うけど、ゲームをビジネスとして捉えている海外の分業のやり方は知っておきたいところだし、また、ハニィの役目としても、根本的にゲーム作りの組織が日本では違うってことを海外の人たちに理解してもらわないといけないのよね。ご多分にもれず、ハニィも日本の形がフツーだと思っていたわけで、海外ではそうじゃない。実は日本が「異質」だったのであった……。

 ここでこれって、ビジネスなのかアートなのかって話と似てると思うに至った。ハニィとしては両方あってもいいと思うけど、アートと言う意味でも分業をしている海外のクオリティは高いと思う。ま、お金かけてるから当たり前なんですけど(笑)。日本の市場があまり芳しくないから、少ない金額で効果的にモノを作っていかなくちゃならない現状としては、寄り合って得意な分野で協力しあうってのはとても当たり前の流れなんだろうな。そこで総合的に見たときに、現状では功を奏していないのはなぜか? と考えてみた。

 それは、「かけられるお金がない」――これに尽きる。日本市場では高額な開発費をリクープする市場がもう国内にはない、という悲しい現実があるのだ。となると、やっぱり市場が大きい欧米ではデベロッパーがかけられる金額が違うわけだし、思い切ったこともできるわけさ。でも、日本のデベロッパーは少ない原資で競わなきゃいけないから、あの手この手で最大限のものをひねり出すわけです。涙ぐましい、ホントに職人芸なわけですな。

いいものは残して新しい風を

 日本発のゲームソフトが海外からも安定的な収益が確保でき、リスクヘッジしやすい環境を作らない限りはこのスパイラルからは逃れられないでしょう。そのためには、お金の出所を画策するのもひとつの手だけど、職人芸に新たな風を入れてみることも考えて欲しいの。かけられるお金が違うんだったら、真っ向勝負してもしょうがないわけで、どうせ「異質」なんだったらとことん日本風を作り上げてしまえばいい。新しい風が開発費のギャップを吹っ飛ばす「特異性」を発揮してくれるかもしれないじゃないですか。

 最近ハニィが最も懸念していることは、若い人たちが「ゲーム業界に入ってゲームを作りたい!」って思ってくれない状況になってしまったらどうしよう、ってこと。ゲーム業界が活性化して、イケイケであるためには、これからの人たちを育てること、もっと言ってしまうと、これから業界を引っ張っていく人たちが入り口に並んでくれることが重要であって、現状をローリングしていくことだけに必死になっている場合ではないということじゃないかと。

 職人芸を維持するがために、新しい風を封鎖してしまうと、時代の流れには逆らえず淘汰されてしまうことだってあるのだ。もちろん、過去のいいものは残すべき。でも、それにこだわっててもしょうがない。職人芸でダイナミズムを持っている状況であるはずなのに、業界の若い人たちが「やったるで〜」って言うよりは、いろんな人の顔色を伺って「中庸」を取る、または業界牽引者が「当事者」ではなくて「批評家」になっている。まさに「サラリーマン化してる」ってのはとっても奇異な感じがするし、バランスが取れていない気がするのだ。

 エンターテイメントなんてチャレンジングで新しいものであったはずでしょう? “学ばないクリエイティブ”(学習しないってことじゃなくて)、過去にしばられないクリエイティブがそろそろ誕生してもいいはず、と思う今日この頃。言うは易しではございまするが……。

ハニィのあとがき

 またまた勝手なことを書きなぐってみましたが、日産自動車の社長だった久米豊氏が、バブル時代に「Unlearning」という言葉をテレビでおっしゃっていたことを思い出しました。過去を「学ぶ」ことは必ずしもプラスばかりではない。新しいものを拒絶する元にもなってしまうと。確かに。過去の成功の遺産やプロセスは、環境や状況が変わると「使えないもの」になってしまうこともある。時代にマッチさせるには「捨てる」ことも「新規に取り入れる」ことも必要なのだなと。

 海外と日本でモノづくりのあり方が違うのは、悪いことじゃないと思う。違うってことだけ知っててほしい。でも、日本の業界がせっかく持っている「柔軟性」というダイナミズムを失いつつある、ってことも考えないといけないかなぁと。「今までどうだった」ではなく「これからこうしたい」へと変化してほしい。精神論かよ、と突っ込まれそうだけど。膠着化の原因は実は「変化」を恐れているからではないのかな? 「変化」をリスクと考えるなら、できる範囲でのリスクは今のうちに取っておくべきだ。追い込まれたらさらにリスクは取れなくなってしまうのだから……。

 さて、前回報告したEAとTake2の一件は、「GTA IV」発売後に動きがあるかと思いきや、まったく動きがありませんな。相変わらずTake2は、EAのオファーを拒否し続けていますね。

 また、7月にLA Convention Center で行われるポストE3(E3 Media & Business Summit)に関して、NC Soft、Foundation 9、Atlusなどが参加しないと表明していているの。今となっては世界最大のゲームソフトパブリッシャーになりつつあるActivision Bllizardも不参加を発表。その時期に自ら別イベントをすると発表したから、またまた混迷の(っつーか、しょぼい)E3となりそうな予感……。

 そういえば、ドイツで行われているGames Conventionのアジア版が今年からシンガポールで開催されるって発表もありましたの。予定されている会期は9月18日〜9月20日の期間。7月はE3、8月はドイツのGames Convention、9月がGames Convention Asia、10月は東京ゲームショウ。今年度も忙しくなりそうですな。ここで日本のタイトルがひとつでも多くフィーチャーされてほしいなぁと思うハニィでした。北京オリンピックも合わせて「ガンバレ!日本!」。

くねくねハニィのプロフィール

1967年アメリカサウスダコタ生まれの日本人。

小学生からはゲームセンターに通いまくってやたら大きく育つ。

1990年に都内K大学を卒業後、大手ゲーム会社にて海外ソフト担当となり、2001年に退職。それ以降は自称フリーのゲームアナリストとして暗躍。暗躍しすぎたので名前を変えて表舞台に。くねくねと唐突に現れて「親父ギャグ」をかまして周りの人々のレベルを下げまくる困ったやつ。独特の語り口調ですが、もう慣れてくださいとしか言えません。言ってる中身は至極マジメなので。ちなみに「風来のシレン」が好物で、名前もそこから借用。なんだか公認してもらったそうです。

今回は、翻訳版も意訳版もやりませんよ。それはそれで楽しみだった方はお便りください。


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